「REELIN’ WITH THE FEELIN’」(PRESTIGE RECORDS OJC−33/P−7688)
CHARLES KYNARD
30年ほどまえにはじめて聞いたときは、ウィルトン・フェルダー、もっとゴリゴリ吹けよ! と思ったが、その後、折に触れて聴き直すにつれ、だんだんとこのアルバムのよ素晴らしさがわかってきた。今ではめちゃくちゃ好きであります。傑作だと思います。このころのソウルジャズは(ライヴでもないかぎり)与えられたソロスペースのなかでしっかりと起承転結をつけたソロをするし、血管のちぎれるようなブロウをすることもないが、そういうなかでしっかりとコテコテの表現をしているのだ。チャールズ・キナード(カイナード?)といえば個人的にはスティットの愛聴盤「マイ・マザーズ・アイ」のひとなのだが、本作はソウルジャズというか、ジャズロックか。いきなりエレベで8ビートの曲がぶちかまされる。しかも、ギターがジョー・パス(!)。おいおい……と思ったが、さすがにジョー・パスはなんでもこなす。見事にこのコテコテのバンドで役割を果たしている。そして、テナーがウィルトン・フェルダーである。このアルバム参加時点ではすでにジャズ・クルセイダーズで名を挙げているころで、「ハーデスト・クッキン・プレイヤー・イン・カリフォルニア」と紹介されている。キナードは40代で早逝したひとだが、プレスティッジはスター候補としてガンガンプッシュしていたみたいで、豪華なメンバーのアルバムを何枚も残している。クリフォード・スコットやレイ・クロフォード、ブルー・ミッチェル、デヴィッド・ファットヘッド・ニューマン、グラント・グリーン、ヒューストン・パーソン、バーナード・パーディー、ラスティ・ブライアント、アイドリス・ムハマッド、メルヴィン・スパークス……といった「その道のひとたち」がずらずらと共演者リストに並ぶ。(本作もそうだが)リチャード・フリッツというアレンジャー(兼コンポーザー)がだいたい参加している。しかし、そういう錚々たるアルバムのなかでも本作が輝いているのはなんといっても(私が思うだけだが)ウィルトン・フェルダーの参加だろう。若きフェルダーは堂々たるブロウで演奏をぐいぐい引っ張っていて、フレージングもさることながら、その「音」の魅力はなにものにも代えがたい。年代的に、古いタイプのホンクなどはしないが、なにからなにまでソウルに満ち溢れたそのファンキーなソロは、のちのクルセイダーズ(ジャズクルセイダーズじゃなくて)での洗練されたファンクネスとはちがった、より原点に近い熱いブルースを感じさせる演奏で、よだれが垂れまくる。基本的にはブルースペンタトニックによって構成されているフレージングが、ここまで魅力的に感じるとは、ただものではないですね。いやー、どの曲においてもすごいですよ。そして、主役のキナードもプレスティッジが期待を込めていただけのことはあって、ファンキーさ、ブルース心、豪快さ、押しの強さ……などオルガンのスターとなるべき素質を全部持っている。ジョー・パスも、アクの強い共演者に惑わされることなく、わが道を行くソロ(とバッキング)で、本当にかっこいい。これがグラント・グリーンだったら、とか、ビル・ジェニングスだったら……とか考えてみてもそれはハマりすぎであたりまえである。ここにジョー・パスの参加があったからこそこのアルバムは永遠の価値を持ったのだ……といったら大げさだろうか。超ノリノリの1曲目に続き、2曲目はなんと「ソウル・レゲエ」というタイトルの曲。リズム的にはぜんぜんレゲエではないのだが、曲調はたしかにレゲエっぽい。途中から登場し、16分音符で吹きまくるフェルダーのテナーもかっこいいが、そのあとのキナードのオルガンの爆発はすごい。そして、「みんな、頭を冷やせ」と言わんばかりのベースソロでいきなり終わる。え? という感じですね。3曲目は「スロー・バーン」というタイトルなのでスローな曲かと思いきや、ノリノリの曲でした(ブルースで、ノリは軽い)。ジョー・パスの端正なソロのあとに出てくるフェルダーのテナーがまさに「現代風テキサステナー」という感じのドスのきいた演奏で、かっこいいったら。そのあとのキナードのオルガンは、「みんな踊れ!」と言わんばかりの派手なもので、終わったあとのドヤ顔が見えるようだ。B面に行くと、1曲目は「ブーガルーイン」という変なタイトルのマイナーブルース……と思いきや、普通のブルース。2曲目は本作ではいちばんすがすがしい(?)曲だが、主役のキナードのソロはかなり激熱で凄みもあり、こってりしていて楽しい。続くフェルダーとショー・パスのソロはその熱さを受け継ぎつつ、さわやかな風のようでこれもまたよし。ラストの3曲目は速い4ビートのブルース。ポール・ハンフリーのドラムもノリもいいが、ビシビシと小技がきいていて、超かっこいいし、エレベのカロル・ケイ(と読むのか?)というひとも安定感抜群。そのリズムに乗ってパス→フェルダー→キナードとソロがチェイスされるが、まあ、難しいことは置いといて、ガーッ! と行こうぜ的な演奏で、めちゃくちゃかっこいい。あー、やっぱり傑作だ。