「OOH LALA」(IMPERIAL 1561391)
SMILEY LEWIS
スマイリー・ルイスはニューオリンズのなかでも私の好みとしてはかなり上位にくる。どの曲も笑えるし楽しいのだが、「ママ・ドン・ライク」という曲はとくに大笑いである。「ママ・ドン・ライク・ジャンプ・ミュージック、ママ・ドン・ライク・ブルース・ミュージック、ママ・ドン・ライク・バップ・ミュージック、ママ・ドン・ライク・パップ・ミュージック」……二番はこれが「パパ・ドン・ライク……」になり、3番は「ウィー・ライク……」になる。そして、テナーがブロウする。嗚呼、楽しいなあ! バンドのメンバーはほとんど上記のデイヴ・バーソロミューのバンドと同じで、ようするにこのレコーディングはデイヴ・バーソロミューのバンドを使っての吹き込みなのだろう。とにかく全曲楽しくて楽しくてしかたがない。暗いようなムーディーな曲までも楽しく歌ってしまうのだから、どうしようもない。だって、「スマイリー」ルイスだもん。「ウー・ラ・ラ」も好きだ。山本リンダでもジャングル黒兵衛でもないですよ。こういった「ウー・ラ・ラ」とか「ティー・ナ・ナ」とか曲名というかリフがいかにもニューオリンズだ。音を思い切り濁らせたテナーは、たぶんリー・アレンじゃないかと思うけどよくわからん。
「ROCKS」(BEAR FAMILY RECORDS BCD 16676 AR)
SMILEY LEWIS
スマイリー・ルイスのインペリアルとかアラジンとかあたりの音源をベースにしたコンピレーション。ヒットしたシングル中心の一種のベスト盤だが、すべてのヒット曲が入ってるわけではない。でも、この「ロックス」というシリーズは、コンセプトとしてバラードとかではなく「ロック」の源流になったような曲を集めているので(スマイリー・ルイス以外にもいろいろ出ている)、バランスのよいベスト盤とはいえないかもしれないが、この稀代のシンガーの魅力を味わうには十分である(なにしろ1枚組で36曲も入っているのだ!)。私は、近所の中古CD屋で、ジャズとかブルースはほとんど置いていないような店に行ったとき、スマイリー・ルイスの4枚組が売ってて、うーん、さすがに4枚組は……と思って買わなかった(何度も訪れたがそのたびに断念した)のを今でも後悔しているのだ。結局、その店もつぶれてしまったが、まあよほどのルイスファン以外なら本作を聴くだけで十分堪能するのではないかと思う。全体にデイヴ・バーソロミューの曲が多く、彼がミュージカルディレクター的存在だったこともわかる。バックはデイヴ・バーソロミューやリー・アレンというファッツ・ドミノバンドとほぼ同じようなメンバーで音楽性も共通している部分があるのだが、ファッツよりも軽快にジャンプするし、声も太く、濁らせていて、迫力はすごい(そのファッツがピアノを弾いている曲もある)。ビートはもうちょっとでいわゆる「ニューオリンズビート」というか、あの撥ねるビートになりそうな感じ。そしてロールするピアノ(ヒューイ・ピアノ・スミスが入ってる曲もあるとか)がかっこいいのだが、なんといっても本人のボーカルがすべてをさらっていく。スマイリー・ルイス自体はギタリストだがギターはそれほど活躍しない。ニューオリンズっぽい、耳になじむリフナンバーとこのジャンプするボーカル、からみつくピアノがとにかく魅力なのだが、ジャンプといってもルイ・ジョーダンほど都会の軽快さはなく、あくまでニューオリンズという地方都市のジャンプナンバーなのだ。そして、フィーチュアされるテナーサックスのすばらしさは特筆すべきである。かなり過激な演奏を短いコーラスのなかでぶちまけていて、大きく曲に貢献していて見事としか言いようがない。リー・アレンだけではないみたいだけど、リーのソロも多いと思う。それと、トランペットはほとんどがデイヴ・バーソロミューだと思われるが、自身のジャンプナンバーとの共通点もあって、当時のニューオリンズの「ミュージカルディレクター」的なひとたちがなんにんも重なって、この地方都市のすばらしい音楽を生み出していたのだなあと思う。ストレートなブルースやブギもあるのだが、どの曲もスマイリー・ルイスの「もっとおもしろく、楽しく……」という精神による工夫が随所に伝わってくる。こういうものは古びない。ファッツ・ドミノの曲でもそういう感じを受けるが、いゆるアメリカーナというか、ニューオリンズR&B的なファンクのなかに、カントリー・アンド・ウエスタン的な雰囲気を感じる曲もある。しかし、バックがどうであれ、ルイスの太い声で朗々と響くボーカルは健在なので、聴く側はなんにも考えずにこの世界に浸ることができる。まあ、メンバーなどもしっかり書いてあるが、実際はいいかげんなものだろうとは思う。まあ、そういう細かいことは気にしないほうが健康のためである。ソロはたいがいリー・アレンなどのテナーサックスとピアノが取り、本人のギターソロはない(と思う。ギターソロがあってもたぶんほかのひと)。ブルースのようにギターソロをウリにした音楽ではないことは間違いない。また、ブルース形式でない曲も半分ほどある。ようするにこういう音楽を「ジャンプ」というのでしょうね。ルイ・ジョーダンとの共通点はいろいろあると思うが、いちばん強く感じるのはつまり「聴いてるひとを楽しませたい! それにはまず自分が楽しまないと!」きいう強い意志が根底にある、ということだ。それにしてもブギーのリズムのブルースとテナーサックスのブロウ、そしてジャンプするシャウターの渾身のシャウトというのはどうしてこんなに「合う」のでしょうか。この黄金の形式(?)というのは、ライオネル・ハンプトンなどのジャズのビッグバンド、アーネット・コブ、イリノイ・ジャケーらのスモールコンボ、ビッグ・ジェイやキング・カーティスたちのいわゆるホンカー、ワイノニー・ハリスやロイ・ブラウンといったブルーススクリーマー、ルイ・ジョーダンをはじめとするジャンプミュージックのひとたち、ゲイトマウスのようなテキサスジャンプブルース、そして、アモンズ、スティット、ジミー・スミス……といったオルガンジャズのひとびと、果てはクルセイダーズあたりにまで共通する「なにか」なのだ。ライナーもめちゃくちゃ充実しているのでぜひ……と言いたいが老眼がひどくて全然読めないのでした。