「DIVINE TRAVELS」(OKEH RECORDS/SONY MUSIC ENTERTAINMENT 88883766642)
JAMES BRANDON LEWIS
知らんひとやなあと思っていろいろ調べたけど、たいしたことはわからなかった。きっとこれからどんどん出ていくひとなのだろう。なにしろテナートリオで、ベースがウィリアム・パーカー、ドラムがジェラルド・クリーヴァーって……どんだけすごいメンツやねん。これで期待するなというほうが無理であって、わくわくしながら聴いた。なるほどなあ、こういうひとか。メンバー的にはフリーっぽい演奏かなと思ったのだが、まるでちがっていて、一種のモードジャズ。でも、(いわゆる)モーダルなフレージングを吹きまくるということではなく、ひとつのスケールをじっくり吹いて、そのなかから出てくるいろいろなものを組み合わせて音楽を作っていく感じ。マイナーの曲調が多く、スケールアウトしたり、コード進行を設定したりすることなく、あくまでそのスケールを徹底的に解読し、広げていく。フリークトーンを使ったり、ぐちゃぐちゃに暴れたり、ということも一切なく、通常の音域のなかで勝負する。なぜか、ブッカー・アーヴィンやビリー・ハーパーを連想したりした。無骨なタイプのように聞こえる。しかし、狙っているところはかなりおもしろく、どの曲も、オーネット・コールマンのような自由さをすごく感じた。モードジャズというより、スピリチュアルジャズ的な雰囲気かも。単純に盛り上がることをせず、じわじわと攻めていく。そして、その根底にあるのは自由さだ。ポエットリーディングもあり、意味はよくわからないが、すごく胸に響く。何度も聴いたが、聴くたびにあらたな発見があるし、なにより気持ちいい。派手なことはまったくしていないのに、なぜか聴いたあとずっしりと重量感が残る。上っ面の調子のいい音楽ではないよ。ただ、5曲目は唯一といっていいぐらい、はじけたソロを延々ぶちかましていて、これがめちゃめちゃかっこいいのだ。今後、きっと上昇していくひとだと思う。だって、レーベルがいきなりソニーですから。たぶん、知ってるひとは当然知ってるぐらいの若手実力者なのだろうな。