「LIVE IN HAMAMATSU」(AKETA’S DISK MHACD3801〜3803)
SAX WORKSHOP
いやー、びっくりしました。よく出たなあ、このアルバム。なにしろ3枚組ライヴで音もあまりよくない。でも、とにかく「サックス・ワークショップ」のアルバムが出る、と聴いてから欲しくてたまらず、ただちにレコード屋に飛んでいきました。それぐらい「出たということ」自体に興奮した。私が高校時代にちょうどジャズを聴きだしたころに、こきグループはばりばり活動していた。一度聴きたいと思っていたのだが機会にめぐまれず、結局果たせなかった。そのうち解散してしまったので、私にとっては幻のグループとなっていたのだが、この3枚組で溜飲をさげることができた。うれしくってたまらん。内容はマジ最高で、フロントの3人はもちろん、リズム隊もすばらしーっ。みんな若くて、体力も気力も十分で、めちゃめちゃ凄いソロの応酬なのに、「こんなことあたりまえ」みたいな感じがまたよい。このグループから沢井原児が抜けて、国安良夫が入ったバンドを神戸で学生のころに見たことがあり、それには圧倒的な衝撃を受けたが、そのときの興奮と感動が蘇った。曲は全部松風さんのオリジナルで、例の「ステップ」とか「アース・マザー」なんかもやってるのが、またよい。フロントの3人は、本当にそれぞれ個性的で、自分の個性を深く深く真剣に掘り下げているのがよくわかる。意外に、といっては失礼だが、沢井原児がすごくよくて、すっかり見直した。とにかく個人的には今年(2006年)の最大の収穫といえる。まあ、つまり……こういう音楽が好きなんですね、私。全編、宝物のようなアルバムである。松風さんがリーダーのようなので、その項目に入れました。
「AT THE ROOM 427」(ALM RECORDS AL−3002)
KOICHI MATSUKAZE TRIO FEATURING RYOJIRO FURUSAWA
これはめちゃめちゃ愛聴した。私だけでなく、大学のときの軽音ジャズには、本作を愛聴しているものがほかにもけっこういた。なんといっても一曲目の「アコースティック・チキン」が衝撃的だ。このライヴのとき、ドラムの古澤がメモ書き程度に書いてきたリフだそうだが、それをこのトリオは情熱的に、かつしつこく演奏する。そのしつこさは、自分たちのなかにある一番高い位置にある「もの」が出てくるまで演奏をやめない、という感じであり、また、真摯にその作業を続けていれば、いつかはそれが出てくる、という自信のあらわれでもあるように思えた。若さゆえの「無駄なエネルギー」なのかもしれないが学生時代の私はこういった「汗ダラダラ」のしつこさに随分と共感を覚えたものだ。たしかに荒削りだが(なにしろ本当の意味での「初演」だ)、その荒さがすべて良いほうに奉仕しているではないか。──しかし、今でも果たして共感できるのか。もしかすると「こんな手探りの、無駄の多い演奏に感動していたのか俺は」的な失望を味わうのではないか、とびくびくしながら久しぶりに聴き直してみて、あのころの感動がまったく色あせていないことがわかって、ちょっとホッとした。人間の感性って、10年や20年じゃ変わらないもんですね。とにかく松風、山崎、古澤の三者が一体となった怒濤の爆走ぶりは、その後の自分の音楽観にいろいろと影響を受けた。ほかの曲も全部よく、バラードの「ラヴァーマン」も、じっくりゆっくり急がず曲を解体していき、再構築するというしつこい演奏ぶりがじわじわと感銘を呼ぶ。ええなあ、いつになってもこういうジャズが好きなのだ。
