george lewis

「HOMMAGE TO CHARLES PARKER」(BLACK SAINT BSR0029)
GEORGE LEWIS

 ジョージ・ルイスの個性と才能が爆発したチャーリー・パーカートリビュート作品。ピアノ、バスクラ、トロンボーン、シンセという楽器編成でパーカートリビュートをやるということ自体が変態で天才だが、その顔ぶれがまた凄くて、アンソニー・デイヴィス、ダグラス・ユワート、そしてなんだか懐かしいなあリチャード・タイテルバウムだ。A面B面、各一曲ずつで、A面には「ブルース」という曲が入っている。冒頭いきなりバスクラリネットの無伴奏ソロで始まる。バスクラとトロンボーンの掛け合いでブルースを表現していくのだが(ここはちゃんとしたブルース進行である)、最初は控え目に入っているピアノが自己主張しだす当たりから崩れてきて、フリーな即興の要素が強くなっていく。しかし、全体としてはやはりブルースを念頭に置いてフリーにやっている感じが強い。このあたりのふわふわしたグルーヴはすごい。シンセも含めて非常にアコースティックなので、音がもろである。8分過ぎあたりから速いインテンポになるが、ジョージ・ルイスのトロンボーンは同じフレーズをひたすら繰り返す(CDが壊れたのかと思った)。またリズムがなくなって、トロンボーンとバスクラのデュオ的な展開になるが(他の楽器も加わっているが)、ここもずっとブルースなのである。黒人ミュージシャンにとって、ブルースは我々が考える以上にベーシックなものとしてそこにあるのだろうか。11分過ぎたぐらいから吹き伸ばし多用によるダークなインプロヴィゼイションになる。こういう部分でトロンボーンの音色の多彩さとユワートのバスクラの音色のディープさ、そしてタイテルバウムのシンセの生っぽさ(?)がすごく魅力的に響く。でも、ここもブルースだ。2曲目は、パーカーに捧げた演奏。まったくビバップを感じさせない、銅鑼の連打のような音響で幕を開け、暗くて厳かな感じのそれが延々と続く。そこから、風が吹くような音や金属音、各種シンセの微細な音などをていねいに重ねていく即興になっていき、チベットとかネパールの宗教音楽を連想させるような(勝手な印象です)展開になるのだが、それが今の耳で聴いても古くさくなっていない。楽しい。この部分はパーカーの生涯を表しているらしい。6分過ぎたあたりからシンセによる夜があけたような明るい和音を出して展開が変わる。そこにユワートのアルトがいい雰囲気で乗っかる。フラジオを多用しており、コントロールのきいていないヒステリックな音色でもあるのだが、それがなぜか荘厳で静かな雰囲気を壊さず、溶け込んでいる。不思議な音楽です。最後にそのサウンドに和してジョージ・ルイスがトロンボーンを吹き始めるが、美しいワンコードの即興で、皆を高みへと導き、全体を締めくくる。この演奏のどこが「チャーリー・パーカー」なのか、とみんな思うはず。私もそう思ったけど、「これでいいのだ!」。2曲を通してメンバーは4人ともいいが、とくにダグラス・ユワートは生でも聴いたし、いろいろとアルバムも聴いたが、どっちかというとパッション優先のいかにもACM的なブラックミュージシャンというイメージだった。しかし、本作では「超うまくて超ヒップなバスクラ吹き」という印象でほんとうにすばらしい。ジョージ・ルイスはもちろんトロンボーン奏者としても本作においてバリバリ吹いているのだが、どちらかというと全体のサウンドをクリエイトしている役割のほうが大きいように思う。どれぐらい指示を出しているのかが気になる。発表された当時としては、即興の最先端をいってる演奏のひとつだったと思うし、今でも古びていない。傑作です。

「GEORGE LEWIS DOUGLAS EWART」(BLACK SAINT BSR00269
GEORGE LEWIS DOUGLAS EWART

 AACMを代表するふたりの管楽器奏者によるデュオ。1曲目はフルートとトロンボーン。正統派で真っ向から勝負する無骨なユワートに対して、ジョージ・ルイスは音色もリズムも変幻自在でしかも力強い。いやー、このふたりは良くブレンドしてますなー。71年から続くコラボレーション(この作品の録音は78年)ということで、長い間の共演がひとつの成果を生んだということなのだろうが、馴れ合いはなく、とても新鮮な喜びに満ちている。ちゃんとしたテーマがあり、AACM的なグルーヴ感もある演奏。2曲目はアルトとトロンボーン、あとは各種パーカッションによる演奏。ビートのないフリーな雰囲気の即興で幕を開けるが、お互い好きなことをやりつつ、吹き伸ばしの箇所での偶然のハーモニーを響かせるというルール(?)なのか? ふたりとも音色も含めて表現の多様性というか引き出しというか武器というかそういったものの数は尋常ではないので、じつに千変万化したサウンドがどんどんと展開していき、飽きることなし。これやったら永遠に聴いてられるよなあ。パーッカッション(とシンセ)によるカラフルなオーケストレイションになり、ここもええ感じである。そのあと生の管楽器2本だけによるデュエットになり、終わっていく。3曲目は冒頭にエロクトロニクスのノイズ(当時のノイズは優しいなあ)が唐突に現れる。そして息づかいも聞き取れるようなアコースティックな管楽器たちの音がそれに加わる。いやー、美味しいブレンドですなー。ノイズはずっと継続してバックグラウンドにある。それが微妙に変化していき、ルイスとユワートの演奏にも影響を与えていく。ラジオの音なども混じってる(レイシーもこんなことやってたな)。いやー、かっこいいです。4曲目は3曲目と組曲になっているらしいが、明るいエレクトロニクスによる反復がベーシックになっている。そこにジョージ・ルイスのちょっとだけ音を加工した太くてリッチなトロンボーンのメロディーが加わる。牧歌的というより大陸的、あるいはドン・チェリー的といったほうがいいか? ええ曲や。ルイスはメロディーの変奏のみでしずしずと演奏を進行・深化させていく。ユワートはフルートに持ち替えてそれに和す。ライナーによると、この組曲(ジョージ・ルイスの曲)はフォルクローレと神話学について書かれたシリーズのなかの部分らしい。さもあらん。ジョージ・ルイスのサウンドクリエイターとしての凄腕を見せ付けられる演奏。もちろんダグラス・ユワートも最高。ということで、これも傑作なのだった。

