ray mantilla

「SYNERGY」(RED RECORDS VPA198)
RAY MANTILLA SPACE STATION

 グロスマンが3曲だけ入っているから、発売されてすぐに買った。1986年に吹き込まれたアルバムなので、だいじょうぶかなあグロスマン……という不安もあったが、聴いてみて杞憂は吹っ飛んだ。まず、グロスマンが入っていない曲もすごくかっこいいのです。レイ・マンティラというパーカッション奏者は、いろんなひとのサイドに入っているのは聴いたことがあるが、リーダーとしての作品を聴くのはこれがはじめてで、たぶんグロスマンが入っていなかったら買わなかったと思うが、このアルバムが最高でした。買ってよかったな、クラリーノ(わからんわ)。1曲目は7拍子のイントロが続いたあと、突然サンバっぽくなるが7拍子は(たぶん)キープされているみたい(ちゃんと数えてないからわからんけど)。フルートソロもいい。2曲目は女性ボーカルをフィーチュアしたバラードで、これもブラジルっぽくていいっすねー(ブラジルのこと、なにもしらんけど)。そして3曲目はパーカーの「スター・アイズ」(パーカーの曲ではないが、パーカーナンバーといっていいのでは?)だが、これをアルトとの2管でグロスマン登場。もともとパーカーもラテンっぽいノリでやっているが、それをきちんとラテンにしてみたらどうなるかという感じ。グロスマンは、デビュー以来ずっとラテンリズムを追求してきたという側面もあるし、この当時はこういうバップもがっつりだったわけで、最適の人選だったと思う。ここでの演奏は音にスピード感があり、バップフレーズを延々つむいでいたかと思うと、突然スケールアウトしたり、グロスマンフレーズを吹きまくってみたり、例のへしゃげたような高音でスクリームしたり、モンクやドルフィーを感じさせるような変なフレージングを使ったりと自由自在。水をえた魚のようにいきいきと飛び跳ねている。つづくディック・オーツのアルトソロも、非常にストレートアヘッドで、一生懸命さが伝わってきて好感が持てるが、さすがに個性ではグロスマンに数歩譲る。A面ラストは、リーダーマンティラの渾身のコンガソロ。多彩な音色とリズムの組み合わせで、コンガからオーケストラのような表現を引き出している。B面にいきましてー、1曲目はエディ・マルティネスの曲。かっこいい。007のテーマに使えそうな曲。グロスマンは入っていないことになっているが、テーマは2管のアンサンブルになっている。アルトは、「スター・アイズ」とはうってかわったモーダルな表現で、こっちのほうがいいなあ。めちゃかっこいい。ピアノソロもいいっすねー。次の曲はモンクの「エローネル」で、非常に「普通」の4ビートジャズ+コンガみたいな感じだが、グロスマンが最初から飛ばしまくる。ハードバップをやっても、こういう風に吹いてくれたらいいのに、という感じの、個性丸出し、グロスマン節全開、しかもバップでもあります的な最高のソロ。かなり長く、ひたすら吹きまくる。かっちょえーっ! オーツのアルトソロはとてもストレートにバップフレーズをていねいに重ねることで、グロスマンとの対比をしようとしているかのようだ。しかし、ソロをはじめてすぐに、グロスマンが後ろでちょっかい(?)というかリフのようなソロのようなことをしつこく入れ始める(それがおかしい)。そのリフにあおられるように、けっこうテンションが上がっていく。ピアノソロは、リズム的な遊びが楽しい。グロスマンは吹きたくて吹きたくてたまらん、という感じで、ピアノソロの最後の部分をリフを入れながら食って、そのままコンガとのバースに突入。このあたりも、ドキュメント的におもろいのだ。そのあとグロスマンとバーツのバトルになり、この噛みあわない感じも最高。2管というのは、よく似たタイプをそろえる場合もあるが、こういう風に対極のふたりを合わせるほうが広がりができるなあ(大失敗するときもあるだろうが)。ラストはまたマルティネスの曲で、バラード風のピアノソロのイントロに続き、コンガが前面に出たリズムとフルートによる美しいテーマを持った曲が始まる。この曲、グロスマンが入ってるとなっているが、出てこんなあ、と思っていたら、突然ゆったりとした4ビートになる時点で現れて暴発のようにグロスマンフレーズ(「グラシェラ」のテーマの変形みたいなフレーズ多し)を吹いて吹いて吹き倒し、うひゃーっ、かっこええ! しかし、変な構成の曲だな。というわけで、グロスマンを語るうえでは外せない傑作であり、(たぶん)レイ・マンティラ的にも傑作なんじゃないかと思う。もう一度言うが、買ってよかったなクラリーノ。ジャケットがダサすぎるのも、だんだんとよく思えてくる不思議。