「SOMETHING IN RETURN」(BLACK SAINT 120125−2)
JIMMY LYONS/ANDREW CYRILLE
ニューヨークのサウンドスケイプでのライヴ。うちにあるCDのライナーにはジミー・ライオンズの死去について触れられている。本作の録音は1981年だが、発売されたのは1988年(ライオンズが亡くなった年)なので、一種の追悼盤として発売されたのかもしれない。私はジミー・ライオンズに関してはセシル・テイラーのユニットでの演奏以外はほとんどよく知らないので、オリジナルのレコードのライナーを確かめる術がない。「アキサキラ」や「Aの第二幕」「ダーク・トゥ・ゼムセルヴズ」などでの壮絶なプレイが印象に残っているが、本作はそのセシルのユニットでの盟友アンドリュー・シリルとのデュオである(同じくブラックセイントに「BURNT OFFERING」という同一メンバーのアルバムがあるが、本作の翌年に録音されたもので、リリースは1991年だった)。ジミー・ライオンズのソロアルバムというといつもカレン・ボルカというバスーンの女性が入ってるイメージがあるが、本作はドラムとのデュオで、ライオンズのアルトの音を存分に浴びることができる。1曲目はシリルのブラッシュによるビートが提示されるが、それにノルのを拒否するようなライオンズの「Aトレイン」がはじまり、しかし、なぜか全体がトレインピースに聞こえる……という離れ技だ。いきいきとしたふたりの交歓、そしてシリルのドラムと、そしてリズムと戯れているようなソロを聞いていると、本作の成功は保証されたようなもの。「思う存分」という言葉がぴったりな演奏である。ジャケットのそれぞれの写真もいいなー。にっこり笑うライオンズ。それに対してシンバルやタムのあいだからじろりと一瞥するシリル。かっちょえーっ! 2曲目はタイトル曲だが、ふたりが交互にソロをする。どちらもいいが、とくにシリルの圧倒的な気合いと存在感を感じるパートは内容もテクニカルな面でも「すげーっ」の一言。本作の白眉といっていいすばらしい演奏。最後はかなり盛り上がる。3曲目はシミー・ライオンズの曲ということになっているが、たぶんほぼ即興。かなりガチンコな演奏で、手に汗握る感じ。「真摯」という言葉が頭に浮かぶ。まっしぐらなデュオで、臨場感マシマシ。4曲目もライオンズの曲ということだが、「J.L.」というタイトルは自身のことを指しているのか? 主役のライオンズがルバートで自由に吹き、シリルは軽い伴奏をしている……のかもしれないが、シリルのインパクトはなかなか「伴奏」というレベルではない。ライオンズに関しては、この曲が本作における最高の演奏かも。すばらしいです。5曲目はシリルの曲で、ずっしりと重くスウィングするドラムではじまり、それが次第に複雑に変化していく。3分45秒ほどソロが続いたあとライオンズが入ってくる。ライオンズは効果音的なアブストラクトなフレーズを撒き散らすような感じでシリルの演奏を引き出している。ラスト6曲目は、これぞガチンコのデュオ。おそらくセシル・テイラーユニットでもたびたびあっただろうこのシチュエーション。いやー、めちゃくちゃかっこいいです。本作でいちばん長尺の演奏だが、ライオンズの、いっけんでたらめに聴こえるこのフレージングが実は絶妙に考えられているものばかりだし、それに応えるシリルの変幻自在のドラミングは聴いていてうっとりするしかない。体力勝負でもあるが、ふたりとも全身全霊をかたむけてパワーミュージック的なこのラストチューンを疾走していく。やっぱりこの曲が本作でいちばんすごいかなーとか思ったり思わなかったり。つまり、全曲すごいのです。傑作としか言いようがない。おそらくライオンズにとってもシリルにとっても最高の演奏だと思います。シリルのドラミングは、ある意味、見得を切るようなあざとさがあって、そこがまた魅力なのである。
「OTHER AFTERNOONS」(BYG RECORDS/SOLID/ULTRA−VIBE CDSOL−3879)
JIMMY LYONS
いやー、この作品をじつは聴いたことがなかったのですよ。理由はたぶん、知り合いがだれも持っていなかったこととアルトだからということだと思う。そもそもBYGに学生時代あまりよい印象を持っていなかったこともあり(これはかなりの偏見だが、あのころ輸入番屋に売ってたのはめちゃくちゃ反ったカットアウトばっかりで、音も悪く、内容も一度に録音して切り売りしてる感じだったもんで、すいません)、今まで聴かずにきたが、今回、廉価盤の日本盤が出たのをきっかけに購入したら、どひゃー、めちゃくちいいじゃないですか! もちろんジミー・ライオンズはずっと大好きで、セシル・テイラー以外でもなんやかんやと聴いているが、本作はそのなかでも心を揺さぶられた。もうひとりの管がレスター・ボウイというのもけっこう意外な感じだが、これがすごくはまっていて、ボウイのトランぺッターとしての表現力をすごく感じるし、テイラーユニットの同僚であるアンドリュー・シリルは当然のごとくすばらしい「速さ」で反応をばしばしぶつけてくるし、これもテイラーユニットの同僚であるアラン・シルヴァも絡みまくり、絡み倒す。そういうのがはっきりわかるというのは録音がいいんだろうとは思うが、もしかしたらリミックスがいいのか?(レコードを持ってないのでわからない)。とにかくめちゃくちゃ満足しました。4曲ともコンポジションがしっかりあり(全部ライオンズの曲)、それに基づいての演奏なのだが、おそらくメンバーには最大限の自由が与えられており、好き放題なインプロヴィゼイションが繰り広げられているように聞こえる。それにしてもライオンズというのは不思議なミュージシャンだ。セシル・テイラー・ユニットではあの「モンマルトル」に参加した時点で完全にだれでもない自分の個性を持っているし、63年といえばまだファイヴスポットとかの録音まえで、オーネットも活動休止しているころだから、ライオンズのこのえげつないオリジナリティがどういう経緯で育ったのかよくわからない。まちがいないのはセシル・テイラーとの共演によって短期間にどんどん変貌していったのだろうとは思うが、それにしてもバスター・ベイリーにサックスを習い、パーカーを基調として、アー二・ヘイリーやワーデル・グレイ、デクスター・ゴードンなどに影響を受け、エルモ・ホープ、モンクなどと共演していたというこのバップアルト奏者が63年の「カフェ・モンマルトル」を皮切りに「ユニット・ストラクチャーズ」「コンキスタドール」……と確固たる個性豊かなアルト奏者としての自己をみるみるうちに確立していくさまはドキドキするほどである。本作は、ライオンズだけでなく、ボウイ、シルヴァ、シリルとそれぞれにやりたいことをやり、それがライオンズのリーダーシップのもとに最上の形になった稀有なセッションだと思う。ジャケットに写るライオンズは、ブリルハート(だと思う)の白いマウスピースをつけてやや笑顔でどこかを見ている。フリージャズ初期の貴重きわまりない傑作だと思います。