joe locke

「SCENARIO」(CADENCE JAZZ RECORDS CJR1034)
JOE LOCKE

 20年以上まえにこのアルバムをはじめて聴いたときは、あっ、思ってた音とちがうと思った。ジャケット写真に写っているリーダーのジョー・ロックはトッポい兄ちゃんみたいで、とてもジャズをやるような雰囲気ではない。どうせスウィングっぽい感じか、ビバップを教科書的にやってるような演奏だろう。しかし、一曲目冒頭の空気感はモードジャズ的でシリアスかつエグイ。それもそのはず、メンバーも今から考えるとジョー・ロックはこのあと相当メジャーになったし、ピアノがアンディ・ラヴァーン、ドラムはアダム・ナスバウム、そしてテナーはジェリー・バーゴンジである。そら、すごいに決まってるわ。なかでもバーゴンジはリーダーを食うほどの大活躍で、当時みんなが「グロスマンに似ている」と言っていたけど(フレーズが、というより、音色とかアーティキュレイションとかフラジオの出し方、オルタネイトフィンガリングの使い方などが)、このアルバムでのバーゴンジは一番グロスマンっぽいかも。もちろん、フレーズなどはハードバップ〜正統コルトレーンを感じさせる個性的なものだが、よう似てまんねんこれが。どの曲もいいが、とくにB−1の自作のモーダルな曲での吹きまくりやB−2のアップテンポに乗ってのこれまたグロスマンを連想させるモーダルなフレーズの連発ブロウは凄まじいとしかいいようがない(それを煽るナスバウムのドラムもえげつない)。しかし、主役のロックももちろん全曲で存在感を示す。甘さのかけらもないヴァイヴってすごいぞ。ジャケ裏のインタビューでロックは「きみはライオネル・ハンプトンやミルト・ジャクソンの影響は感じられないね」「ミルト・ジャクソンの影響は大きいよ」「でもそれは明確ではない。ゲイリー・バートンやボビー・ハッチャーソンのそれを感じる」「ぼくはゲイリー・バートンについては完全にあなたに同意しない。ハッチャーソンは大きな影響だけどね」……みたいなことを言ってるが、インタビュアーが言いたいのは、要するにロックが新世代のヴァイヴ奏者だということなのだろう。非常にクオリティの高い演奏ばかりの、ええアルバムですわ。