「A NIGHT AT SNUG HARBOR,NEW ORLEANS」(SOMETHIN’ELSE CJ32−5514)
ELLIS MARSALIS
ニューオリンズジャズシーンの大物で、ブランフォード、ウイントン、デルフィーヨ(本作のライナーも書いている。熱い、しっかりした内容であります)らの父でもあるエリス・マルサリスの豪華なリーダー作。トニー・ダグラディとリック・マーギッツァの2テナーって豪華すぎる。どちらのソロも甲乙つけがたく、ダグラディのほうがエッジの立った太く硬質な音で(バコッという低音がかっこいいが、高音の濁らせ具合も超かっこいい)、マーギッツァのほうがやや細めの音(この録音のあと音色的には変化していく)。どの曲も、ソロイストがゴリゴリのソロを言いたいことを言いつくすまで延々と繰り広げる……というやり方ではなく、非常に端正で、短いコーラス数のなかでしっかり吹く……という感じである。そのバッキングをして、ソロもガンガン弾くエリス・マルサリスというひとは、教育者的なイメージがあるがそうではなく、なるほどモダンジャズのひとであり、ソロイストでもあり、現場のひとなのだなあと思った。共演者のブロウに対峙して、ガツンと手厳しいコードを一発ぶちこむような「バンドリーダー」なのだ。ドラムのデヴィッド・リー・ジュニアもすばらしい。1曲目のマーギッツァ、エリスのピアノ、ダグラディ、デヴィッド・リーのドラム……とソロが続く1曲目がいろいろ言いつくしているのかもしれない。2曲目もだいたい同じような味わい。どのソロもすばらしいが、熱狂的な演奏ではなく、その一歩手前で抑えたクールさが感じられる。そういうのがリーダーのエリスの好みというか美学なのだろう。3曲目はピアノトリオによるバラードで、この演奏だけを取っても、エリス・マルサリスが「ウイントンたちの父親」「教育者」ということとはまったく関係なく、めちゃくちゃ優れたひとりのミュージシャンであることがわかる。途中でサックスが入ってきてソロがリレーされるが、ラストはまたピアノトリオで締めくくられる。4曲目は「サム・モンク・ファンク」というタイトルどおりのモンクっぽい雰囲気のマーギッツァの曲。ファンクということになっているが、リズムは4ビート。マーギッツァのソロもエリスのソロもモンクを意識したすばらしいものだが、つづくダグラディのソロはまたちがった豪快な感じで吹きまくっていて最高。5曲目はスタンダードで、ゲストのドナルド・ハリソンがアルトではなくテナーを吹くワンホーンによる演奏。正直、私はこのひとのアルトよりテナーの方が好きなのです。全然アルトのひとが吹いてるテナーっぽくなく、生まれついてのテナー吹き、みたいな演奏であります。6曲目はそのドナルド・ハリソンの循環の曲で、なんとアート・ブレイキーが参加している。しかも、まだ10代だったらしいニコラス・ペイトンの初吹き込みだそうである。そのペイトンが先発で、さすがに緊張しているようにも聞こえるがブレイキーをバックにこれだけ吹けたらたいしたもんである。この時点で個性もちゃんと感じ取れる。ハリソンのテナーソロもええなあ。日本語ライナーに、ソロはニコラス、ドナルド、エリス、ビル、ブレイキーの順と書いてあるが、実際にはニコラス、ドナルド、ビルであって、エリス・マルサリス(テーマのサビだけ担当)もブレイキー(ラストにエンディング的に一瞬だけ叩く)もソロをしていないので、どうしてこういう書き方をしているのかわからない。7曲目はチェンジ・オブ・ペースということでエリスのソロピアノ。オーソドックスだが豊穣な表現がたまらん。ラストは「チュニジアの夜」で、なんでブレイキー参加曲をこの曲にしなかったのかは不思議だが、まあ、そうなるとお決まりのパターンになりますからね。マーギッツァ、ダグラディ、ハリソンの3テナーによる演奏だが、ジャムセッションという感じかと思ったら、ちゃんとしたアレンジが施されている。本当にマジな感じのソロばかりで、「最後にチュニジアやりましょか。ソロ回しで」みたいなゆるいノリではなく真摯な演奏であります。3人とも個性を発揮しまくった最高の演奏であります。そのあとエリスのピアノソロとドラムソロで締めくくられる。あー、淡白なようでじつはコテコテのライヴであります。こういう書き方はおかしいかもしれないが、エリスがリーダー作を作るということになったときに、息子であるウイントンやブランフォードではなく、また、もっと有名なベテランでもなく、トニー・ダグラディ、リック・マーギッツァというふたりをフロントに据えた、ということがエリスの本気度を物語っていると思う。傑作!