michael mantler

「THE JAZZ COMPOSER’S ORCHESTRA」(ECM RECORDS JCOA1001/2)
MICHAEL MANTLER

 ああ、言葉がついていかない。もどかしい。なにしろジャズ史上屈指の大傑作なのである。正直な話、フリージャズなんちゅうものは、ええかげんな、「ほんまにこれ、音楽か?」「際物やないのか」「ただの徒花やろ」……みたいな評価が多かったはずの当時、このアルバムの存在は大きかったと思う。「このアルバムはすばらしい。これだけの演奏が、これまでのジャズのイディオムから離れて成し得るのだから、フリージャズというのは本物だ」と考えたひとも多かったのではないだろうか。とにかくとてつもない傑作である。一曲目のドン・チェリーとガトー・バルビエリ(すごくいい)をフィーチュアした曲からこのアルバムのすごさは証明されたようなものだが、ラリー・コリエルのギターをフィーチュアした曲を経て、ラズウェル・ラッドがボントロを吹きまくる、私の大好きな曲に至る。この曲はいいっすよー。この演奏のあまりのよさに、ラズウェル・ラッドのアルバムもいろいろ聴いたが、けっきょくこれがいちばんいいかも。それぐらい良い。トロンボーン本来のしっかりと安定した大きな音でのブロウはフリーだなんだという以前の原始の心地よさがある。そして、ファラオ・サンダースが終始ギャアギャアとフリークトーンの嵐で攻めたてる短い曲をはさんで、いよいよ真打ちであるセシル・テイラーの登場である。疾走するセシルのピアノとオーケストラのせめぎ合いは35分にも及び、不協和音の塊をぶつけあい、しだいに高まりあって、ついには一体となって怒濤のクライマックスを迎える。マントラーのオーケストレイションもこの曲がいちばんよいかもしれない。これだけのメンバーを集めました、とか、こんなスコアを書きました、というだけでこれだけの演奏ができたとは思えない。おそらく天からなにかが降り注いで、フリージャズ初期のこの瞬間に全員に神がかり的演奏をさせたのだろう。そして、本作が吹き込まれているといないとでは、その後のフリージャズの展開は大きく変わったとすら思われる。歴史的にも内容的にも、名盤の名に恥じない傑作である。