zane massey

「SAFE TO IMAGINE」(P−VINE RECORDS PCD−4720)
ZANE MASSEY

 ジャズ批評の別冊「テナーサックス」という本で原田さんという評論家がゼイン・マッセイの初リーダーアルバム「ブラス・ナックルズ」をめちゃくちゃほめていて、どんな風かというと「迫真という言葉すらウソ臭くなるほど本気なゼインのプレイ」「まるで塗装前の木彫りの熊のようにゴツゴツしたサウンドだが、音楽の力をこれほどに感じさせるディスクに会うことなど、今後の人生でいったい何度あるだろうか」とまで書かれており、ここまでほめちぎられると、やはり聴きたくなってくるわけで、あちこち探したのだが、「ブラス・ナックルズ」はなくて、かわりに二枚目の、この「セイフ・トゥ・イマジン」を見つけて、買ったのだ。ものすごく期待して聴いてみたが、うーん……なんというか、原田氏の評価とは正反対で、残念ながら私のいちばん嫌いなタイプのサックスであった。まず、音だが、たしかにでかい音だとは思うが、いわゆる「むりやり鳴らしてる」感のある音で、聴いていてしんどくなる。近鳴りしてると思う。アーティキュレイションも、私の嫌いな、ブツ切れのタンギングで、早いフレーズだと腰砕けになるし、全然よくない。また、口と指がちぐはぐで、テクニックも未熟であると思う。フレーズも、トリルとかリズミックなものを多用するのだが、そういった、いろいろ吹いたあとで、盛り上げるためにここぞというときにそういうフレーズを吹くならともかく、最初っからそればっかしだもんな。アドリブとしてのイマジネーションのわき出す感じがまるでないのだ。全体にとにかく大味なのだが、こういった豪快と大味をとりちがえているいわゆる「根性吹き」のテナー奏者は海外にも日本にもけっこういて、気合いで何もかもカバーできると考えているのではないかとさえ思う。下手なら下手でよい。まったくかまわない。たとえば、シエップはサックスのテクニックは下手だが、それをうわまわる個性がある。そういう奏者が存在できるのがジャズ界のよいところである。でも、大味なのはよくないと思う。曲づくりも、おっ、この曲ええやん、と思ったのはたいがい父親の曲だった。あまりミュージシャンについて酷評したくないし、その権利もないが、原田氏のあまりの賞賛と自分の印象がちがったので、ついこうなってしまった。今回、何度か聴き直したが印象は変わらなかった。二枚目だったからかな、一枚目の「ブラス・ナックルズ」は原田氏の言うとおり、すばらしい出来かも……と思い、後日、入手して聴いてみたが……。それについては下記に。

「BRASS KNUCKLES」(DELMARK DD−464)
ZANE MASSEY

 はじめて接したゼイン・マッセイのリーダーアルバムは二枚目の「セイフ・トゥ・イマジン」で、これの印象が(上記のように)とにかくよくなかったので、一枚目である本作を入手して聴いてみた。たしかに、二枚目よりは出来映えはよいが、上記に書いたゼイン・マッセイ本人のよくない部分(好みの問題かもしれないけど)がまるで解消されていない(あたりまえだ。時系列的には逆だから)ので、印象はさほど変わらない。共演の3人はすごくいいのだが、リーダー本人の実力がそれについていっていない感じ。こういう、ゴリゴリのテナーのワンホーンものというのはすごく好みのはずなので、とても残念なのだが、私より5歳年上のこの人、きっと今はすごくいいテナーマンになっていると思う。そう信じたい。だって、このアルバムも二枚目も、めちゃめちゃ「やる気」は伝わってくるので。