「EARTH MOTHER」(ALM RECORDS AL−5001)
KOICHI MATSUKAZE TRIO+TOSHIYUKI DAITOKU
一作目のライヴがあまりによくて、超愛聴盤となったので、二作目であるこのスタジオ盤も期待したが、これはやはり一作目のほうがシンプルなパッションが露骨に伝わってきて、私の好みである。といっても本作が駄作というわけではもちろんなくて、スタジオ作ということで、おそらくどの曲もリハを入念に行い、コンセプトも統一して収録にのぞんだのだろう。その分、荒削りさが薄れ、完成度が高まっている。松風さんはフルート、アルト、テナーを均等に使い、個々のオリジナル曲(どれも個性的)に対してもっとも適合すると思われる楽器を選んでいる。ジャケットの物憂い写真のイメージもあって、一時期はかなり愛聴した。一作目が衝撃的だったので、それに比べると……ということで、本作も悪くないです。しかし、今聞き返して思うのは、現在の松風さんはさまざまな経験を経て、とてつもない怪物のような、独創的なサックス奏者になっているが、そのすべての芽はこのアルバムの時点ですでにあったのだ、ということです。
「万華鏡」(OFFNOTE ON−22)
松風鉱一トリオ
水谷浩章、小山彰太という松風トリオにギターの三好功郎がゲストではいったカルテットによる演奏。ゲストといってもとにかくギターは全編にわたって大活躍している。一曲目は五拍子のブルースでフルートのショウケース。めちゃめちゃかっこいいし、めちゃめちゃ自然である。いい力の入り具合で、一曲目にはぴったり。二曲目はテナーによるモーダルな曲だが、ギターのカラフルなカッティングのせいで明るい曲調に。浮遊するようなギターソロ。そして、無骨なテナーソロ。ええなあ。三曲目はアルト。ハワイアンみたいなギターのたゆたうようなリズムに乗って、アルトサックスが軽いノリを維持しながらフレーズをつむいでいくが、ひとつひとつのフレーズは軽さと鋭さが同居しており、リー・コニッツがそうであるように、軽く深くぐさりと心に突き刺さってくる。四曲目はソプラノ。重苦しいアルコベースではじまり、和風なメロディをソプラノがしみじみつむいでいく。めっちゃええ曲! 5曲目は鳴りのいいアルトによるモンク的なテーマの曲。ソロは松風さんの独壇場の世界観。6曲目もアルトによるバラード風だが奇妙なテーマをもった曲。美しくもいびつで不可解なソロが、サブトーンによってしみじみとつむがれる。すばらしい。7曲目はフルートによる激しくもストレートアヘッドな演奏。ソロは短いが珠玉。ギターソロも心に染みる。8曲目はテナーだが、テーマも含めてドルフィーを感じさせる演奏。ドルフィーのようななめらかさや切迫感がないのに、なぜかドルフィー的なアプローチを感じるソロ。ベースソロ、ドラムソロも非常にすばらしい。9曲目はアルトによる力強い演奏。やはり松風さんにおいてはアルトとテナーはそれぞれにアプローチが変わり、ふたつを吹き分ける意味はたしかに大きいようだ。ベースソロかっくいー。10曲目はテナーがサブトーンで吹くバラード。楽器コントロールの完璧さと歌心を味わいませう。11曲目はテナーによるちょっとモーダルなかっこいい曲。かなり気に入った。自分でもやってみたいと思うような、めちゃええ曲。往年のような異常な迫力やどえらい盛り上がりはないが、それを凌駕するような柔軟性や深い音楽性、表現力があり、お釣りがくる。円熟、という言葉を使ってもいいかもしれない。ええアルバムや!
