「JUNIOR」(VERVE RECORDS18MJ9018)
JUNIOR MANCE AND HIS SWINGING PIANO
ピアノトリオというものにほとんど興味のない私ではありますが、本作を偏愛することおびただしく、とにかく学生のころからずーっと聴いている。なんでや? それはわからんのです。なにかが琴線に触れたのだと思う。明田川荘之さんのピアノのように、ピアノからメロディが管楽器のように聞こえてくるからではないか、と思うが、よくわからん。とにかく好きなのだ。こういう、なにを弾いてもブルースっぽくなるひとにレイ・ブライアントとかオスカー・ピーターソンがいるが、個人的にはブライアントもピーターソンもそんなに興味はなく、もっと言うと、ジュニア・マンスに関しても、本作以外のアルバムにはほとんど関心はなく、ただただこのアルバムが好きなのだ。ジャズランドやアトランティックの吹き込みは、ブルースっぽさがぐいぐい表に出ていて、楽しいとは思うけど、ずーっと聴くかというと、やはりこのアルバムを聴くということになるだろう。めちゃくちゃよくないですか? 酒飲みながら聴くピアノトリオ……ってまあ、そんな状況になること何年かにいっぺんかもしれないが、そういうときに聴くのは本作ではないかと思う。レイ・ブラウンのベースがすばらしいのは言わずもがな、なのだが、レックス・ハンフリーズのドラム(とくにブラッシュ)が最高なのですよ。A面1曲目は「スムーズ・ワン」でベニー・グッドマンの曲。くつろいだ弾き方に魅了される。四角い、カクカクしたノリなのにとてもリラックスして聴こえる。こうなるとスウィングもビバップも関係なく、「ジャズ」という感じ。2曲目はジーン・ライト作曲のブルースだそうで、渋い選曲ですなー。3曲目はゴルソンの「ウィスパー・ノット」だが、この曲を聴きたいがためにこのアルバムを聴きつづけている、といっても過言ではないぐらい好きな演奏。ありふれた表現だが、「心に染みる」。4曲目「ラヴ・フォー・セイル」はこれ以上ない、というぐらいスウィングしている。聞いていてると貧乏ゆすりのように足を動かしてしまう。5曲目はバラードだが、超珍しい選曲のようである。なんと素直で美しい。B面に移って1曲目はホーギー・カーマイケルのスタンダードで、すごくゆったりしたテンポで歌いまくる。洒落てますなー。2曲目はマンスの曲で、サビのない循環曲みたいな感じ。ぐいぐい来るレイ・ブラウンのベースがめちゃくちゃかっこいい。3曲目はガレスピーの「バークス・ワークス」である。マイナーブルースだが、普通のブルースに聞こえるぐらい「ブルース」である。微妙に、本当に微妙に、テーマのリフを繰り返すたびにちょっとずつ変えているところを味わいたい。児山紀芳氏によるライナーに「ハンフリーズが第5ソロ・コーラスでブラッシュからスティックに持ち替えた瞬間からの文字通りにグルーヴィーなトリオの演奏をとくと味わっていただきたい」とあるのはまさにそのとおりだと思う。4曲目はマンス作曲のスローブルース(といっても、テーマとかはないので、「作曲」とは言えないけどね)。本作中いちばん長尺な演奏だが、本作におけるマンスのプレイの特徴として、コテコテになる直前に抑制している感じがある。この曲ももっとアーシーになってもいいのだが、クサくなるあたりで止めている気がする。それが絶妙の雰囲気をかもしだしていて、終始、緊張感も持続している。レイ・ブラウンのソロもすばらしい。ラストは「ジュニアズ・チューン」というそのものずばりのタイトルの曲。循環タイプの曲で、軽快にスウィングする。アルバムを締めくくるにふさわしい曲。というわけで、好きで好きでたまらんアルバム。傑作。