lawrence marable

「TENORMAN」(JAZZ:WEST RECORDS JWLP8)
THE LAWRENCE MARABLE QUARTET FEATURING JAMES CLAY

 愛聴盤。いわゆる「ジャズ喫茶的名盤」というやつかもしれんが、そんなこととは関係なくひたすら好き。よくよく考えると驚くべきレコードであります。ドラマーであるローレンス・マラブルがリーダーなのにタイトルは「テナーマン」。内容も、マラブルがそれほど派手なドラマーではなく、自己主張も控えめであることもあって、どう聴いてもジェイムズ・クレイのリーダー作なのである。しかし、この4人が一丸となってひとつの音楽を作り上げていることは間違いないし、そこにおそらくマラブルの好みとかリーダーシップが反映されているのだろう。それが私の趣味に合うのだから、マラブル凄い! ということになるのだ。ピアノがソニー・クラーク(なぜかSONNY CLARKE表記)でベースがジミー・ボンドというあたりも「ジャズ喫茶的名盤」感をプッシュしているのかもしれないが、とにかく私はクレイ(この録音時点でまだ20歳だというから驚きである。リー・モーガンかウイントン・マルサリスみたいじゃん!)クレイがレイ・チャールズのホーンセクションに入ったのはこれよりあとだから、本作は本当にクレイのデビューであり、ほかの3人もそれを盛り立てているのだ。まず、選曲が私の好みで、「ジ・デビル・アンド・ザ・ディープ・ブルー・シー」「イージー・リヴィング」「ウィロー・ウィープ・フォー・ミー」「ラヴァーマン」……といったスタンダードはまさに私が好きな曲ばかりで、ローレンス・マラブルという会ったこともないひとに「気が合いますなー」と言いたいぐらいなのだが、ソニー・クラークのおなじみ「マイナー・ミーティング」(クラークはこの曲を何度も録音しているが、本作でのバージョンもなかなかですよね!)も入ってるし、選曲としては完璧ではないでしょうか。肝心のクレイの演奏だが、ときどきキイキイと裏返るミストーンがあるが、それも含めて「ええやん」と私は思います。ソニー・クラークがすばらしいのは当然としても、20歳にしてこのメンバーのフロントを仕切るだけの力があったクレイはすごいし(イリノイ・ジャケーが「フライング・ホーム」のソロを吹いたのは19歳というのも驚異的だが)、マラブルが自己のリーダー作にフィーチュアして「テナーマン」というタイトルをつける気になった気持ちもわかる(でも、本作がマラブルの唯一のリーダー作と言われると、「えっ……」とは思うが)。本作の魅力の多くはソニー・クラーク(といっても彼もまだ25歳ぐらいだが)によっているのはわかるが、私の耳はひたすらジェイムズ・クレイにひきつけられる。ウエストコーストにおけるハードバップだなー、という気にさせられるハーブ・ゲラーの「エアタイト」という曲での弾けっぷりも堂にいったもので、音楽に年齢は関係ないとはいえ、クレイの成熟した演奏には驚かざるをえない。4バースでのマラブルのドラムも小気味よい。「ウィロー・ウィープ・フォー・ミー」はテンポが速いが、クレイはサブトーンも駆使した表現を行っており、硬質なトーンだけのひとではないのわかる。テナーサックスという楽器のすべてを心得て余裕をもって深い表現を行う、という老成したミュージシャンと表現やテクニックは未熟だがあまりある若さをぶつける、という若いミュージシャンの両方がこのジェイムズ・クレイというひとのなかに共存していて、「テナーマン」というタイトルも含めて、テナーサックスを吹く我々にとって、こういう演奏はまさに一期一会であり、それを録音するチャンスを与えたマラブルはえらい、と思ったり……とにかく冒頭にも書いたが愛聴盤なのであります。傑作。