nobara kodachi

「のばらさん」(AKETA’S DISK PLCP−58)
小太刀のばら

 ピアノトリオ。ドラムは野崎さんで、ふたりは夫婦。野崎さんといえば、関学の軽音にいてはったころ、ジャムセッションや関学の定演やらでよく聴いた。芳垣さんがその当時はバリバリのエルヴィンだったのに対して、野崎さんはバップを極めた感じで、セッションで叩いていても、ああ、曲をよく知ってはるなあと思った。たとえばチャーリー・パーカーの曲などでも、テーマをちゃんと合わせてくれるし、曲をちゃんと知っていないとできないような叩き方をしてくれる。まあ、そんな古い話はどうでもいいのだが、本作でも野崎さんの絶妙のサポートが光る。主人公の小太刀のばらさんのピアノは、2曲目の「センチメンタル・オーバー・ユー」などのスタンダードを聴くとよくわかるが、かなり自由奔放で、思いついたら、全体の構成よりもその場の気分を大事にして、どんどん広げていく感じ。音使いも、ときにモンクのように、少ない音数と間で時空間を構築していく。テクニックを見せびらかせて、すげーすげーと言わせるタイプではないが、心に染みる。染みまくる。ライヴ録音だが、粗いところは一切なく、スタジオ録音のように丁寧で、気配りが隅々まで行き届いた演奏。ピアニストがリーダーとして仕切る、というより、3人が一体となった、ピアノトリオならではのインタープレイも味わえる。1曲目はオリジナルで「七夕」という曲。いきなりゆったりした、バラード的感覚の曲を持ってくるあたり、自信のあらわれだろうか。これが、何度聴いているうちに、めちゃめちゃええ演奏であることがわかってきて、もうトリコになります。このひとの演奏は、東京のジャズシーンの一時のピアニストたちに連なる系譜を感じさせるところがある。この曲など、ソロのときに、あの呻き声をかぶせてみたら、明田川荘之さんを思わせないか? サポートのない無伴奏でのベースソロ(エレベだと思う)もいい。2曲目はさっきも書いたスタンダードで、かなり自由度の高いピアノの無伴奏ソロからインテンポになりベースとピアノが入ってくると、急に訥弁な、モンク的な演奏になり、いやー、すばらしいです。音をひとつひとつ選びまくっている。ときどき、音がふーっとなくなったりするが、それも美味しい瞬間である。ベースソロはウッドベースだと思うが、なぜ変えたのかな。ええソロでした。3曲目は「すっとこどっこいたのしいな」というオリジナルで、モンク的なところもある曲。「エピストロフィー」を逆にしたような、というか……(意味わからん?)。曲と遊んでいる雰囲気がすごくいい。たわむれている、というか、曲をつんつんしたり、かきまぜたり、こねくりまわしたり、ひっぱたいたりして、出てくるものを楽しんでいる。4曲目は「エンドレス・ジレンマ」というオリジナルでバラード。コルトレーンのコンポジションのようにリリシズムあふれる曲(コルトレーンの曲に似ているという意味ではない)。途中からまた、モンク的なアプローチがたびたび聴かれる。ライヴだが、最後まで緊張感を保った、りりしい演奏。最後は、マイルスの「マイルス・アヘッド」をゆったりとしたテンポで。ここでも、曲とたわむれているような姿勢が見られる。ここでのベースソロは骨太な、いかにもジャズ的なソロで、ゆったりしたグルーヴがあって心地よい。全体に、ゆっくり目のテンポの演奏が多く、唯一の例外は「すっとこどっこい」なのだが、そういう意味で最初はとっつきにくいかもしれないが、聞き込んでいくと、ドはまりする。私もそうでした。なので、何度もしつこくしつこく聴くことをおすすめします。でも、フツーのひとはピアノトリオになれてるから、そんなことないかも。最初からはまるのであれば、そりゃそのほうがいいもんね。失礼しました。