katsuo kuninaka

「暖流」(FRASCO FS−7027)
YOSUKE YAMASHITA PRESENTS KATSUO KUNINAKA

 国仲勝男の初リーダーアルバムで、武田和命の初レコーディングらしい。山下洋輔がプロデュースしているが、山下人脈総動員のような内容で、これならリーダーの国仲の演奏がしょぼくても、○○や××や△△を聴くだけで元がとれるわい、とリスナーに思わせてくれるような豪華な布陣。しかも、肝心のリーダーの演奏はというと、しょぼいどころか、その豪華な布陣を向こうにまわして、堂々たるものだから再度びっくりさせられる。一種のショウケース的なアルバムなので、国仲のもつさまざまな側面に光を当てようとしており、そのためちょっとバラけた印象もあるが、通して聴くと、国仲勝男という稀代の怪物ベーシストの全体像がクローズアップされる仕組みになっており、さすがの山下のプロデュース力である。白眉はB−1のベースの無伴奏ソロだと思うが、国仲〜山下デュオによる「グッドバイ・ポークパイ・ハット」は絶品。向井、清水靖晃、古澤参加の「カ・プランガ」は古澤のリーダー作といってもおかしくないぐらい楽しい演奏だし、坂田明の加わった曲は坂田ファンにはうれしい贈り物。だが、話題はなんといっても武田フィーチュアのバラード「バグス・グルーヴ」だが、音も細く、リズムもややうわ滑りしており、山下トリオや自己のグループでゴリゴリ吹いていたあの存在感はまだ希薄。復帰して間もないからかなあ、と思っていたのだが、少しあとに録音された「ゴールデン・ライヴ・ステージ」での「ジェントル・ノヴェンバー」などは堂々たる演奏なので、たぶん初録音ということで硬くなっていたのだろう。それにしても、武田はフレーズもノリも独特で、一度聴いたら忘れられない個性の人である。国仲のリーダー作はいろいろあるが、一番好きなのは「ダンシング・アイランド」である。しかし、本作も忘れがたい魅力のあるアルバムです。

「ゴールデン・ライブ・ステージ」(FRASCO FS−70337)
KATSUO KUNINAKA

 国仲勝男のアルバムとしては二作目だが、ラジオ番組をそのままレコードにする、というかなり大胆な試みであり、アルバムタイトルもラジオ番組のタイトルそのものである。デビュー作「暖流」同様、山下洋輔が全面的に仕切っており、「暖流」のライヴバージョン的な内容でもある。山下さんが「アンブレラ・ダンス」で(これも「暖流」と同じく)なぜかエレピを弾いており、なんでやねん? と思ったり、武田さんの「ジェントル・ノヴェンバー」は味あるなあ、と思ったり、「カ・プランガ」での向井はさすがの歌心やなあ、と思ったり、国仲さんのベースは、ぶんぶんいう強力なベース……という感じではなく、音も伸びないが(だって、ウッドベースをはじめてまだ間もない時期なのだ)、そんなこと関係なく、どっしりした、豪快な、いいベースだなあ、と思ったり……いろんなことを思わせてくれる、おもちゃ箱をひっくり返したような、にぎやかな作品。

