「BLUE LOG」(FOR 4 EARS CD NR.1137)
URS LEIMGRUBER TEN PIECES FOR SAXOPHONE
傑作! ぜったいにいいと確信していたがやっぱりよかった。ああ、こういうのがソロサックスを聴く快感なのだよねー。すぐれた即興系のテナー奏者は、ソロにおいてその実力をみせてくれる。デヴィッド・ウェア、デヴィッド・マレイ、チャールズ・ゲイル、ハンス・コッホ、アシーフ・ツァハー、マッツ・グスタフスン、ブロッツマン、ヴァンダーマーク、エヴァン・パーカー……もちろん枚挙にいとまはなく、ソロテナーについて名前をあげるだけでこの紙面がつきてしまうわけだが、彼らの傑作に比して、このひとのもぜったいいいはずだと思っていた。その期待はまったく裏切られず、一曲めから最後まで息をつかせぬジェットコースター。冒頭の、無音ではじまり、しだいに息づかいが聞こえてきて……という展開もぞくぞくするし、フラッタータンギングやハーモニクス、フラジオその他を駆使しためまぐるしいテクニックもすごいが、なんといってもリアルトーンの鳴りにまいっちんぐマチコ先生。ええテナー吹きやなあ……と思わずうっとりしてしまう私。ちょっと変な比較かもしれないが、ハンス・コッホのソロとの共通点を感じたりして……。やはり、楽器を完全に習得し、きちんと鳴らせる名手ならではのソロである。いちばんびっくりしたのは、「オーバーダブはしてません」という注記であって、10曲目は、ちょっと信じがたいようなアクロバットな演奏で、テナーの音と、タンポをぱたぱたいわせるパーカッシヴなリズムとが完全に別のリズムで奏でられ、うわー、これは人間業ではないわ、と感心することしきり。エヴァン・パーカーのソプラノソロでも、たまに、べつのリズムで複音が進行することがあって驚くが、これはそんなレベルではなく、まったく二種類のリズムが同時に演奏される。神だ、と私は思ったが、よくジャケットを読むと、「エクセプト・オン・ナンバー10」とあって、ほっと胸をなで下ろした。
「13 PIECE FOR SAXOPHONE」(LEO RECORDS CD LR498)
URS LEIMGRUBER
あの「BLUE LOG」で私を感激・驚嘆・興奮せしめたあのライムグルーバーのソロ再び!である。あのアルバムは10曲入っていたが、今回は13曲で3曲お得(ということはないか)。あいかわらず、音色よし、アーティキュレイションよし、リズムよし……と基礎がすばらしいところに、さまざまなテクニックを駆使してのサックスのソロ表現がなされているので、いいんだけど音がキイキイいうのがなあ……とか、やる気は買うけどアーティキュレイションが雑だなあ……とか、フリージャズだからといって、ぎゃーぎゃー吹いているだけじゃ荒っぽすぎるよなあ……とかいった、「サックスソロを聴いていて、いやになる要素」がまったくない。ハンス・コッホやジョン・ブッチャーのソロなどとも共通した、どっしりした、ずしんとした安定感と、チャレンジ精神の最適のバランスがある……などとこむずかしい理屈をこねるまえに、聴いてもらえば、このひとの凄さがわかるはずだ。発する一音一音に細心の配慮がなされ、その集積として全体が構築されている。しかも、生の良さ、即興の良さ、迫力が軽減されていない。これは、たいへんなことである。もう、絶対好きですね。応援しますね。もうひとつ言えるのは、この13ピースの曲のひとつひとつについて、いろんなアイデアを一曲に詰め込んでいない、ということである。即興だからといって、成り行きまかせに思いついたことをどんどんやっていく、というのではなく、ひとつのアイデアをしっかりかためて、それを即興的に発展させていく、という展開がかっちりしており、そこが感動を呼ぶのだ。じつは一流のインプロヴァイザーはみんなそうなんだと思う。エヴァン・パーカーにしてもカン・テーファンにしても阿部薫にしても。とにかく「BLUE LOG」とともに、めっちゃおすすめ。
