「WHEN THE SUN IS OUT YOU DON’T SEE STARS」(FMP CD 38)
PETER KOWALD/WERNER LUDI/BUTCH MORRIS/SAINKHO NAMTCHYLAK
凄まじい。20曲の短い演奏が入っているが、どれも濃密で、真剣に聴いたら半分ぐらいでへとへとになってしまう。でも、楽しい! 実はこのアルバムのことは知らなくて、中古でたまたま手にしたのだが、いやー、出会いというかなんというか、そういうことがあるんですなー。一応、ルディはサックスだけ、ブッチ・モリスはトランペットだけ吹いてる表記になっているが、実際にはどちらもヴォイスのパーセンテージが高くて、ルディによる朗読(?)とサインホの共演、三人によるヴォイス、コバルトの骨太なベースにルディとモリスがひたすら楽器をカタカタ鳴らすだけのパフォーマンス、コバルトのアルコにサインホにルディのマウスピースのトリオなどどれも最高です。ヴェルナール・ルディがまともにサックスを吹いてる曲がすごく斬新に感じられたりして。とくにサインホの千変万化ぶりはえげつない。叙情的(と言っていいのか?いやー、四人とも凄すぎる。スーパーカルテットだ。大傑作。最初に名前の出ているコヴァルトの項に入れた。
「OFF THE ROAD」(ROGUEART ROG−0008)
PETER KOWALT LAURENCE PETIT−JOUVET
とにかく内容が濃い。濃すぎる。ペーター・コバルトが映像作家のローレンス・ペティ・ジュヴェと組んで作成した3枚組だが、1〜2枚目はDVDで3枚目がCDである。まずはCDを聴いてみましょう。
1曲目はコバルトとウィリアム・パーカーのベースデュオだが、これが圧倒的な聴き応えの演奏。ふたりともピチカートにアルコにとベースの表現力のすべてを発揮したようながっつりのデュオで、めちゃくちゃ面白い。こういうのをスピリチュアルジャズというなら納得である。リズムに乗ってガンガン行きまくるような演奏でもっとやってほしいと思った。2曲目はコバルトとドラムのアルヴィン・クイーンにテナーのキッド・ジョーダンが加わったシンプルなトリオで、ここでのキッド・ジョーダンのソロは骨太なフリージャズだが、モードジャズ的にゴツゴツしたフレーズを凄まじいスピードで積み上げていくような演奏でもあり、圧倒的な感動を呼ぶ。つづく3曲目はペーター・コバルトのソロで、本当にベース一本でここまでの表現力というのはすごいとしか言いようがない。何度聴いても力強さのなかにしみじみした味わいがくみ取れる。4曲目はジョージ・ルイス(アコースティック)とコバルトのデュオでしみじみした雰囲気ではじまるが次第にノイジーな技の応酬となって高まっていく。また静謐な場面が来たりして、10分ほどの短い時間のあいだに山あり谷ありのかなり濃厚なドラマが展開するのはさすがの手練れふたり。堪能しました。5曲目は前衛パフォーマーでヴォイスのアンナ・ホムラーとコバルトとのデュオ。かなりアグレッシヴで様々な要素をぶちまけたような即興で、ホムラーは電子音やヴォイスチェンジャー的なエレクトロニクスなどを駆使し、コバルトはコントラバスだけでそれに応じる。テンションの高いデュオ。6曲目はアルトのマルコ・エネイディ、トランペットのエディ・ゲイル(!)、ドラムのドナルド・ロビンソンによるオールドスタイルな「フリージャズ」的カルテットだが、これがめちゃくちゃいい。マルコ・エネイディはジミー・ライオンズを想起させるような力強く瑞々しいアルトで、ライオンズに師事していたらしい。セシル・テイラーのユニットに参加していたこともあるらしく、リーダー作も多数あるようだ。かなりアクの強いアルトプレイは一度聴いたら忘れられない感じの名手。そして、エディ・ゲイルといえばあのブルーノートのゲットーミュージックなどが有名なひとだが、ここでは完璧にインプロヴァイザーとしての演奏に徹している。ドラムもめちゃくちゃいいし、コバルトのパワフルな演奏も圧巻……というすばらしいカルテットで本作の白眉と言っていいかも。そして最後7曲目は、おなじみ(?)のフレッド・アンダーソン〜ハミッド・ドレイクのデュオにコバルトが加わったトリオ。ドレイクのヴォイス、アンダーソンのテナー、コバルトのベースによる呪術的なサウンドで幕を開け、テナーが心に染み入るような哀切なメロディを奏でるが、シンプルなテナーのバックでコバルトとドレイクが複雑でいきいきした波を送り続けており、全体としてテンションを高く維持した演奏になっている。次第にアンダーソンが高揚していき、パーカッションとベースもひたひたと寄り添うように高まっていく。このノリは本当にやばい。これはフレッド・アンダーソンの数々ある録音のなかでも最高ランクに位置するような演奏だと思います。かっこええぞーっ! フェイドアウトするのは惜しい。