「DANCING ISLANDS」(日本フォノグラム/NEXT WAVE 25PJ−1008)
国仲勝男

1980年ドイツのドナウエッシンゲン音楽祭「日本ジャズの夕べ」のトップバッターである。リーダーは國仲勝男で、4曲とも國仲さんのオリジナルである(ええ曲ばっか!)。ヨアヒム・ベーレントの丁寧で真剣なメンバー紹介(名前を言いにくそうにしているが、きっちりと発音していて、たぶん何度も練習したのだろうと思われる)のあと1曲目「ニーチェストリート26」がはじまる。モンクやドルフィー的なものが感じられるテーマで、梅津のバスクラが効いている。普通にスウィングする4ビートの曲なので、どうなることかと思っていると、先発の梅津のバスクラがいきなりすべてのムード(?)をセッティングするような演奏を開始する。手探りだったのはほんの一瞬だけで、あとは自信に満ちた梅津のペース。その諧謔的かつ真摯なソロの途中で國仲のベースが爆発して盛り上がりを示す。おそらくこのあたりでドイツの聴衆の心をがっつりつかんだと思われる。つづく向井のソロも「バップでもモードでもフュージョンでもない」やつで、このひとは坂田オーケストラをはじめ、こういう感じの音楽に関するセンスもすばらしい。力強く、しっかりしたアイデアに基づいた自由の気風に満ちたソロである。そのあと國仲の、例の、ああいうソロになる。「例の、ああいうソロ」と書いても「なんのこっちゃ」ということになるが、とにかく超個性的な、最高のベースソロなのである。このソロもおそらくドナウエッシンゲンの客の心に響いたと思われる。そして、小山彰太のドラムソロも、軽々と叩いているようだが、要所要所のビシビシと決まりまくるそのかっこよさは、モダンジャズの伝統に乗っとったものだが、ジャズがどうのフリーがどうの即興がどうの、ということを超越した、とにかく「小山彰太」的なドラムで聞き惚れる。2曲目はベースソロではじまる「白い大蛇の伝説」という意味深なタイトルの曲だが、ちょっと沖縄っぽい旋律である。向井のトロンボーン、梅津のアルトがこのメロディをドイツの空に響き渡らせる。このテーマを聴くだけで快感である。梅津と向井はこのテーマをめちゃくちゃていねいに吹いており、それだけで伝わるものがある。國仲のソロは民族音楽のようでもあり、ジャズの深いところにある「芯」のようでもあるが、とにかく力強くて、そして明るい。これは世界中のどんな聴衆にも届くだろう。どこが「白い大蛇の伝説」なのかよくわからないが、國仲勝男の凄まじいベースの表現力をフィーチュアした演奏である。
B面に移りまして、1曲目は「602号室の夢」というこれもよくわからんタイトルの曲。3拍子のモードが基本になってる曲だが、一度聴いたら忘れられないようなテーマ。ベースはずっと同じラインを弾き、独特の雰囲気というかグルーヴをかもしだす。向井のトロンボーンが先発だが、途中で梅津が入ってきて二管の交歓になり、そのあと梅津のソロになる。そして、ふたたび向井が戻ってきて、二管のインタープレイになる。そういう趣向である。ふたりとも、空間を生かした絶妙の演奏で、聴いてるとよだれが垂れる。よくよく考えてみたら、この「梅津〜向井」というフロントはかなりレアかもしれないが、ここではまるでそんなことを感じさせないような自然ですばらしい演奏になっている。ラストの「ダンシング・ヨースケ」もすごくいい曲(というかリフ)。テーマのあと梅津が「もうこの曲で最後だもんね」という感じで暴れだし、ひたすら吹きまくる。それに応ずる國仲のベースも最高である。この梅津のフリーキーなブロウのパートはかなり長くて、しかもまったくダレたりせず、すばらしい高揚を示す。なんとも生き生きとした演奏で、今聞いても素直に感動する。そのあとの向井のソロもめちゃくちゃすごくて、ギミックのない、パワフルで一瞬き迷いもないストレートアヘッドな吹き方である。おそらく当時のベルリンの聴衆もこのプレイには「納得」したと思う。ベースとふたりだけのフリーなパートのみずみずしさも40年以上を経た今聞いても「最高!」と思う。ノスタルジックな感傷がほとんどなくて、ただただ昨日行われた演奏のような感動があるのだ。小山彰太の超ロングドラムソロも、まったくいつもの小山彰太であって、それがベルリンの聴衆の心を動かしたのだから、小山たちがやってきたことはまったく正しかった、という証明でもある。ドラムソロのあと集団即興からテーマに戻る。どの曲も、たった四人とは本当に思えないダイナミクスと迫力があって、聴き終えると腹いっぱいになる。
久しぶりに本作を聞いたが、あまりに良くて、5日ぐらい続けて聴いてしまった。この演奏は日本ジャズに特有の要素が大量に入っていて、いわゆる中央線ジャズ的な良さがたっぷりなのだが、考えてみると、このアルバム(というかこのライヴ)は中央線ジャズをはじめて世界に知らしめた演奏なのでは……と思ったり思わなかったり……。この翌年が坂田オーケストラの「ベルリン28号」(向井も参加)になるのだ。傑作!