「A YOUNG FATHER’S SONG−20 MUSICIANS FOR A SINGER」(AKETA’S DISK
AD−11)
丸山繁雄
あまりにすばらしい演奏ばかり詰まっているのでびっくりする。リーダーでボーカルの丸山繁雄もめちゃめちゃすごいが、参加ミュージシャン個々が短いながらも全力で個性丸出しでボーカルを盛り立てている。久々に聞きなおすと、傑作どころかジャズボーカル史に残るような大傑作なのではないかとすら思う。押しつけがましくないのに、心や身体の隅々奥底にまでしみこんでくるようなボーカルは驚異的で、「声」というもののすごさをしみじみ感じる。どの曲もすごいが、とくにB−1の「太郎ザ・キャット」が忘れられない。このブルースでの梅津のクラリネットソロ……いいですねえ! まあ、ジャズボーカルなるものに関してなにかを語るような知識もなにも持ち合わせていない私だが、本作の良さは真剣にわかるつもりである。そして、スキャットのすばらしさはもう筆舌に尽くしがたい。スタンダードを明るく、またけだるく歌う「ジャズ風」のボーカリストのおねえちゃんはちまたにごろごろいるが、これだけのスキャットができるという音楽性は、音程、リズム、その他もろもろの技術を、器楽同様に身につけていなければできない技である。そんなボーカルは日本中さがしてもなかなか見つからんだろうな。曲ごとにバックアップミュージシャンがかわるが、不思議とトータルな印象にばらつきはない。いや、バックアップという言い方はこのひとの場合当たっていないな。丸山繁雄もまたミュージシャンのひとりであり、ベーシストやサックス奏者と同じように「演奏」しているのだ。よく、ジャズボーカリストは、声も楽器のひとつです、とか、私も対等にミュージシャンとして参加しています、的なことを言うが、ほんとうにそれが実践できているひとは稀である。丸山繁雄は稀な稀な例であることは私が断言します。
「YU YU」(HANA−KOBO CORPORATION AD−22)
丸山繁雄
「ヤング・ファーザーズ・ソング」と同じぐらいの傑作であることはまちがいないが、参加ミュージシャンが固定的なので、よりまとまりと落ち着きが感じられる。私はラグビーにはなんの知識も関心もないので、かなりの部分をしめる「ラグビー組曲」は、その曲や演奏のすばらしさはわかるが、ほんとうの意味ではたぶんわかっていないのだろう。でも、ええ曲ばっか。「ストレート・ノー・チェイサー」が入っているが、これがまた凄まじい演奏で、目が点になる。参加ミュージシャンはみなすばらしいが、とくにテナーの井上淑彦は、前もって書いてあったんじゃないか、と思いそうになるほどの完璧なサポートソロを披露して、ほとほと感心する。また、ピアノの米田正義のアドリブのみずみずしさと歌心にも聞き惚れる。ただ、アルバムを聴き直して思ったのは、こんなにすばらしいボーカルにもかかわらず、私が、これはめっちゃすげーっ、ライヴに行こう……という具合にのめりこまないのは、おそらくこのひとの「明るさ」ゆえだろう。これは好みの問題としかいいようがないが、サンバなどでみせるこのひとの心底の明るさ、それがこのひと心中を反映したものかどうか、それはわからないが、少なくとも音楽的にカーン! と明るい。ブラジル人のように明るい。これが、たぶ暗さを本能的に欲する私の嗜好と若干のずれがあるのだろう。でも、そんな私でもわかりますよ。このひとは、そしてこのアルバムは最高だ、ということを。
「THE ONE」(F.S.L FSCJ−0009)
丸山繁雄酔狂座 MEETS JOHN HENDRICKS
先輩でフィールドハラーのリーダーである岡本さんから、ジョン・ヘンドリックスの日本でのライヴがCDになって、自分たちの演奏も入るかもしれない、という話を聞いていたので、てっきり「ジョン・ヘンドリックスのアルバム」だと思っていたが、蓋を開けてみると丸山繁雄と酔狂座のアルバムにジョン・ヘンドリックスが入っているのは10曲中4曲だけである。しかし、この4曲は超貴重だ。なにしろこのときジョン・ヘンドリックスはなんと91歳である。普通なら自宅から出るのもやっと、という年齢だと思うが、それが飛行機に乗り、日本に来て、バリバリ歌いまくったわけだからすごいというかすさまじいというか……。ジョンが入っていない曲も、歌詞はジョンのものを使っていりして、さすがの選曲である。そして、丸山さんだけのトラックがめちゃめちゃ素晴らしいのである。これはジョンが聴いているから、という、良い意味での緊張感や高揚感のせいかもしれないが、とにかくすばらしい。「シャイニー・ストッキングス」も、おなじみのベイシー〜エラの歌詞ではなくジョン・ヘンドリックスのものだが、この曲での丸山さんのボーカルはバンドと一体となって狂気のごとくスウィングしまくりで、バップスキャットの極みとして、エラと肩を並べるバージョンになったと思う(テナー、ピアノ、そしてベースソロも見事としかいいようがない)。バンドとしては米田さんのピアノもすごいけど、個人的には、山口真文さんの、力の抜けた余裕のテナーソロ(しかも歌いまくり、スピード感抜群)がどの曲でも最高の出来で聞き惚れる。そして、4曲に参加しているジョン・ヘンドリックスはどうかというと、これがもう91歳のボーカリストとは思えない凄みのあるボーカルを聴かせてくれる。声は出なくなっているが、リズムもピッチもしっかりしていて、なによりおそろしいぐらい深みがある。バラードもアップテンポのものもたいしたもんである。「ストレート・ノー・チェイサー」は、バシッとアレンジされており、ボーカルとテナーのユニゾンのところはめちゃかっこいい。ドラムもええ感じだ。しかし、そのあとに続く即興スキャットバトルは、出来映えとしてはよれよれで大雑把かもしれないが、この91歳の即興バップスキャットのなかにジャズボーカルの神髄があるにちがいない。こんなもん、習い事としてボーカル教室に習いにいっても絶対でけへんで。ラストに収録されたフィールドハラーのピックアップメンバーとの共演による一曲も、残念ながらジョン・ヘンドリックス不在だが、アルバムの締めくくりにふさわしいガンガンスウィングしまくるナンバーで、これも残念ながらフィールドハラーメンバーのソロはないが、ボーカルに対して最上の歌伴で応えている。バブス・ゴンザレスもエデ・ジェファーソンもジョー・キャロルもいないが、我々にはジョン・ヘンドリックスと丸山繁雄がいる、と力強く感じることができたアルバムでした。傑作。