「PRIVATE NOTES」(STUDIO WEE SW309)
松風鉱一カルテット
全編、松風鉱一のソロにからみつき、触発し、突き放し、あさっての方角に飛び出したかと思ったら、いつのまにかすぐ横によりそっているような加藤祟之のギターが最高である。それにしても、バッキングというかインタープレイというか、そういうことにおいてここまで大胆にふるまえるというのは凄いと思う。聴いていてきわめてスリリングなのに、優柔不断さがかけらもない、確信に満ちた音なので、とにかく気持ちがいいのだ。ベース(めちゃくちゃ凄い)もドラム(めちゃくちゃ凄い)もそうだが、この4人の猛者たちが長いキャリアのなかで数々の斬り合いを行ってきたひとつの到達点のような気がする。よく「このメンバーでしか出せない音」みたいなことが言われるが、このアルバムに関してはまさにその言葉がぴったりだと思う。全員、単に音を出しているだけでなく、音色、ダイナミクス、リズム、間……などあらゆるものを動員して表現してくるからそのからみあいかたも複雑で奥深く、そして、めちゃくちゃかっこいい。松風さんのサックスはもちろんだが、フルートが「どうなってんの」と言いたいぐらい凄い。ソロが自由すぎる。しかも、全曲作曲して(ええ曲ばっか)、なおかつリーダーとして音楽をひとつにまとめあげている。こういった「コンポジションがあって、ソロイストだけでなく、全員のインタープレイのなかでパワーを出していく」タイプの即興は、上手くいくとこんなにもすばらしい結果を生むのだ。ライヴとは思えないほど完成度が高い。ベースがパターンを弾き続け、ギターがさまざまなエレクトリックなノイズをかまし、ドラムが獲物を狙う豹のように共演者をじっと見つめたバッキングをしているなかで、自在に吹きぬけていくフルートは快感としか言いようがない。ギターソロも驚愕の自由さで、ドラムとのからみは聴いていてよだれが出る。ベースソロも、なんというか「私は今から好きに弾きますよ」的な宣言のような感じで、テクニックをひけらかそうとかいった気持ちはゼロの、本当に美味しいソロ。2曲目はアルトで、フリーな即興のあと、ベースのハードボイルドなリフからはじまるいかにも松風鉱一らしい曲。高音部を中心にフリーキーに吹きまくるが、この境地に至ったら、もうすべてが「快楽」であり、耳障りな箇所が一瞬もない。これだけアコースティックなノイズをぶちかましているのに、なぜだーっ! と言いながらニコニコしながら聴く。ギターも同様で、すべては私の快楽中枢(そんなものがあるのか?)をズバズバ刺激してくるのだ。ギターソロが終わってからのドラムと異常な音のギターとのデュオ(ベースをバックにしているからトリオか)はすさまじい。うわー、いきなりクライマックス来たなー、と思ったが、じつはそうではなかった。3曲目はサブトーンを駆使したアルトとメンバーにゆるーい演奏で、こういう雰囲気もいいなあ。ギターソロ最高。3曲目はフルートでベースとギターシンセ的な音のからみが信じられないぐらい気持ちいいのだ。フルートのタンギングとか上ずったような音の持ち上げとか、すべてが心地よい。そういうものなのか音楽って……なにか罠にはなめられてるような気がする……と思いながら聴いているが、たぶん「そういうもの」なのだ。ギターソロも呆れ果てるぐらいすごい。5曲目はファンキーなブルースで、ソロはフリーキーな感じ。いわゆるフリー・ファンク的なものを思わせる。6曲目はベースがオスティナート的なフレーズをずっと弾くマイナー曲。松風アルトにからむこのギターのぶっ飛んだバッキングには居住まいを正すというか、よくこんなこと弾くよなあ、と思う。常軌を逸脱したこれらのバッキングがすべてハマッているという事実にも驚く。天才の集まりである。ドラムもすさまじいですね。7曲目はテナーによるバラード。古いジャズサックスのバラードプレイを基礎にしたような演奏で、ずっとサブトーンで吹いているような感じ。ギターのバッキングや外山明のロールナトも絶妙にマッチしている。ラストの8曲目はギターのリフが鮮やかな三拍子のマイナー曲。ぐちゃぐちゃっとした感じで吹き続けるアルトソロがすばらしい。そのあとのギタ―ソロもさっきも書いたけどよだれ、よだれ……という感じ。ドラムソロも自由で豊穣である。というわけで、どこを切っても聴きどころだらけ。いやー、身の毛のよだつような傑作ですね。ジャケットの絵も最高。
