kazuya kosaka

「青春の小坂一也全集」(日本コロンビア COCP−36564〜5)
小坂一也(徳光和夫とくモリ!歌謡サタデー」PRESENTS)

 この二枚組を買ったのは、結局「16トン」という曲に導かれて、ということになるのだろうな。小学生のとき、父親にこの曲の日本語版歌詞を教えてもらったのだが、それ以来その歌詞を見かけたことがなかった。オリジナルがだれだかはよく知らないが、オールデイズ的にいちばん有名なのはテネシー・アーニー・フォードのバージョンでバリトンヴォイスが印象的である。ロカビリー全盛のころの日本では当然のようにカバーがいろいろ吹き込まれたようだが、うちの父親に教えてもらったのは「おいらの商売炭鉱夫……」というやつで、その後、いろいろ見てもそういう歌詞の音源は見あたらなかった。フランク永井(テネシー・アーニー・フォードと同じくバリトンの魅力の歌手ではあるが)系の「やっさーもっさーえんやさー」というのしか見つからないのだ。しかし、つのだじろうがけっこう何度も引用(?)しているように、「おいらはもぐら……」系の歌詞があったことはあったのだろうなあと思っていると、それは小坂一也が歌ったものだった、ということがわかったのだ。小坂一也は軽くて爽やかな声の持ち主で、テネシー・アーニー・フォードやフランク永井とはまるでちがうが独自の魅力を発揮している。この二枚組を聴いての感想としては、当時のロカビリー歌手のなかで小坂一也はちゃんとした(?)カントリー・アンド・ウエスタンのひとで、ロックンロールとかロカビリーも歌うが、その足場はカントリーとかヒルビリーにあるように思った。西部劇主題歌の日本語カバーが多いのも印象的だった。「ワゴン・マスター」「モンタナの月」「デビイ・クロケットの歌」「テキサスの黄色いバラ」「フィドル弾きのジョー」「幽霊の町」「ロンサム・カウボーイ」「ローハイド」「無敵のライフルマン」……といったレパートリーにその立脚点が現れている。また、当時のロカビリー歌手の多くがカタカナ英語的な歌い方だったのに比べて、このひとはきちんと英語の発音ができていて(とはえらそうな言い方だが)、違和感がない。しかし、私がいちばん感心したのは一曲目に入っているオリジナルソングの「パパはSinger」という曲で、こんな曲があるなんて知らなかった。これはすばらしいですね。この一曲を聴くためだけでこのCDを買う価値があると思った。