taj mahal

「SACRED ISLAND」(PRIVATE MUSIC 01005−82165−2)
TAJ MAHAL AND THE HULA BLUES BAND

 このアルバムに関しては多言を要すまい。ブルースにはうとい私なので、タジ・マハールというひとも、デビュー作は聴いていただけで、ほとんど知識がない状態で、本グループの2作目「ハナペペ・ドリーム」を店頭でなにげなく試聴し、ギャーッと叫んで購入。毎日毎日繰り返し聴きまくり、一作目(つまり本作)も欲しくて欲しくてたまらんかったのだが、かなりたってからようやく入手して、これまた聴きまくった。ハワイアンとブルースの融合、ということなのだろうが、そんな単純なものではなく、そもそも現代ハワイアンが、伝統音楽のベースのうえにポップスやロックやジャズの要素をふんだんに取り入れた音楽に変貌しているのだから、そこへブルースというかブラックミュージックのファンキーさを結合させると、こんなにすばらしくも凄まじい最高の音楽になってしまいました的な、まあ、魔法みたいな結果になったわけである。これは、だれがやってもうまくいったわけではなく、タジ・マハールというひとのなかにもともとあった、単なるブルースマンではなく、異種音楽を侵食していくようなタイプのエネルギーというか興味がうまく花開いたということなのだろうがとにかくまあ聴いてほしいです。私はこのアルバムをきっかけにハワイアンも聴くようになったが、それは本当にいいことだった。じつは「ハナペペ・ドリーム」を買ってめちゃめちゃ感動したとき、某誌のレビューで小出斉さんが「一枚目のほうがずっといい」と酷評していたので、えーっ、こんなにいいのにこれよりもずっといいの? マジかよ、みたいな感じで、とにかく聴きたくて聴きたくてたまらんかったアルバムなのだが、その思いは裏切られることはなかった。でも、私は2枚目もめちゃめちゃ好きですけどね。(タジ・マハールという建造物からの芸名だと思われるので、本来はTの項にいれるべきだと思うが、ややこしいので便宜的にMに分類しました)

「HANAPEPE DREAM」(TRADITION & MODERNE MUSIK PRODUKTION T&M017)
TAJ MAHAL AND THE HULA BLUES BAND

 最高です。最高の二乗、三乗があればその表現を使いたいぐらい最高。レコード屋の店頭でなにげなーく試聴して、一曲目でガツンとやられ、ただちに購入。その日以来、毎日聴きまくった。今でもたまに思い出したように聴くと、そこから何日も聴き続けてしまう、という麻薬的なアルバム。なにがそんなにいいのか、と思って考えてもよくわからん。よくわからんけど、とにかく最高なのだ。タジ・マハールのダミ声がいいのか? そうかもしれません。もともとこういった、いかにも「ブルースはこういうダーティーな声で歌わないと」みたいな感じの声は苦手だし、タジ・マハールのほかのアルバムは、だから、買ってもあんまり聴かないのだが、このフラ・ブルース・バンドの二枚だけはほんとに特別というか、別格というか、自分でも信じられないぐらいはまりまくっていて、愛聴を通り越して、絶聴とか極聴といった単語を捏造したくなるほどである。現代ハワイアンとリズム・アンド・ブルース的なリズムが合体したファンキーさが心地よいのか? そうかもしれません。たしかに現代ハワイアンはかっこいいナンバーもたくさんあるが(「リロ・アンド・スティッチ」のサントラを聴くだけでも少しは俯瞰できまっせ)、そこに黒人音楽の粘っこいリズムとか歌い方とか、アフタービート的なファンキーさを導入した、ということはあるかもしれない。ジャキッ、ジャキッ、という縦割りの重いリズムと明るく、軽いメロディー、レイドバックした歌い方……などが一体となって、この最高の状態を奇跡的に作りだしているのかもしれない。でも、そんな単純なことではないような気がする。ああ、つまりはよくわからん。ただひたすらこのアルバムを聴きまくるだけだ。いやー、こういうときにCDというのはありがたいなあ。これがもしレコード時代だったらとっくにスクラッチノイズでシャアシャアいってるにちがいない。とにかく全曲よくて、途中で聴くのをやめられないのだ。ほんと、最高でっせ!

「LIVE FROM KAUAI」(TAJ MAHAL)
TAJ MAHAL & THE HULA BLUES BAND

 よく見たらレーベル名もCD番号も書いてないので、タジ・マハールの自主制作みたいなもんかな。ディスクも内袋に入れず、ジャケットにそのまま放り込んである。二枚組で、2015年のライヴ。ぴちぴちの新譜である。タワレコで見つけたときは、うわあ、フラ・ブルース・バンドって、まだやってたんや! と狂喜乱舞した。なにしろ前作「ハナペペ・ドリーム」が出たのが2001年で14年もまえだ。とっくに解散してると思ってた。で、聴いてみると、1曲目は意外にもブルースで始まった。フラ・ブルース・バンドなのだからブルースをやるのに不思議はないのだが、まえの2枚を聞いてるかぎりでは、ブルースはほとんどやらないバンドという印象だったのだ。でも、ええ感じやなあと思って聴いていくと、うーん、タジ・マハールの声が出ていない。ボーカルはかなり衰えたなあと思った。しかし、これは73歳という年齢を考えると、こんなもんだろう、それよりも、考えてみると、ボーカル以外は全部すばらしいということになる。何度も聴いてみると、ボーカルもあまり気にならなくなってきた。バンド自体はすごくいい。サックスのひとも、音程は悪いが味わい深い。そして、曲はどれもいい。というわけで、これが「今のタジ・マハール」なのだ。本人のはりきりぐあいも伝わってくる楽しいライヴ盤である。それにしてもブルースけっこう多めだなあ(1枚目だけで4曲)。でもこのバンドのブルースは、揺蕩うようなスティールギターのポルタメントやウクレレのピキピキいう心地よさ、南国的なコーラスなどが前面に出ていて、ふつうのブルースバンドとは大きく違うのだ。さすが天才タジ・マハール。えらいことをやってのけたもんである。といっても、ブルースと名がついていてもブルースでなかったりもするけどね(「フィッシュ・ブルース」というのはブルースではないです。「ニュー・フラ・ブルース」は変形ブルース)。前作までのヒットナンバー(?)は2枚目に多く収録されている……のかな。まずは前の2作を聞いてから本作を聴くのが順当だと思います。