「NEW ORLEANS PIANO」(ATLANTIC SD7225)
PROFESSOR LONGHAIR
ニューオリンズ系ミュージシャンのなかでは一番肌にあうのがこの長髪教授。名前はロングヘアだが、じっさいには坊主頭。これほど「ピアノはパーカッションだ!」と教えてくれるピアニストも珍しい。ニューオリンズの、あの跳ねるようなスネアのリズムが全編にわたって聞かれるが、スネアにかぎらず、というか、もともとはピアノが発祥だったのでは、と思わせるような、プロフェッサーのピアノの弾き方である。そして、このアルバムは、それがいわゆるラテンビートに由来することも教えてくれる。ロングヘア、ジェームズ・ブッカー、ファッツ・ドミノ、スマイリー・ルイス、ヒューイ・ピアノ・スミス、ドクター・ジョン、リー・ドーシー、ジョー・アダムス、アラン・トゥーサン、ワイルド・マグノリアズ、ミーターズ、ネヴィル・ブラザーズ、各種ブラスバンド……などなど、ニューオリンズR&Bに特有のあの独特の跳ねるビートは、じつはブルースとラテンの衝突によってできたものなのだ、と私は本作を聴いているうちに悟った(ほんとかなあ)。でも、そうじゃないでしょうか? さて、このアルバムは傑作であることは言うをまたないが、私はロングヘアのアルバムは全部好きだし、「クロウフィッシュ・フェスタ」とか後年のものも全部好きなので、中村とうようのように「これが一番だ」みたいなことは言えないが、もちろんこのアルバムを聴かねば話にならん。プロフェッサのエッセンスがぎゅーっと詰まった、楽しい楽しい楽しい楽しいアルバム。
「CRAWFISH FIESTA」(ALLIGATOR RECORDS ALCD4718)
PROFESSOR LONGHAIR
プロフェッサー・ロングヘアの残した、信じがたいテンション、信じがたい明るさ、信じがたいノリの音楽の数々を聴いていると、そのすさまじくもノリノリのピアノと洒脱でかっちょいいボーカルに巻き込まれて、あらゆる嫌なこと、この世の憂さ、鬱陶しいなにもかも……を一瞬だが忘れることができる。そういった効能は、たとえばフリージャズやフリーインプロヴィゼイションやノイズミュージックにもある。筒井康隆さんがコルトレーン来日公演の評として、こういうものは日々の生活で十分に浴びているので、もうたくさんだというような意味のことを書いておられたが、私にとっては後期になればなるほどコルトレーンは「日常を忘れさせてくれる」最高のカンフル剤なのである。話がそれたが、プロフェッサー・ロングヘアのアルバムも数あれど(本当はもっともっとあるべきだが)、なかでも最高ランクに位置するアルバムのひとつだと思う。ザリガニ祭というタイトルどおり、ニューオリンズ名物のザリガニの煮込みを食い、酒を飲んで、わーっといこうぜ、という感じの怒濤の愉悦的アルバムだが、よくよく何度も聴いてみると、ライヴとは思えない、神経が隅々まで行き届いた演奏であり、なるほど、さすがはプロ! ということになる。選曲もよく、メンバーも最高で、とくにトニー・ダグラディのテナーソロが耳につく。
「ROCK’N ROLL GUMBO」(MAISON DE BLUES 982 246−8)
PROFESSOR LONGHAIR
