robert jr.lockwood

「BLUES LIVE!」(TRIO RECORDS PA−6024)
ROBERT JR.LOCKWOOD & THE ACES

 考えられないような豪華かつベストメンバーで行われた初来日公演の模様をとらえたライヴだが、そのクオリティはそのへんのスタジオ録音をはるかに凌駕する。一曲目の「スウィート・ホーム・シカゴ」からいきなりロックウッドの世界に聴衆を引きずり込む。「ゴーイン・ダウン・スロウ」「ワリード・ブルース」「アンナ・リー」「ストーミー・マンデイ」「ミーン・ブラック・スパイダー」など、ブルースの名曲が並ぶが、どれも単なるヒットメドレーではなく、きわめて高い内容のある演奏である。ギターはいうまでもなくすばらしいが、ボーカルも個性的な声ですばらしい。まさに名人芸であるが、ブルース(やジャズ)のような音楽では、職人芸的な名人芸よりも破綻した個性のほうが好まれるような気もする。しかし、そういったものをはるかに超越した、これは「芸」であって、誰にも有無を言わせない、最高の演奏である。とにかくどの曲も、ボーカルもギターもドラムも……なにもかも文句のつけようがない。これが74年の日本でなあ……と思うと、ブルースブームというのもわかる。いきなりこの本物をどーんと見せられたら、そらもうブームにもなりまっせ。観客が熱狂している様子も如実に収められている。日本が、世界に誇っていい傑作ライヴである。

「STEADY ROLLIN’ MAN」(DELMARK RECORDS PCD−23693)
ROBERT JR.LOCKWOOD

 このアルバムはLPを、大学生のときに買ったのだが、最近CDで買い直した(LPも手放したわけではない)。私は、レコードで持っているものは基本的にはCDで買い直さないというのをポリシーにしているのだが、この盤はどうしてもCDで何度も手軽に聴きたくて、つい買ってしまった。するとどうでしょう。ブルース系の、LPで持ってるアルバムを(チェスの廉価盤が出ていたこともあって)アホほどCDで買ってしまったではありませんか。いやー、困った困った。それはさておき、本作は本当に名盤で、噛めば噛むほど旨味が出てくるスルメみたいなアルバム。しかも、何度も聞かないとその真価がわからない、というタイプのアルバムでもなく、一聴するだけでだれにでもすばらしさがすぐに理解できる音楽だ。そして、大げささもなく、あざとさもなく、とてもナチュラルで、すんなりと心に入ってくる。かといって迫力も十分にあり、しかも、ギターテクニックは(たぶん)かなり難しいことをさらりとやっていて、そのあたりの聴き応えもすごい。そのうえ、ギターだけのひとでなく、ボーカルも最高なのだから、もう言う事なし。ついに亡くなってしまったが、亡くなる直前までバリバリ演奏活動をしていたし、それも、この歳の割には……という修飾語をつけることなく、ただフツーにすごかったのだから、老いというもののないひとだった。この一曲目を聴けばわかるとおり、実に「スーッ」と身体に心に入ってきて、なんのひっかかりもない。アクの強さとか押しつけがましさとか臭さとは無縁だ。それなのにこの強烈なリズム、ブルースフィーリング、さりげないテクニック、味わい深いボーカル……最高じゃないですか。インストもいいなあ。ブルースはまったく詳しくない私だが、本作は永遠に側に置いて聴き続けたいと思っています(そういうブルースアルバム、かなりあるけどね。「シカゴ・バウンド」とか)。本作がどんなにすごいか、ということだが、先日、インフルエンザから副鼻腔炎というのになり、熱は高いは、歯がめちゃくちゃ痛いわ、目の奥は痛いわ、頭痛はするわて……という地獄の10日間ほどを過ごしたのだが、そのあいだ、いつも聴いてるフリージャズ、インプロヴィゼイション、ノイズ……といったものは一切受け付けず、ジャズとか民俗音楽系も無理、ロックもだめ……というなかで唯一聴けたのが、ミシシッピ・フレッド・マクダウェルとこの「ステディ・ローリン・マン」だった。だからこればっかりずーっと聴いてたのよね。だから「すごいアルバム」ってわけではないが。傑作です。このときはもちろんロバート・ジュニア・ロックウッド名義。なぜ晩年、ロバート・ロックウッド・ジュニアにしたのだろう。

「THE LEGEND LIVE」(P−VINE RECORDS PCD−24249)
ROBERT LOCKWOOD,JR.

 いつのまにか「ロバート・ジュニア・ロックウッド」から「ロバート・ロックウッド・ジュニア」になっていた御大の88歳のときのソロ(!)。だいぶまえに買って、こういうのが聴きたいときにときどき聴いていた。ジャケットも裏ジャケットもめちゃくちゃかっこいい写真が使われていて、それだけで「おおお……っ」となる。88歳の老人がギター一本で弾き語り、というのだから、音楽的な成果よりは「あのレジェンドがひとまえで演奏してくれた! それだけでいい!」みたいな感じなのかと思ったら、とんでもないのである。リズムもボーカルもなにもかもめちゃくちゃ凄いのだ。12弦ギター一本で、ベースラインもコードもオブリガードもメロも奏でながら、渋い歌を歌うこの老人に頭を垂れぬひとはいないだろう。ひとりですべてを行っており、細かいアレンジが曲ごとにしっかりついているが、ここまでするには相当のコントロール力、技術力が必要だと思われるが、それを完璧にこなしていることに呆然とする。ときにファンキーに、ときに洒落た感じに、ときにロバート・ジョンソン以来のミシシッピの伝統を感じるように、ときにジャズっぽく……と曲によって千変万化する。どれもすばらしい。ブルースという言葉から連想されるような「暗い」「ダーティー」「荒々しい」みたいな印象とは正反対な明るくピシッとした演奏が多く、なかにはユーモアを感じるようなものもあり、ジャズ的なもの、小唄的なものなどソロ弾き語りといえどレパートリーは多種多様である。ボーカルも、アクの強さはなく、素直でシンプルで、聞くものの心にすんなり入り込んでくるような自然な感じである。88歳でもいけるで! ということをここまで明確に、実証した演奏はないのではないか。とにかく心強い演奏だ。宝石のような、珠玉の演奏だ。毎日聴きたいですね。傑作。