「THE DRUM BATTLE」(VERVE 314 559 810−2)
GENE KRUPA AND BUDDY RICH AT JATP
ある作品の参考レコードとして購入したのだが、結局それには使わなかった。しかし、買ってよかった。というのは、内容がすばらしすぎるから。そういうことでもなかったら永遠に手にすることはなかっただろう。というのは、テナーが入っていないから。私にとって、テナーが入っていないスウィングジャズのアルバムは、完全に守備範囲外なのだ。さて、本作は、タイトルはドラムバトルとなっていて、いかにも全曲、ジーン・クルーパとバディ・リッチのバトルが繰り広げられているすごい騒々しい派手なアルバムのようだが、じつは共演しているのはたった1曲(3分半のみ。サギじゃーっ)。しかも、JATPでのライブにおけるセッションを収録しただけなのである(ドラム合戦のみの演奏)。ジャケット裏のパーソネルを見ると、ロイ・エルドリッジ、チャーリー・シェイバース、ベニー・カーター、フィリップ・フィリップス、レスター・ヤング、エラ・フィッツジェラルドらが参加しているように書いてあるが、これもその1曲だけで、あとは全部、アルト奏者ウィリー・スミスのワンホーンもの、しかも、なんとベースレス編成のトリオなのである。いやー、それを知ってたら買わんかったやろなあ。しかも(しかもが多くてすまん)、実際にはレスター・ヤングらはソロをしておらず、テーマ部分に加わっている(のかいないのかもよくわからん)だけである(エラはテーマからスキャットをしている。また、フィリップ・フィリップスのソロはなかなか手慣れたブロウで盛り上げてくれる、ホンキングのお手本のようなすばらしい演奏だが)。だから、本作は「ドラムバトル」を除くと、ウィリー・スミスのワンホーンによるジーン・クルーパのベースレストリオのアルバムということになるが、これが……めちゃめちゃすばらしいのである。ウィリー・スミスって、スウィングのファン以外のひとにとっての印象ってどんなもんだろう。私にとっては、まず思い浮かぶのはライオネル・ハンプトンの「スターダスト」でのソロやナット・キング・コールの「アフター・ミッドナイト」での演奏程度か。みんなそんなもんちゃう? スウィング3大アルトのひとりとして有名だが、ほかのふたり、ジョニー・ホッジス、ベニー・カーターに比べると、演奏的にはちょっと落ちるなあというイメージだったのだが、いやいやいやいや……本作を聴いて、完全に「なぜ彼が3大アルトのひとりなのか」という疑問が氷解しました。いやー、マジですばらしい。よく知らんのでええかげんなことを言ってはいかんだろうが、このアルバムでの演奏はウィリー・スミスの最高のプレイのひとつではないでしょうか。熱いブロウも、ジョニー・ホッジス的な流麗なバラードも「完璧」である(ルイ・ジョーダンを連想させる部分もある)。音色もほれぼれするようなすばらしさ。しかも(またしかもか)ベースがいないのに、ピアノのバッキングだけを頼りにウィリー・スミスは吹きまくる。ベースの低音がなくても、音楽としてまるで違和感がない。こういう編成は当時はさほど珍しくなかったのではないか。ベニー・グッドマンのトリオとかジーン・クルーパ来日時のチャーリー・ベンチュラを擁したトリオとか。あれ? どちらもジーン・クルーパがらみか。ということは、ジーン・クルーパがベースレスが好きだったというだけか? そのあたりのことはスウィングジャズのことをまるで知らない私にはわからないが、とにかくピアニストさえ選べば、ベースがいなくても、こういったフツーの音楽もできるのだ、ということを教えられた(ちなみにグッドマントリオはもちろんテディ・ウィルソンだが、本作のピアノはハンク・ジョーンズ。さすが!)。いやー、この編成で「フライング・ホーム」とか「ドラム・ブギー」とかできるんやなあ。「ソフィスティケイテッド・レディ」もいい。ウィリー・スミスの話ばかりになったが、ジーン・クルーパもすばらしいです。