「FUNGUS」(MOSEROBIE MUSIC PRODUCTION M.M.P CD014)
LSB
このアルバムを聴いて、すっかりファンになってしまった。アトミックのテナー奏者、フレデリック・リュンクヴィスト(と読むのか? 絶対ちがうと思う)が中心になったピアノレストリオLSBのアルバム。アトミックは人数が多くて、個々の奏者のソロをたっぷり楽しむというわけにはいかないが、こういったトリオはその点うってつけである。冒頭、いきなり野太いバリトンの咆哮から演奏がはじまる。主役のサックス奏者はもとより、ベースもドラムも、ぶんぶんぶんぶん、チンチキチンチキとひとつのビートを合わせたりすることはまったくない。常に、3人が3人とも、別々のリズム、別々のフレーズをそれぞれに即興的に展開し、しかも、それがひとつのうねりとなってリスナーを直撃する。つまりは、即興的なオーケストレイションが、常時、展開されているということ。そのようなある意味複雑なことが行われているにもかかわらず、この音楽のなんと単純明快なことか、そして、熱いことか。リュンクヴィストのサックスは、最低音からフラジオまで、完璧に楽器をコントロールできており、しかも、独特の個性的なトーンをも獲得している。リリカルなバラードから、エネルギーを200パーセント注ぎ込んだような破壊的なブローまで、たいへんな集中力をもって演奏できている。1曲目のバリトンの唸りと2曲目のテナーの絶叫が胸を打たない者はいないだろう。クラリネットでは、うってかわった幽玄なアプローチを示し、選曲も、オリジナルのほか、オーネット・コールマンやスティーヴ・レイシーの曲をとりあげるなど、このサックス奏者のベーシックな部分が見えてくる。このアルバムではじめて彼の実力に触れた思いである。アトミックでの演奏はなんだったんでしょうね、といいたくなるほど。ノルウェイのテナーの若手で、楽器を完璧にコントロールできたうえで、フリーを含む自己表現に挑んでいる……というと、ハーコン・コンースタを思いださざるをえないが、このアルバムはたしかにコーンスタの「スペース・アヴァイラブル」を彷彿とさせる。これからこのふたりからは目を離せません。なお、このアルバムは3者のイニシャルをとったバンド名義になっているが、あきらかにテナーがリーダーだと思われるので、彼の項目に入れた。
「YUN KAN 12345」(CAPRICE RECORDS CAP 21690)
FREDRIK LUNGKVIST
アトミックで話題のテナーマン、フレドリック・リュンクビストの(たぶん)二枚目のリーダーアルバム。チューバが入っていて、なかなか意欲的な編成である。一曲目から、チューバのベースラインではじまる意欲的な曲。曲はどれもリュンクビストの作曲したものばかりで、ええ曲ばっか(吉村レコード風)。あとはプレイ、ということになるが、ピアノレストリオだったLSBの「ファンガス」に比べると、編成が大きいせいか、テナーのソロはややおとなしい。しかし、空間を縦横に使い、作曲とソロのバランスをはかり、前衛的な部分と新主流派的な部分をうまく組み合わせた演奏には好感がもてる。もうすこしアグレッシブなところがあれば言うことないのに。でも、それは好みの問題。リュンクビストは、LSBでもそうだったが、バリトンサックスのソロがめちゃかっこいいし、このアルバムではアルトも吹いている。ドラムのジョン・フォールト(と読むのか?)というひともうまいし、チューバのペル・オケ・ホルムランデル(と読むのか?)はめちゃめちゃえぐいフリーなソロをする。とても真摯な演奏が続くアルバムだが、あと全体におとなしめなので、ちょっと破天荒さがあればなあ。アトミックにもいえることだが、ふつうのジャズみたいに聞こえてしまうところがあるって(まあ、ふつうのジャズなんですけどね)、それがモノ足らないのだった。