「M.D.LADY」(STUDIO WEE)
MATSUKAZE KOUICHI QUARTET
上記「PRIVATE NOTES」のオマケCDで曲は1曲のみ。全員がチャレンジというか、なにかを試しているような雰囲気で、聴いているとどこか別世界に連れていかれるような気分になる。松風鉱一は上記作では吹いていないソプラノを吹いているが、じつに味わい深い。
「ゲストハウスで昼寝」(STUDIO WEE SW403)
松風鉱一カルテット
メンバーは前作と同じ。1曲目はフルートによるブルースで、スローブルースというよりリズムが自由なブルースという感じ。緊張感に満ちたフルートソロがひたすら空間を生める。そして、ギターがほぼフルートと同じようなテンションをもってそれに続く。なんなのだろう、この空間は。たしかに「ブルース」という音楽の1形式をベースにしているが、そこに現れる音は自由でへろへろでしかもテンションがあって……極楽としか言いようがない。2曲目は竹笛にサックス的なマウスピースをつけたもの(?)による演奏だと思われるが、この素朴な吹奏においても松風鉱一のオリジナリティはしっかりと我々に届く。比較をしたくないが、ドン・チェリーを思わせるたしかに雰囲気もある。ギターもまたドン・チェリーを思わせないこともないシンプルな演奏だが、うわー、めちゃくちゃかっこええやん。3曲目はベースのグルーヴにはじまり、そこにギターの変態的てノイズがぶちまけられるなかでアルトがテーマを吹く。いかにもタイトルどおり「ストリート」を表現しているような曲で、まさに松風鉱一的なひねくれた、しかし同時に耳なじむメロディーを持った曲。アルトソロも変態的だがスピード感があり、松風氏の世界である。ノイジーなギターソロもすばらしい。4曲目は「川ののなかで」というタイトルだが、きれいな川というより、都会の工場地帯にある、工場廃液にどんよりよどんだ川なのかなと思ったりもする。松風鉱一はバスクラリネットでそんなどろりとした水のなかでのさまざまな世界を描き出していく……というような表題音楽ではないとは思うが、個人的にはめちゃくちゃ気に入った。バスクラとともに加藤祟之のギターシンセ(?)がヤバい雰囲気をぶち込んでくれる。こういうのをやらせたらこのひとたちは天下一品なのである。5曲目はタイトルの意味はよくわからないが、焼酎島に黒い木が生えたのだろうか……。柔らかい音のテナーの無伴奏ソロにはじまる、ゆったりしたグルーヴの曲(レゲエ?)。なんとものんびりした、音の隙間の心地よさが感じられる演奏であります。ギターソロもどこかおかしくて最高。こんなソロをこういう曲で弾く、というのが天才なのであります。6曲目はシンプルなエレベのビートを基調にした曲で、あー、こういうのもいいなあ、と思える。ギターのバッキング、ドラムのビート、テナーのテーマ……すべてがシンプル。ベースとギターふたつのラインがからみあう快感。ベースソロもいいっすねー。7曲目は前半は好き放題なギターをフィーチュアしていて(すばらしい!)、このままギタートリオでいくのかなと思っていたら、後半テナーが爆発的で強烈なソロをぶちかまし、最後に外山明のめちゃくちゃかっこいいが、深い、深すぎるドラムソロになる(ギターのバッキングにも注目!)。いやー、感動やでこれは! 8曲目は「PRIVATE NOTES」と同じときの録音。タイトルは「泣き笑い」か? 松竹新喜劇か? サブトーンのアルトが奏でる「ミミソソラ」という音列が耳に残る。全編サプトーンで、キーをカチャカチャいう音もずっと録音されていてものすごく臨場感がある。そういうノイズ(?)はこういう美しいバラードの場合はマイナスなのかもしれないが、この演奏においてはリアルな管楽器の演奏を聴いてる感があって逆にプラスに働いている。9曲目はここにきてかなりハードボイルドなフリーな部分もある演奏。ラストの10曲目はバラードで、短い(といっても5分以上ある)しみじみとする演奏。こういうのを最後に置かれると、また1曲目から聞き直したくなりますねー。前作が傑作すぎただけにこれはどうかなあと思ったら、おんなじぐらい傑作でありました。どひゃー。
