「BIG TWO〜HOT HOUSE」(STORYBILLE RECORDS CDSOL−6974)
WARNE MARSH〜RED MITCHELL
レッド・ミッチェルとのデュオでビバップナンバーやスタンダードをやってるライヴ。「ホットハウス」は私の大好きな曲で、テナーのワンホーンでもジミー・ヒースなどがやっててめちゃかっこいい。何回も書いてるが、私はバップナンバーの、本来アルト用に書かれたであろう曲(のテーマ)をテナーがワンホーンで吹き切るのが好きである。そんなこんなでこれを購入してみたが、やはりというかなんというか、マーシュは私が思っているようなテーマの吹き方はしてくれず、例のへろへろっとした音で吹くわけである。しかし、久々にマーシュを(しかもデュオというシチュエーションで)たっぷりと聴いてみるとやはりめちゃくちゃ上手く、快感なのである。30年まえなら考えられないことで、当時ならマーシュとかジュフリーとかゲッツとかいったへろへろしたテナーは、「もっとしっかりリキ入れて吹かんかい」と怒り心頭だったと思うが、今はすべて大好きである。不思議なもんですね。本作はその「ホット・ハウス」のほかに「ラヴァーマン」「オーニソロジー」「イット・クッド・ハップン・トゥ・ユー」「イージー・リヴィング」「スクラップル・フロム・ジ・アップル」など私の好きな曲が目白押しで、いやー、選曲がいいなあと思うが、マーシュは私が好きな風にはそれらの曲を吹いてはくれず、そして、そこが「いい」と思うのだから、ジャズなんてややこしい音楽ですね。高音部でテーマを吹くからひゃらひゃらいった感じになるし、音域が足らなくて、途中から低音域に変える、とか、そのあたりのバランスもあまり考えずに吹いているようだ。そして、マーシュはアーティキュレイションが変だ、とも思うわけである。ベースとのデュオなのでそのあたりが露骨にわかるが、かなり適当というか、スティットや(昔の)ロリンズ、グリフィン、ワーデル・グレイ……といったひとたちのように、アーティキュレイションを聴くだけで、「おおっ、見事!」と思うのとは反対で、聴いていて、「――えっ、そこでタンギング?」とか思う箇所多数なのである。そして、(またですが)「そこがいい」のだから変態ですね。つまり、それはこのひとが前もって練習してきたフレーズではなく、その場その場でレーズをつむいでいることの証拠だと思うわけですよ。いや、もうこの妙な歌心(という表現も変だけど、そうとしかいえない。コード分解なのに、どんどん変な方向に展開していき、しかも歌になっている、という……)はすばらしいと思う。たしかにリー・コニッツほど徹底的ではないけど、ソロの展開のときにもとのコードから離れて行って、かけはなれたところにたどり着くのをよしとする感じは、コニッツに似ているなあと今更ながらに思った。コニッツなら、その先もとめずにどんどん展開させて、どんどん離れていって浮遊していくのだが、マーシュはかなりまえにとめてしまうけど。そして、なんの用意も仕込みもない、その場の即興に賭けたインプロヴァイザーだということも本作を聴くとよくわかります。しかもスウィングしまくり。いや、もう最高です。通して聴くと疲労困憊するので、半分ずつぐらいがちょうどいいと思う。やっぱりLPレコードという文化は偉大だったのだなあ。レコードというものがなく、いきなりCDができていたら音楽はここまで進歩しただろうかなどとあまり関係のないことを考えてしまったりして。傑作です。