branford marsalis

「RENAISSANCE」(COLUMBIA RECORDS CK40711)
BRANFORD MARSALIS

 たぶん発売されてすぐに買ったのだろうと思うが、どうしてこのアルバムを買ったのか……とつらつら考えてみて、どうやらラストに入ってる無伴奏のテナーソロによる「セント・トーマス」が聴きたかったからだ、と思い出した。「セント・トーマス」とあと1曲を除き、ケニー・カークランド、ボブ・ハースト、そしてトニー・ウィリアムスという「すげーっ」というメンバーが固めているので、どう転んでも悪い演奏にはなりえようがないのだが、これだけの猛者を率いて、リーダーシップをきっちりとっているブランフォードはたいしたもんだと思う。1曲目のめちゃアップテンポの「ジャスト・ワン・オブ・ゾーズ・シングス」はアルバム冒頭のつかみとして成功しており、ケニー・カークランドのすばらしいソロが光っている。2曲目はおなじみの「ラメント」で、テナーでのバラードという、どうしてもマンネリになりがちな演奏を、ブランフォードは逃げることなく真っ向勝負して、きちんと成果を上げている。音色に個性がない、と言われるブランフォードだが、どーしてどーして、ええ音してますよね。3曲目は、この曲だけピアノがハービー・ハンコック、ベースがバスター・ウィリアムスという創価学会なメンバーになり(ドラムは不参加)、ソプラノでのバラード。全編幽玄なルバートでの演奏だが、15分にも及ぶ、バラードとしてはかなり長尺な演奏にもかかわらず、ブランフォードは緊張感をしっかり保ちながらふたりの大物を相手に堂々たる自己表現を繰り広げていて正直「ええ根性してるなあ」と思った。たいしたもんである。4曲目以降はまたもとのメンバーに戻る。4曲目はトニー・ウィリアムスによる入り組んだ拍子の曲(5拍子と3拍子?)だがブランフォードもカークランドもそんなことは楽勝とばかりに快調にソロを展開する。ドラマーの曲には珍しくドラムソロがないが、トニー・ウィリアムスはそんな境地はとうに通り越していただろう。5曲目はソプラノによるモードっぽい曲でこれもトニー・ウィリアムスの曲。なかなか名曲だと思うが、ブルーノートの「CIVILIZATION」に入ってる曲(「ライヴ・イン・トーキョー」にも入ってるらしいけど持ってない)なので、もしかしたら生で聴いたことがあるかもしれない(あのクインテットはたぶん2回観た)。ケニー・カークランドがソロといいバッキングといい絶妙。ソプラノソロになるとトニーのドラムが凄みを増す。エンディングでもトニーが叩きまくってすべてをさらってしまう感じ。6曲目は唯一のブランフォードの曲でこれもソプラノをフィーチュアしたモードっぽい曲。先発のケニー・カークランドのソロのときからトニー・ウィリアムスは飛ばしまくっていて、めちゃくちゃ凄い(もちろんカークランドのソロもすばらしい)。つづくソプラノソロもトニーのドラムがすばらしいバッキングでブランフォードをあおる。この凄さは筆舌に尽くしがたい。ブランフォードもなかなかのソロで応えている。そして、最後にトニー・ウィリアムスの圧倒的で凄まじいとしか言いようがないドラムソロがフィーチュアされる。このドラムソロのまえには誰もが開いた口がふさがらないだろう。ラストのブランフォードの無伴ソロによる「セント・トーマス」はコンサート・バイ・ザ・シー出演時の録音で、ヤマハのラジカセ(?)で録音したものが音源らしい。無伴奏なのに、あたかも伴奏があるかのごとくコードチェンジを縫うようにしてバップフレーズを延々つむぐという演奏で、リズムも最後まで一定である。こういう演奏だと、フレーズのアーティキュレイションがリズムセクションにマスクされないのではっきりと露骨に聴こえるのだが、ブランフォードはさすがに上手いと思う。非常に好ましい。ただ、ソロの内容は、ちょっとアドリブの練習に聞こえるようなところもあるけど、もともとがおそらくアンコールでの演奏だったと思われるし、アルバムの締めくくりにライヴからのちょっとしたおまけ(?)を入れるのは洒落てると思う。アルバムとしては、トニー・ウィリアムスが圧倒的な存在感だが、他のメンバーもすごいし、なによりそういった凄腕をリーダーとしてまとめ上げ、それぞれの実力を発揮させているブランフォードがすごいと思います。この録音時、若干27歳ですよ。信じられなーい! ウイントンの天才ぶりは皆のよく知るところだが、兄のブランフォードも凄いのだ。傑作。