「CROSSING THE LINE」(JAZZ COMPASS JC1012)
PAT LA BARBERA QUINTET FEATURING RANDY BRECKER
エルヴィングループでおなじみのパット・ラバーベラが、これまたビル・エヴァンストリオなどでもおなじみの弟をジョードラムにすえたレギュラーバンド(?)に、ゲストとしてランディ・ブレッカーを迎えた新作。七曲中、スタンダード二曲とモンクの曲をのぞくと全曲自己のオリジナルでかためた意欲作。私はエルヴィンのグループにいたころからラバーベラのファンだし、グロスマンのようにギャーッと叫ぶことはないが、ひたすら中期コルトレーンを追求する姿勢は、リーブマンのように異常な感じもなく、アラン・スキッドモアのようにオタクな感じもなく、バランスのとれた、ひじょうに好ましいものに思えていた。生で二度ほど聴いたときも、もしかしたらエルヴィングループにもっともはまったテナー奏者はラバーベラではないかと思ったほどだ(「パットの希望で」といって「ハーモニク」とかを演奏していたが、こんな曲演りたがるというのは、よほどコルトレーンマニアなんだなあと思った)。リーダーアルバムも「パス・イット・オン」なども持っていたので、このアルバムのライナーに「本作は、私のアルバムのなかで、はじめてアメリカ発売された作品だ。私はこのアルバムの録音中、60歳になった」と書いてあるのを読んでびっくりした。へー、「パス・イット・オン」はたしかPMだが、あれってアメリカ発売されてないの? めっちゃ過小評価やがな。こんなにうまい人をなあ……。なぜラバーベラがそんな扱いのままだったかは、よくわからんが、フュージョン全盛期のころにそっちに色目を使わなかった、とか、エルヴィンのグループではつねに2テナーで、もうひとりのほうが目立っていた、とか、プレイがちょっと地味だ、とか、あまり押しのつよい性格ではない、とかいろいろあるのだろうが、やはりおかしいぞ。もっとラバーベラを評価しろ! って誰に言うてんねん。で、このアルバムだが、めっちゃかっこええ。ラバーベラ最高。曲は、なんちゅうか、七〇年代の感じ。そこに本人の熱いソロが乗る。ランディ・ブレッカーもがんばっている。こういう曲調でプレイさせると、ランディって、調子のいいときのハバードにちょっと似てるな(あくまで印象)。これはええアルバムですよ。とくに学生テナーマンとかには絶対おすすめ。なんとなくほかに買うものがなかったので買ったアルバムだが、大正解でした。しかし、ラバーベラも、もう60か……。
「PASS IT ON」(PM RECORDS ULX−116−PM)
PAT LABARBERA
ラバーベラの初リーダー作である。ラバーベラは「クロッシング・ザ・ライン」のライナーで「これが私のアメリカで発売される最初の作品だ」というようなことを言っている。たしかに、この「パス・イット・オン」のあとのリーダー作はそういう感じがするのだが、この初リーダー作はレーベルがPMなので、アメリカでも売ってたんじゃないのかなあ……わからないけど。PMはアメリカのレーベルじゃないの? まあ、それはともかく、私が高校生のときに生まれてはじめて買ったジャズ雑誌には、「ストーン・アライアンスの可能性は絶大だ」とかいうキャッチとともにたしかグロスマンが抜けたあとの4作目「ヘッズ・アップ」の広告とともに、このラバーベラの「エルヴィン・ジョーンズの庇護のもと急成長を遂げたパットの云々」という文章とともにこの「パス・イット・オン」の宣伝も載っていた。少しあとに、私はエルヴィン・ジョーンズ・ジャズ・マシーンでワンホーンのラバーベラを、しかも生音という恵まれた状況で体験することができ、うわー、ラバーベラすげーっ、と思ったので、本作を探したが、なかなか入手できなかった。結局そのまた何年後かに手に入れたのだと思う。このアルバムにはラバーベラの良さがいちばんよい形で詰まっている。このひとはとにかく真面目である。どんな曲をやるときも、ブロウする、とか、吹き飛ばす、といった形容とは無縁で、ぴしっと筋を通してきっちり吹く。グロスマンのように「音程? 音色? そんなもんどうでもええけんねー」というわけではなく、隅々にまで気を配り、最上のソロ状態を作り出すことに苦心する。しかし、グロスマンのように自由奔放ではなく、リーブマンのように真面目さが徹しすぎて狂気の域に到達することもなく、ブレッカーのようにさまざまな要素を複雑に組み合わせてワンアンドオンリーの個性を作りだすこともなく、アラン・スキッドモアのようにコピーを極めすぎて新しい宇宙へ行ってしまうということもなく、コルトレーンのフォロアー、それも超良質の、というところで終わっており、惜しい……というのがおおかたの見方ではないか。でも、私はラバーベラが好きなんです。音も、びりびり鳴りまくる、というほどでもなく、芯のある非常にモダンないい音で、しかも適度な音量で鳴っている、という控え目なすばらしい音である。それはソプラノもフルートも同じで、どれもめちゃくちゃうまくて言うことはないが、手堅いだけで、個性という点ではどうだろうか……という意見もあるだろう。しかし、じつはラバーベラはなかなかの個性派でもあり、暴れるときは暴れるし、しかも、一聴、中庸そうな演奏だが、よく聴くと、ていねいな積み重ねによる爆発とか、オリジナルなフレージングとか、音程、アーティキュレイション、高音から低音まで無理なく鳴っている心地よさとか、そういったものを総合的に計算してぶつけてくるので、本当のことをいうと、いつもこれ以上ないぐらい最高のソロを繰り広げているのである。しかし、それがややもすれば「地味」に聞えるのは、ウディ・ハーマン、バディ・リッチなどを渡り歩いたビッグバンド職人的な側面のせいだろうか。本作では、リッチー・バイラーク、ジーン・パーラ、ドン・トンプソン、ジョー・ラバーベラという最高のメンバーを得て、全曲オリジナルという意欲的な構成で気を吐く。どの曲も快調そのもので、これが初リーダー作とは思えない演奏ばかり。モーダルな曲ではかなりアグレッシヴにゴリゴリ吹く場面も多く、手に汗握る。B−2はドラムとのデュオでこれもめちゃかっこいい。リッチー・バイラークが(ライナーノートには、第二のビル・エヴァンスと紹介されているが)マッコイのようにガンガン行くのもいい。私にとっては、非常に思い出深いアルバムであります。