一枚目のDVDは「オフ・ザ・ロード」というタイトルのペーター・コバルトを中心とした音楽ドキュメントで、2000年のアメリカツアーのときのもの。つまりは3枚目のCDの内容と同じもの。CDで聴くより映像があったほうがずっと生々しいが、純粋に音楽として聴くならCDのほうがいいだろう。だから両方収録されているこのアルバムはたいへんリスナーに対して親切だと思う。私は3枚組のなかではこの最初の「オフ・ザ・ロード」が好きだ。字幕はフランス語だが、コバルトの英語は聴きとりやすいので大丈夫(?)だと思う。とくにアンナ・ホムラーとのコラボは映像があったほうがぐっと迫ってくる。とにかく編集がすばらしくて、ニューオリンズの映像は最高だし、ジョージ・ルイスとのデュオの生々しさも短い時間だがすごい。テルミンを奏でている手はいったいだれだろう。ゴミ(?)と共演するトランペット。ピアノの蓋を開け閉めする音。演奏はどれも短くBGM的に扱われているように聞こえるがそうではなく編集によって最大限の効果をあげている。ニューヨークでのヴォイスとの共演のあと、海辺で岩をアクロバチックに積み上げているおっさんの映像になったりするのだが、そういうあたりのわけのわからなさがなんともいえないほっこりした雰囲気をかもしだしている。オークランドでのラップとの共演も意表を突くもので、痙攣するようなアルコにラッパーが溶け込んでいるのがすごい。バークリーでのカルテットの演奏はいちばんブラックミュージックとしてのフリージャズを感じるものだ。バスクラのひとは覚えがあるのだが誰? 地下鉄の構内でワンストリングベースを弾きながら歌うボーカリスト。そして奔放なベースデュオ。とにかく全編、ペーター・コバルトというグレイトなミュージシャンの息吹を伝える映像で、それは大成功していると思う。
二枚目は「シカゴ・インプロヴィゼイション」というタイトルでドキュメンタリー風の構成になっている。2000年のエンプティ・ボトル・フェスティヴァルでの演奏で、ギリシャ生まれのサックス〜バスクラ〜クラリネット奏者フローロス・フロリディス、フリージャズ初期からの猛者ギュンター・ゾマーのトリオではじまるが、コバルトの額に浮かぶ汗などを見ていると臨場感が迫ってくる。コバルトのコントラバスがかなり年代物で、正直相当ボロい感じであるのもわかって、それも含めて感動的である。フロリディスのソプラの無伴奏ソロ(循環呼吸)からゾマーの朴訥だがまさにフリージャズという感じのブラッシュソロ(タムのかわりに変な打楽器がセッティングしてある)もすばらしい。インタビューを挟んで、ゾマーが口琴、フロリディスがバスクラ、コバルトがアルコといういかにも「フリージャズ」っぽい演奏。またインタビューを挟んで、汗だくの三人によるアルト〜ベース〜ドラムの即興だが、やはりスウィング感のある「ジャズ」的であり、そこが魅力のひとつである。インタビューでもそのあたりがかなり細かく語られている。つづいて同じときのスタジオ録音でケン・ヴァンダーマークとコバルトのデュオ。テナーやバスクラ、E♭クラリネットを駆使しての演奏はやはり映像で見ると生々しい。一対一のデュオだが、2001年のこの感じだと、ヴァンダーマークのがんばりに比べてコバルトは余裕で受けているように思える。しかし、深いところでしっかりわかり合えているような演奏。終わってヴァンダーマークのため息(?)がリアルでドキュメントっぽい。はあはあ言っていて、全身全霊を傾けての演奏であることがよくわかる。このふたりの対峙は緊張感もあり、観ているとひりひりするような踏み込んだ感じがある。この一連のデュオは本当に濃密で、テンションも高く、最高の演奏だと思う。そのあとフレッド・アンダーソン、ハミッド・ドレイクとのトリオが収録されているが、これはいわゆるアンダーソン節というか、アンダーソン独特のフレーズを押し出したもので、それにドレイクのいきいきとしたドラムががっつり組み合わさったデュオにコバルトが参加しているが、まったく違和感がない。フレッド・アンダーソンのご機嫌なインタビューを挟んでかなり長尺なトリオによる演奏が展開するが、今日やるべき仕事は全部やったし、飯も食ったし、風呂も入ったし、あとは寝るだけ……というようなときにこの演奏をくつろいで聴くと、カリカリした感じでフリージャズを聴くのとはまたちがったリラックスしたフリージャズというものを味わえるのではないかと思う。またインタビューを挟んで、コバルトのアルコソロがあるが、これはマジですさまじい演奏。客とか関係ない、ひたすら自己と向き合った純粋なソロ。感動します。この相当長尺のベースソロでこのDVDは終わるが、まさにエンディングにふさわしい演奏である。ホーメイ的なヴォイスを繰り出しながら弓を弾くコバルトのソロはワンアンドオンリーの存在感だ。
とにかく「たっぷり」の内容で、どれもこれも研ぎ澄まされているので、ぜひ聴いて、観てほしいです。傑作!