「CHICAGO SOLO」(LEO RECORDS CD LR570)
URS LEIMGRUBER
最近は、エヴァン・パーカーといい、ライムグルーヴァーといい、「シカゴ・ソロ」ばやりなのか? どちらも「シカゴ」といいつつも、シカゴでのライヴというわけではなく、スタジオ録音なので、そんなもんどこで録音しても一緒やろうと突っ込みたくなるが、やはり空気感がちがうのかなあ。ライナーノートを読むと、やはりこのアルバムタイトルはエヴァン・パーカーのものを踏まえて名付けられたらしい。エヴァン・パーカーのものは、たしかにいつものエヴァンのソロとちがうが、それはソプラノではなく、テナーに徹したソロなのでそういう感じがするのだと思っていた。シカゴという街の雰囲気が、ソプラノではなく全編テナーでソロをするにふさわしかったのだ、とも考えられる。より野太く、ガッツと歌心のある具体的な「フレーズ」主体のソロになっていたような記憶がある。では、ライムグルーヴァーのソロはどうか。彼は、いつもどおりソプラノとテナーを使い分けているが、なんとなくいつものソロに比べると、(毎度比較してすまんがエヴァンのシカゴ・ソロとは逆に)抽象性の高い演奏になっているような気がする。それがいいか悪いかとかいう話ではなく、これもシカゴという街の空気に影響されたせいなのかどうか。とにかく、これまで私が聴いたライムグルーヴァーのソロは、もっときっちりアイデアをわかりやすく提出して、それにそって具体的に展開していくような演奏が多いと思うが(そこが好きだったわけだが)、ここではどちらかというと、いい意味でいいかげん、というか、目的地を決めずに吹いているような、出たとこ勝負の即興になっているような気がする(あくまで「気がする」程度)。あいかわらずバカテクで、目を(耳を?)見張る場面も随所にあるのだが、ここでのライムグルーヴァーはいつもとはちがった緊張感と、いつもとはちがったリラックスのなかにあるようだ。こういう風に吹けたらなあ。
「TWEIN」(CLEAN FEED CF194CD)
URS LEIMGRUBER & EVAN PARKER
このアルバムが出ると聞いてから、楽しみで楽しみでしかたなかったが、ようやく聴けた。どちらもサックス即興の雄であり、ウルス・ライムグルーバーはエヴァン・パーカーの影響も受けているし、尊敬もしているようなので、そういった関係のうえでの演奏である。また、パーカーはソロ作だとソプラノをふんだんに使うのが常だが、「シカゴ・ソロ」というアルバムではテナー一本で通している。それを踏まえてウルス・ライムグルーバーにも「シカゴ・ソロ」という作品があるのは上に書いたとおりだ。ゆえにこの両者の共演は必然と言っていいが、パーカーの「シカゴ・ソロ」からのからか、なんとなくこのふたりの共演盤はテナー主体のパワフルなガチンコになるような勝手な思いこみがあった。しかし、結果はどちらかというとソプラノが主体のものだった。まあ、あたりまえといえばあたりまえなのだが……。演奏はすばらしい。どちらかというとウルスがパーカーに歩み寄ったというか、パーカーマナーの純粋な即興が延々と続く。サキソホンという楽器を知り尽くし、アコースティックな即興のなんたるかを知り尽くしたふたりによる、音のタペストリーである。これを聴いたうえでそれぞれの「シカゴ・ソロ」を聴けば、おもしろさ倍増ではないだろうか。
「WING VANE」(VICTO CD079)
URS LEIMGRUBER JACQUES DEMIERRE BARRE PHILLIPS
