sabir mateen

「OTHER PLACES OTHER SPACES」(NU BOP RECORDS CD 05)
THE SABIR MATEEN QUARTET

 サイドマンとして参加しているアルバムをのぞくと、主役級の作品はハミッド・ドレイクとのデュオぐらいしか聴いたことはないのだが、あれがめちゃめちゃよかったので購入。ホームページを見てみると、リーダー作は多くないが、サイドで加わっているアルバムはかなりの量であり、そのほとんどがフリー系である。フリージャズまっしぐらのひとは、だいたいにおいてなにかしら飛び道具があるとか、暴れるならとことん暴れるとか、強烈な個性があるものだが、サビエ・マティーン(サビアかもしれないしサビールかもしれないが……)は真っ向勝負、王道を行くフリージャズプレイヤーであるが、そういった「これぞ」という勝負所はない。骨太の音、骨太の演奏、骨太のインタープレイ、骨太のリズム、骨太の曲、そして手抜き一切なく、真摯に正面から、自分の信じる音をぶつけてくる。そういうプレイヤーはどちらかというと、地味な印象になってしまうが、このひともたしかにそうで、派手で大向こう受けするようなプレイはほとんどない。しかし、よく聴くと、非常にディープで味わい深く、土の匂いのするような、心温まるプレイが詰まっている。一曲目冒頭のパーカッションのカラフルで自由な律動にまず引き込まれるし、そのあとに登場するクラリネットも土着の民族楽器の味わいだ。そして、主奏楽器のテナーとアルトは、まるで重い斧でも振っているかのごとき鈍い迫力がある。武道にたとえると、洗練された都会の道場剣法ではなく、田舎でひとり身体を鍛えている無骨な剣術修行者のような雰囲気を感じる。実戦だと、たぶんそういうプレイヤーのほうが強いのではないだろうか。ずっと耳を傾けていると、おおっ、すごいっ、とびっくりしたりする場面はほとんどないのだが、(本人たちがどう思っているかはしらないが)じつに素朴で、身体の深いところで反応しあっているような、落ち着いた音楽である。作曲も良くて、「アラン・ショーター」というそのものずばりの曲名のナンバーがあったりして、このひとの出所がわかって興味深い。

「URDLA XXX」(ROGUE ART ROG−0026)
SABIR MATEEN

 これもものすごく楽しみにしていたアルバム。サビア・マティーンは自己のバンドを含むさまざまなグループで活躍しているが、本作は完全無伴奏ソロ。おそらく、このひとならこういう風にするだろうな、と思っていたとおり、単なるサックスソロではなく、パーカッションを多数使い、リード楽器やボーカルもメインに近いぐらいに使用した、目まぐるしくもカラフルでシリアスかつ楽しい、おもちゃ箱をぶちまけたような演奏になった。あー、これはええわ。アート・アンサンブルのひとたちに近い発想で、デヴィッド・ウェアやデヴィッド・マレイのソロはストイックにひたすら一本のサックスの可能性を追求するものだが、私がサックスソロを人前でやるなら、こんな感じならなんとかできるような気がする。じつは、そんなことを言いつつも、サックスソロのライヴをしたときは、ただただサックスを吹くことだけで終わってしまったので、もし、つぎの機会があれば、ということです。しかし、たったひとりでおそらくかなりの聴衆がいるまえでまったく飽きさせることなくそれどころか感動に包まれるような演奏をする、たいしたもんだよなあ、このおっさんは。とんでもない実力の持ち主でもあるが、シリアスなだけでなくどことなく飄々として、呑気な部分もあるのが楽しい。