「ONE SPECIAL NIGHT IN ITALY」(TUSCA IN JAZZ・LIVE 0801)
REMI VIGNOLO DS.,D.SANNA P.,M.ROSCIGLIONE B.TRIO FEATURING RICK MARGITZA TENOR SAX
なんだかデータ的にはよくわからないアルバムで、イタリア人の地元のトリオにリック・マギーツァが客演したもの……みたいだけど、実際にはマギーツァが仕切っており、オリジナルも提供しているし、どう聴いても彼のリーダーアルバム的である。いわゆる、スペシャルゲストを招きました的セッションというよりも、本腰を入れた充実の内容である。5曲目と6曲目にトランペットが入るが、このひとも上手いけど、めちゃめちゃオーソドックスなスタイルで、ソロで実験(?)をしたおすマギーツァに比べてさすがにゲスト感は免れない(6曲目はドラムも変わる)。とにかくマギーツァは凄い。軽い音でかろやかに吹いていたかと思うと、いつのまにかアウトしたフレーズをクールに積み上げていき、わけのからないところに聴衆を連れて行ってしまう。めちゃくちゃうまい。どんなに軽く吹いているようでも、狙っている音がダークで変態で、しかもジャズテナーの王道なので、信じられないぐらいの説得力がある。いや、ほんとすばらしいです。バックのトリオもよくて、たぶんドラムがリーダーなのだと思うが(最初に名前が書いてある)、ピアノのひともさまざまな引き出しを開けて盛り上げまくる。選曲もすばらしくて、1曲目がマギーツァのオリジナルで「盗人通り」という物騒な名前の曲。イントロのベースがじつにいい雰囲気で、テナーによるテーマも不穏でかっこいい。微妙に音を外していて、不安定な感じを出している。ええ曲書くなあ。2曲目がサラ・ヴォーンも歌っていたイヴァン・リンスの「ラヴ・ダンス」。3曲目がファッツ・ウォーラーの「ジターバッグ・ワルツ」で軽い感じのテーマの吹き方にしびれる。4曲目も渋い曲だが私もめちゃめちゃ好きな「クライ・ミー・ア・リヴァー」。5曲目はトランペットがゲストで入るからかブルース。オーネットの曲だが、そういうことは関係なく、単にセッションのテーマとして使っただけ、みたいな感じ。ラストは「ソフトリー」でこれもセッション風。しかし、マギーツァのソロはクールに燃え上がっていて死ぬほどかっこいい。ほんまに上手いよなあ。トランペットもストレートではあるがこの曲ではいいソロをしているし、ピアノもぐねぐねしていて、外し方最高。ひたすらマギーツァのすばらしいテナーを堪能できるアルバム。このひとはマイルスのところでも活躍したが、正直、マイルスのところに合うテナーは、ショーターのようにサウンドを作り出すひとであって、復帰後のマイルスバンドにはそういうテナーは結局ひとりもいなかったのではないかと思っております。マギーツァしかり。このひとは本作も含めたリーダー作をいろいろ聴いているかぎりでは、やはり「ジャズテナー吹き」だったと思う。ボブ・バーグしかり、ビル・エヴァンスしかり(ケニー・ギャレットはアルトなので論外)。ゲイリー・トーマスが、そういう素質のあるひとだったはずなんだけどなー。あ、ちょっと話がそれてしまった。というわけで、個人的には傑作です。ドラムのリーダー作といえるのかどうか……という感じなので、一応リック・マギーツァの項に入れておきます。