先日、アクセル・ドナーのライヴの物販で購入した。ピアノのジャック・デュミエールが本作にも参加しているのだ。大好きなウルス・ライムグルーバーとのトリオなので聞かざるをえない。どうやらセッションではなく、ほかにも同じ編成のアルバムが出ているのでレギュラーバンドなのだろう。ジャック・デュミュールは、生演奏を見るとものすごくユニークで面白いアプローチをするひとですぐに気に入ったが(全然ピアノに触れない時間か長かったと思ったら、突然立ち上がってリズミカルに弾きまくるとか、ある意味パフォーマンス的な感じもあったが、とにかくかっこよかった)、「音」だけで聞くとどうだろうか……と本作を聞いてみると、やはりというか当たり前というか、音だけでもすごかった。いわゆるジャズをベースにしたフリーインプロヴィゼイションだが、微細な音での絡み合いが多く、たいへん濃厚である。とくにバール・フィリップスの活躍が目立つが、あとのふたりもすばらしい。ライムグルーバーはめちゃ好きなサックス奏者だが、ここでも太い低音からリードを軋ませるような超高音までを駆使しまくってその瞬間瞬間にもっとも的確な音を出している。ピアノのデュミュールは、生で見たとき同様、普段は繊細で考え抜かれた音使いをしているが、突然スイッチが入るタイプのようだ(6曲目で顕著に聴ける)。全員こちょこちょ好き勝手やってるようで、じつはたいへんなテクニックが使われている。だが、静謐でねっとりとした即興……と思っていたら、最後の6曲目で爆発が起きる。かっこいいっす! 三人対等の演奏だと思うが、一番最初に名前の出ているライムグルーバーの項に入れた。
「ALBEIT」(JAZZ WERKSTATT JW−074)
URS LEIMGRUBER JACQUES DEMIERRE BARRE PHILLIPS
上記とまったく同じメンバーによるアルバム(レーベルはちがう)。8曲の即興演奏が入っているが、長さは短いもので4分半、長いもので18分弱。一見、地味で、「手慣れた感じの即興」に聞こえるもしれないが、じつは1曲目のライムグルーバーのソプラノを聴いた瞬間に、本作の良さは確信できた。ベースもピアノも常に攻めている感じで、バランスを取りながらも、バッキングに回っているひとがだれもいないような状態のまま、見事にトリオとして推移していく。これは楽しい。かなり濃厚な1曲目に続いて、2曲目はライムグルーバーのソプラノによる無伴奏ソロ。秋の虫の声みたいです。3曲目もスカスカなのに濃厚な即興。全員攻めまくっている。4曲目はバール・フィリップスのベースソロ。めちゃくちゃかっこいい。惚れぼれする。昔、バールのライヴを主催して、大原さんと共演してもらったなあ。5曲目は繊細で音量を抑えた演奏。ソプラノは、コオロギかアマガエルが鳴くようなか細い音色で、ピアノはほとんどいるのかいないのかわからないぐらい。アルコベースが一番まえに出ているか。次第に盛り上がっていく……ということもなく、ひたすら高いテンションを持続させながら抑制されたインプロが続く。6曲目も5曲目同様厳しくも心地よい即興。7曲目はかなりフリーな雰囲気での応酬からテンポのある即興にシフトしていく過程がスリリング。このピアノはやっぱり変だ! 最後の7曲目は本作中もっとも長尺な演奏だが、ピアニシモを中心とした微細なやり取りのなかで生じるイマジネーション溢れる交感には興奮せざるをえない。ピアノのひとは弦を弾いているのか? ベースのスピード感もすごい。とにかく3人ともめちゃかっこいい。ベースの無伴奏ソロになるところの、大きく間をあけた演奏の張りつめた緊張とそこに蠅がとまるようにそっと入ってくるソプラノ……すばらしい。そしてピアノ。後半、インテンポになってからのスリリングな展開にも思わず血沸き肉躍るが、ライムグルーバーがテナーを吹いているのはこのアルバムではここだけだ。このひと、ネットの画像で見るかぎりでは、ラーセンのメタルとラバーを吹いているような気がするが、写真ではわからんなあ。でも、音もそんな感じに聞こえます(←信用しないでね)。やはりテナーを吹いたときは、しっかりした音で具体的なフレーズを吹くなあ(ソプラノは、もうちょっとアブストラクトで、音色の変化などで聴かせる感じ?)。全編すごく面白かったので、買ってよかった。