「INTERFACE」(CLEAN FEED CF022CD)
STEVE LEHMAN’S CAMOUFLAGE TRIO
私は、まえまえから書いているとおり、アルトが好きではない。もっとはっきり書くと、嫌いである。ぴーぴー神経質に鳴る高音も、薄っぺらい中低音も嫌いだ。しかし、これもはっきりしているのだが、楽器をちゃんと鳴らせる、良い音のアルトのなかには、すばらしいと思うひとも少なからずいる。このスティーヴ・リーマンというひとも、あるひとのブログでその存在を知らなければ、アルト嫌いの私は一生聴くことなく終わっただろう。JOE FREE氏に感謝している。いやー、このアルトは凄いわ。曲がいいし、プレイもいいし、音(アルトとは思えないぶっとい音。すばらしーっ)もいいが、なによりも随所に見せる「センスの良さ」がこちらのハートをぎゅっとつかんではなさない。一曲目でいきなりぶっとんだ。とにかくひたむきなブロウで、しかし、そのひたむきなブロウは、いろいろと細かいお膳立てを整えたうえで、さあ、あとは吹くだけだ、という感じの行き届いたひたむきさなのである。お膳立てというのは、メンバーの人選であり、作曲であり、グループのコンセプトであり……そういったもろもろのこと。すべてを整えてから、スティーヴ・リーマンはひたすら吹いて吹いて吹きまくる。かっこええ! すっかりファンになってしまった。いやー、アルトを馬鹿にしてはいかんなあ(あたりまえです)……としみじみ思った。一度生で聴きたいぞ。完全にツボにはまりました。フェローン・クアラフのドラムも貢献大。ドラムがアクラフなので、そこから連想するのは、おなじピアノレストリオでアルトがリーダーの早坂沙知の傑作「サンガ」である。どちらもひたむきさがうれしいし、アルトがぶっとい音なのもうれしい。ところで本作は全曲おなじときの録音のようだが、5曲目以降に拍手が入っているのはどういうことか? ライヴ?
「ON MEANING」(PI RECORDINGS PI25)
STEVE LEHMAN QUINTET
「インターフェイス」があまりに傑作で、すっかり味をしめて本作も期待しまくりだったが、その期待は半分かなえられ、半分裏切られた。トランペット(とビブラホン)が入っていることもあり、「インターフェイス」よりはバンドとしてかっちりしており、そのかっちり感がやや迫力を削いでいる感じがあるのだが、リーマンのアルト自体が自分で構築したそのかっちり感を突き破る瞬間が多々あって、それはそれでかえってスリリングなのだった。曲もいいし、ラッパ他もよいソロをしているのだが、やはり最大き聞きものはリーマンのアルトであって、とくに後半、大活躍してブロウしまくるリーマンを聴いていると、うーん、アルトもええなあ、と単純に思ってしまう。フレージングはちがうけど、精神的にドルフィーを感じさせるひとだ。聴いていて興奮のあまり、思わず、ぎゃーっとのけぞってしまうような曲もあり、こんな経験はなかなか最近のアルトを聞いているときにはできない。いろいろ調べたら、みんな遙か昔から注目していたひとらしく、私はアルトに関しては無知だなあ……としみじみ。アルト好きのみなさん、私にもっと、良いアルトの情報を教えてください。
「MANIFOLD」(CLEAN FEED CF097CD)
STEVE LEHMAN QUINTET
めっさかっこええ! アルト嫌いを公言している私だが、スティーヴ・リーマンにはついていきまっせ。このひと、本当に音色がよくて、まあ名前を出して悪いがスティーヴ・コールマンとかは、グラサンで凄んでみせても、斬新なコンセプトの曲をやってみせても、あの音ではなあ……と思ってしまい、つい聴く気が失せるのだが、リーマンはテナーと聴きまがうほどの太くて、いい音だ。フリーに暴れるときも、フレーズを吹くときも、とにかくしっかりした、個性的な音が心地よい。曲もいいが、アドリブがその曲を踏まえた、非常にアイデアとテクニックが結びついた知的かつ暴力的なもので、つまりは「ベスト」の状態である。そんなところが、このひと、めっちゃ頭もええんやろなあと思わせる。でも、聞こえてくる音は肉体派なのである。本作はリズムセクションも最高だし、トランペットも悪くない。購入してから何度も聴き直したが、そのたびに新しい発見がある。つまり、ものすごくたくさんのアイデアを演奏に突っ込んでいるわけで、そういう容量の多さが激しさとなって伝わってくる。そんな作品でした。当分リーマンの時代は続くだろう。ところで先日リーマンブラザーズが破綻したが、あれはレーマンじゃないのか、という意見をネットで見た。我々スティーヴ・リーマンを知るものには、このつづりは当然リーマンですよね。