「FANTAZM」(JAZZ COMPASS JC1011)
JOHN LA BARBERA BIG BAND
ジャズフリーマーケットという催しのときに、せっかく来たんだからなーんか一枚、と思って購入したもの。パット・ラバーベラ、ジョー・ラバーベラの兄弟に、ジョン・ラバーベラというアレンジャーがいたとは、さほどビッグバンド好きではない私は知らなかったが、ウディ・ショウの「ムーントレイン」(うちのバンドでやってるのは、荒崎英一郎さんの編曲なので、このアルバムのものとはちがう)も取り上げているし、ソロイストとしてパット・ラバーベラ(めっちゃ好き)が入ってるし、損はするまいと思って買ったのだが、なかなかよかった。派手すぎず地味すぎず大げさすぎず渋すぎず新しすぎず古すぎず……中庸のよさといえばいいのでしょうか。「ムーントレイン」と「ジン・ザク」という曲あたりが一番モダンで、なかにはベイシーか?と思うようなシンプルで楽しい曲やラテンの明るい曲、バラードなどもあり、破綻もなく、まさにお手本のような演奏。メンバーは全員手堅い実力者揃いで、おそらくビッグバンドマニアなら名前を知っているひとも多いのではと推察される。ソロイストもパット・ラバーベラはもちろん、ラッパのクレイ・ジェンキンスやサックスのボブ・シェパード、そしてドラムのジョー・ラバーベラなど豪華。なかでもやはり目(というか耳)をひくのはパット・ラバーベラで、このひとはほんまうまいわ。ジャズマシーンで見たが、(狭い店だったため)マイクを立てていないのに、ぶっとい音ではないが芯のあるすばらしい音なので、エルヴィンの轟音ドラムにもマスクされず、ちゃんと後ろの客にまで届いていた。4曲目のバラードで大フィーチュアされるが、こういう演奏もうまい。伸びのある高音は、コルトレーンマナーで甘くないので、逆に聞き惚れるし、6曲目のブルース(曲およびアレンジとしてはこの曲がいちばん好きかも)でのテナーソロはあまりに完璧で、書いてあったんとちゃうの? と疑ってしまうほど。もちろんボブ・シェパードはアホみたいにうまいし、クレイ・ジェンキンスはモーダルなフレーズも吹けるし、めちゃうまいので好きです。こういう風に、ソロイストだけに耳がいってしまう私は、正直、ビッグバンドをどうこういう資格はないのです(そのわりにコラムを一杯書いているが)。その他にも、私が名前を知らないひとではあるが、5曲目の3拍子の曲で大ブロウを繰り広げる熱血アルトのキム・リチャードというひとややたらうまいトロンボーンのアンディ・マーティン、6曲目のマイナーブルースで細かいフレーズを吹きまくるトロンボーンのボブ・マックチェズニイ(と読むのか?)、ラストの曲(大げさなブラスてんこもり。なおこの曲のソロイストはボブ・シェパードのソプラノと表記されているがテナーなのでもしかするとラバーベラ?)で大フィーチュアされるトランペットのウェイン・バージェロン(なんか名前聞いたことあるような気がする。きっと有名なひとなのだろう)など、みんなすごくいい。タイトルチューンの「ファンタズム」はエリントンナンバーで、バスクラがイントロを吹いたりテーマとからんだりする、マイナーとメジャーの交錯する怪しげな曲。このアレンジはなかなかすごい(ソロイストのところにラバーベラがテナーと書いてあるが、ソプラノなのでもしかするとボブ・シェパード?ラバーベラが持ち替えているかもしれないけど)。トランペットセクションでめちゃめちゃハイノートできっちり吹くひとがいるし(それがウェイン・バージェロン?)、ビッグバンドファンは聴かない手はないですよ。なお、ジョン・ラバーベラ・ビッグバンドのアルバムはほかにも出ていて、そちらはグラミーにノミネートされたらしい。