地味なタイトルにだまされてはいけない。傑作中の傑作と呼んでさしつかえないプロフェッサー・ロングヘアの名盤である。というか、このひと、たいていのアルバムは傑作中の傑作なのだが。あまりにピアノとボーカルが強力すぎるので、たった2管編成なのにまるでビッグバンドを従えているかのようなゴージャスな感じだ。ゲイトマウスは、ちょっと聴いただけでは、ロングヘアが主でゲイトマウスは従のように聞こえるかもしれないが、2度、3度と聴き直すと、いやいや、ゲイトマウスの存在感もたいしたもんだ、と再確認するようにできている。ほんとです。ときどきグググーッと前に出てくるギターは、まさしくゲイトマウスそのもののペンペンギターで、圧倒的である。選曲もすばらしいし、もう言うことありません。このアルバムを聴くときには、とにかく「さあ、今からひたすら楽しむぞ!」という大いなる意志をもってのぞむべきである。聴いているうちに、ついつい笑ってしまうし、そのへんを叩いてしまうし、しまいには歌ってしまう。そんな、底抜け極楽音楽がぎっしり詰まった作品。
「BYRD LIVES!」(NIGHT TRAIN INTERNATIONAL NTI CD 2002)
PROFESSOR LONGHAIR
ライヴ2枚組。2時間にわたるコッテコテの演奏が楽しめる。まあ、録音はまあまあ(生々しいテナーサックスにかなり偏った位置で録音されているみたいで、それが気になるひとにはけっこうきついかも)だが、この歴史的な演奏が録音ブツとして残ったことを喜ぼう)。フェスの本名が「ROY BYRD」だからだそうです。メンバーにはウガンダ・ロバーツやトニー・ダグラディの名前もあって最高である。曲はフェスのヒットメドレーというよりニューオリンズのヒットメドレーといったほうがいいかもしれない。ひたすらロールしまくるピアノの凄さはどの曲でも最高に発揮されている。ヴォーカルの声質の良さも皆さまご存じの通り。やっぱりワンホーンでのテナーのエッジの立ったリフがかなり荒っぽくて(もっとちゃんと吹けよ、と思わぬでもないが、ダグラディということはないと思うけどなあ。ということはアンディ・カスロウというひとだということになるが、このじひとはこの録音の時点でたぶん20代の若さ)、それがかなり気になるのはたぶん録音位置のせいでしょう。3曲目の「マルディグラ・イン・ニュー・オリンズ」の口笛もはっきり録音されている。6曲目の「エヴリデイ……」あたりから二管(か三管)になり、ホーンセクションのバランスも解消される。それにしてもフェスのピアノの凄さ、ヴォーカルの凄さ、あおりたてるリズムのすばらしさ……どう表現していいのかわからないがとにかくこのひとは音楽世界の宝だったと思う。ニューオリンズミュージックではあるのだが、ファンクの塊であり、ロックンロールであり、ブルーズであり、ラテンだった。ピアニストだがまるでパーカッションを叩くようにピアノをぶちのめし、唸らせ、呻かせた。こんなおっさんがおるとは……! と40年ぐらいまえにはじめてフェスを聴いた私は驚愕したが、ニューオリンズというところにはほかにもこんなすごいピアニスト・音楽家がゴロゴロいるのだ。しかし、フェスが図抜けていることはだれも認めるところだろう。コロコロと心地よく楽し気にロールしまくるピアノは、歌や共演者をバックアップしたり、合間を縫って奏でられているのではなく、バンドをぐいぐい引っ張り、鼓舞し、盛り上げる。しかも、天は二物を与えた、というか、声がなんともいえない色気があって最高である。もちろん作曲の才もすばらしい。CD2枚目に入るとその楽しさは加速し、「ティピティーナ」「ビッグ・シェフ」「ジャンコ・パートナー」「マルディ・グラス・イン・ニューオリンズ」「ルシール」「イン・ザ・ナイト」……といったヒット曲が並ぶ。ノリはいいんだけどどの曲も同じに聞こえる……というひとがいるかもしれないが、それでいいのです! ずっと聴いてるうちにちゃんとわかってきますから。全体をひとつの大きなニューオリンズ組曲だと思って聴いていたってなんの問題もない。みんなフェスを聴きましょう! スティールパンもええ塩梅に疾走しまくっていて、フェスのピアノとからみあい最高のグルーヴを醸し出す。こんなフェスティバルはなかなかないですよ!