「NO.513」(STUDIO WEE)
MATSUKAZE KOUICHI QUARTET
上記「ゲストハウスで昼寝」のオマケCDで曲は「PRIVATE NOTES」でもやってる「NO.513」1曲のみ。重いファンクなブルース。松風鉱一のアルトがぶっ飛ばす。超馬鹿テクでなめらかなフィンガリングでブワーッと吹きまくるのだが、単に調子がいいだけでなく、聴いていてどこかひっかかるような、リズムはノリノリなのだが思索的といっていいフレージングが随所にばらまかれており、そういう部分が心に残るのだ。それに呼応するギターをはじめとするリズムセクションもすばらしいとしか言いようがない。そして、そのあとのギターソロのめちゃくちゃさよ! なにやってもいい、って聞いてたからこんな感じにしました、というような自由さ。「ゲストハウスで昼寝」を入手したひとは、ぜひともこのおまけCDをゲットしてください。至福の演奏が詰まってます。
「ア・ディ・イン・アケタ」(AKETA’S DISK AD−39CD)
松風鉱一トリオ
内ジャケットは小山彰太が象のうえに乗ってドラムをたたいているというよくわからん写真ですばらしい。93年、94年のアケタの店でのライヴ。エレクトリックベースは水谷浩章、ドラムは小山彰太。サックスのワンホーンのピアノレストリオというのは、ときには「ピアノがあったほうがいいのでは……」と思うような場合もあるのだが、松風トリオのこのアルバムにに関してはもう3人でばっちりである。1曲目の「ブロークン・チャイナ・ブルース」というのはめちゃくちゃいい曲で、演奏もさることながら曲として大好き。いかにも松風鉱一的なメロディラインの曲。この曲調で、3人でひたむきに演奏されると、たまらん気分になる。2曲目はエキゾチックな曲をフルートで。3人なのに、アレンジのせいで広がりのあるサウンドになっている。「間」がスカスカで気持ちいい。ベースソロが自由で、すばらしい。そのあとのブラッシュによるドラムソロも洒脱かつ真摯な演奏で、小山さんの面目躍如。好きやー。3曲目はエレベのリフに乗ったブルースっぽい形式の曲で、これもいかにも松風鉱一的なメロディ。アルトで奔放に吹く。曲と戯れている、という感じ。アルトによるバラードで、ちょっと息を抜いた感じで軽く吹くのだが、それがまたかっこいい。かなり複雑なラインを吹いているのだが、それが力の抜け方とあいまって、めちゃくちゃいい感じに聴こえる。ベースとドラムのバッキングも完璧。凛とした空気のベースソロもすごい。5曲目は「ゾウさん」を3拍子の不安定、不穏な感じにアレンジしたもの。ここで内ジャケットとつながるかー! 最初にベースソロがあり、この時点でゾウさんだかナニさんだかわからなくなるが、サックスソロになると急にかわいらしいワルツテンポの曲に変貌。すごくスウィングする演奏で、ここだけ聴くとこれがゾウさんであったとはだれも思うまい。そのあとトートツにゾウさんのテーマが出て、終演という不思議な演奏。6曲目はこれもまた絶妙の変態的な快感のある曲で、松風鉱一はフルート。ドルフィー的といってしまえば簡単なのだが、そういう「影響」云々で語られるようなものではなく、ドルフィーと松風鉱一、その他多くのミュージシャンに共通する志向なのだと思う。同じ鉱脈を掘り当てているのだ。ベースソロもめちゃくちゃいい。そのあとフルートとベース、ドラムの8バースになるがここも3本の色の違う糸をつなげていくような雰囲気でとてもいい。この曲のテーマはどんな楽器で演奏してもサマになる名曲だと思う。7曲目はこれもまた音と音との関係に配慮をしまくった変なサウンドの曲で、シンプルにグルーヴするベースとドラムのうえでアルトはひたすら熱く音楽探求を続ける。8+8+4。そのあとのドラムソロもいたってシンプルなリズムを崩さないが、ぴたっとこの場にはまっている。ラストの8曲目はアルトの無伴奏ソロではじまるバラードで、アルトだけでなく、エレクトリックベースとドラムがひたすら美しい。こういう「思索的なバラード」みたいな感じはめちゃくちゃ好きです。耳になじむメロディとかフレーズを使わないのに、全体の雰囲気はひたすら美しい。完璧な確信犯。すばらしい。というわけで傑作なので内ジャケットの象の写真にだまされることなく(あるいはこの写真こそすべてを言いつくしているのか?)聴くことをおすすめします。
