「AND OTHER DESERT TOWNS」(RELATIVE PITCH RECORDS RPR−1018)
INGRID LAUBROCK & TOM RAINEY
イングリッド・ロウブロック(と読むものだ思ってたら、ディスクユニオンではラブロックと表記されているので以下それに従います)とトム・レイニーのアルバムは何枚か出ているが、デュオというのははじめてではないか? ちがうか? これまで私が聴いたラブロックが参加しているアルバムは、けっこうちゃんとしたコンポジションがあるものが多く、こういうほぼ全面即興のものははじめて聴くかも。全体に抑制された表現のものが多いようで、1曲目などは微細な変化を聞きのがしたら、ほとんどなにも起こっていないように聞こえるのではないか。聴くものに集中をうながすへヴィなインプロヴィゼイションだが、こういうのも好き。ラブロックはテナー、ソプラノ吹きという印象があるが、このデュオではアルトもかなり使っている。アブストラクトではあるがメロディやリズムを崩さない吹き方なので、激情やノイズ、オーバーブロウのかわりに、非常にクールで繊細で(もっと俗っぽく言うと)抒情的な音使いが心に染みる。しかし、そこにパッションもパワーもあるわけで、しかもテクニックは抜群だし、アイデアも明晰だし、抑制がきいている分ときおり見せるブロウがとても効果的に感じられる。3曲目(アルト?)とかめっちゃかっこええなあ。やはり4曲目などのようにテナーを吹いたときがいちばん、ごっつく、ぶっとい感じの演奏になるかも。硬質で、いい音です。5曲目はソプラノによる、長い、抽象的な即興ラインをいとおしげに吹き育てていくような演奏で、それがモーダルジャズ的な具体的なラインへと変貌していくあたり、このひとの真骨頂に思える。中盤からのブラッシュとソプラノのがちんこ勝負は聞きものです。最後はふたたび抽象的な演奏に戻るあたりも、構成を大事にする性格なのだろうなと思う。ストイックな、鋼鉄のような意志力を感じる。6曲目も凄くて、テナーの堂々たるブロウはめちゃかっこいいです。7曲目もレイシーがモンクの曲をやってるときのような感触があって好き。音色の多彩さ、テクニックもびんびん感じる。もっとも長いのは8曲目で11分26秒あるが、長いドラムソロではじまり、そこにサックスが「ふらり」と乗ってくる。この軽さ。いいですねー。軽い感じではあるが、内容はじつにハードボイルドで、情に流されない精神的な堅牢さが重いのだ。ええなあ。9曲目はたぶん4曲目を上回る激しいフリーブローイングだが、こういうのよりはクールに吹いたやつのほうが私の好みではある。でも、ライヴで観たら、こういう演奏のほうが感じるものがあるかも。ラストはサックスをパーカッシヴに使った短い演奏。というわけでトム・レイニーに触れていないが、これはもう見事のひとこと。完璧なデュオチームになっている。