「GEORGE LEWIS」(BLACK SAINT 120016−RM2)
GEORGE LEWIS

 ブラックセイント〜ソウルノートのジョージ・ルイス5枚組ボックスのうち、聴いたことがなかった二枚のうちのひとつがこれ。というか昔、ちょっとは聴いたのだが、当時はこういう演奏を「観念的なつまんない演奏」と思い込んでいたらしく、受け付けなかった。そののち、ジョージ・ルイスが大好きになり、なんでもかんでも聴くようになったのだが、このアルバムだけはなぜか聴く機会がなかった。こうしてボックスを買ったことで機会がめぐってきたのである。1曲目は、そういういかにも観念的なインプロヴィゼイションだと当時の私が思ったであろうタイプの演奏。ビート感がなく、個々の楽器がちょっとずつ吹いたり叩いたりして様子を見ているように聞こえるやつ。でも、そうではないことがさすがに今は分かっておりますのでご安心を。つまり、ソロがなく、集団即興で、しかも猫がひっかきあうような、「ちょこっ、ちょこっとちょっかいを出しあう」みたいなちまちました演奏に思えて、テナーとかトロンボーンがど真ん中でギャオオオッと咆哮する……みたいなわかりやすくスカッとするものを好んでいた私には、なーんかちまちましとるなあと思っていた。もともとジョージ・ルイスはエヴァン・パーカーとやってる「フロム・サキソフォン・トゥ・トロンボーン」とかアンソニー・ブラクストングループでの演奏から入ったので、余計にそういう先入観があったが、それはのちにさまざまな演奏を聴くに及んで木っ端微塵になった。というわけで、こういうタイプの演奏も今は楽しめる身体に改造された私だが、こういう抑制された知性の勝ったインプロヴィゼイションはジョージ・ルイスの持つさまざまな顔のひとつだとわかった。こういう即興でも、ゆるやかな盛り上がりがあって最後は爆発……というのが聴いていて昂揚するわけだが、そういったルーティーンというかベタな展開をあえてていねいに避けて、たとえばマイルスバンドのように、ソロが盛り上がりかけると声をかけて抑える、みたいな指示を出しているのかもと夢想したりした。2曲目は、このアルバムの4曲中いちばんおもしろかったが、左チャンネルにリチャード・エイブラムス、右チャンネルにアンソニー・デイヴィスというふたりのピアニストを配置し、ジョージ・ルイス自身はずっとスーザホンを吹いているという変態トリオだ。これはかなりおもしろかった。3曲目はジョージ・ルイスとダグラス・ユワートのデュオで、ジョージ・ルイスははじめのほうはシンセその他を操っているが、後半はアコースティックになる。このふたりはかなり昔からデュオをやってきた仲なのだが、手あかのついた表現がない。4曲目は、ジョージ・ルイスが当時ずっと進行させていたプロジェクトのひとつらしいが、1曲目とはピアノが交替したセクステットである。雰囲気も1曲目とよく似た、抑制された即興。ジョージ・ルイスは、トロンボーン以外にもスーザやチューバやなんやかやといろんな金管楽器を吹いておりそれが全体のサウンドをカラフルにしている。というか、だいたいそういうタイプのメンバーを集めていますね。

「THE GEORGE LEWIS SOLO TROMBONE RECORD」(SACKVILLE SK3012)
GEORGE LEWIS

 若きジョージ・ルイスの意欲が満ち溢れた作品で、今聞いても胸がどきどきする。一曲目は多重録音を駆使したソロで、20分を超える演奏だが、あまりに面白くてあれよあれよというまに聴いてしまう。狙っているところが、当時(77年)としてはかなりの高みであって、これを実現するにはルイスのよほどの確信と自信と信念がベースにあったと思う。先輩でありバンマスであるアンソニー・ブラクストンなどのソロとは一線を画したものなのだ。そして、ヨーロッパのマンゲルスドルフやポール・ラザフォードたちとのソロともちがった、知的でブラックネスのあるジョージ・ルイスならではのインプロヴァイズドソロなのだ。2曲目は、うってかわってしっかりした音楽的土台に立脚した、きっちりしたソロ。ルイスが、おそらくクラシック〜ジャズの両方をきちんと極めたうえでインプロヴァイズドの世界に身を投じていることがわかる。そして強烈にブルースを感じさせるそろ。すげー。このあたりで、もう聴いてる私としては興奮状態がクライマックスに達しているのだが、3曲目も、2曲目同様のすばらしい演奏で歌心とテクニックをこれでもかと見せつけているのだが、音楽的なのでまったく嫌味がない。4曲目は唯一のスタンダード「ラッシュライフ」だが、これもほかの曲と区別がつかないぐらい、つまりはほかの曲の歌い方が優れている。傑作としかいいようがありません。