「GOOD NATURE」(TRIO RECORDS/OCTAVE−LAB/ULTRA−VIBE OTLCD2529)
KOICHI MATSUKAZE
松風鉱一の、というより、日本ジャズの、というより、ただただ「ジャズの」傑作。レコードでずっと聴いていた身としては、まず、録音がすばらしいことに驚く。サックスの音のみずみずしさ、バランスのよさ。アルトもテナーも、ぶっといリアルな音でとらえられている。一曲目の冒頭、いきなり変態的な音列による無伴奏のイントロからバラードになるという大胆な構成のアルバム。当時の松風鉱一の意気込みが伝わってくる。全曲オリジナルというのもすごい。ピアノを排して初山博のヴィブラホンを入れ、望月〜森山という重量級のリズムセクションを擁した最高の布陣によるカルテット。テナーの音もドスの効いたヘヴィなもので、とにかくこの一曲目で胸くらをつかまれてしまう。2曲目のドルフィー的音列のテーマ(アルト)も、なんというか「鮮烈」な感じで食い入るように聞いてしまう。30年まえの、私が大学に入ったときの録音である。ああ、俺はあれからなにをしてきたのか……みたいな感慨を覚える。ヴィブラホンを入れたのは「アウト・トゥ・ランチ」へのオマージュなのだろうか。しかし、まったくちがった音楽ではある。3曲目はタイトル曲で、森山のスネアロールが凄まじいマーチ的、というか祝祭日的な曲で、このメンバーでないと成り立たないようなハジケまくった演奏。ここでの松風のアルトソロはマジですばらしい。パッションはもちろんあるのだが、クールさを保ったまま錐もみのように狂気に走っていくような凄まじさがある。スタジオ録音でこれだけの高揚があるというのはすばらしい。森山のドラムソロもド迫力のなかに温かみのあるすばらしい演奏。タイトル曲だけあって、本作の白眉といってもいい、えげつない演奏で毎回聴き終えると腰が抜けたみたいになるほどすがすがしくパワフルな演奏。4曲目もアルトで、初山博のヴィブラホンがアレンジ上いい味を出している。アルトの瑞々しい、パワフルな音色も心を打つ。からみあい、鼓舞しまくるリズムセクションに対して、そのなかの一員として吹きまくるサックスはとにかくかっこいい。微妙な音色の変化で表現する部分あり、ゴリゴリのブロウで表現する部分あり……とにかく引き出しが多い。森山のポリリズミックで複雑なドラムに対して、ぎりぎりまでそぎ落としたような初山博のヴァイヴもいい。3曲目を「本作の白眉」と書いたが、いやー、これもそうかもなあ。5曲目はフルート。不穏な曲調で、名曲だと思う。人間味あふれる表現力。そして、硬質なヴィブラホンのソロ。森山のスウィングしまくるブラッシュ。すべてが溶け合ってこの音楽を作り出している。ラスト6曲目は森山の激しいドラムに対してテナーでテーマを吹く、いわゆるコルトレーン〜エルヴィン的なデュオ。マジで涙なみだの感涙必至の最高の激突。「モーレツ」という古い言葉を思い浮かべるほど。最後のテーマに入ったところで全員参加、ということになるが基本的にはデュオです。あー、めちゃくちゃすげー。本作の白眉といって……ああ、白眉と言うのは一曲だけのはず。全曲が白眉である松風鉱一の、世界に誇る傑作。代表作。逝去がほんとうに惜しい。このひとはジャズの宝でありました。今聴いてるこのCDでは吉田隆一のライナーが花を添えている。もう一枚あるCDではべつのかたがライナーを書いているが読み比べるといろいろ考えさせられる。しかし、ジャケットの絵の色あいがこれだけちがうと、けっこう引くなあ。