「SPIRAL MERCURY」(CLEAN FEED CF301CD)
PHAROAH & THE UNDERGROUND CHICAGO/SAO PAULO UNDERGROUND FEAT.PHAROAH SANDERS
「PRIMATIVE JUPITER」(CLEAN FEED CF300LP)
PHAROAH & THE UNDERGROUND CHICAGO/SAO PAULO UNDERGROUND FEAT.PHAROAH SANDERS
シカゴ・アンダーグラウンド・デュオあるいはトリオあるいはカルテット……はいつも面白くておもちゃ箱をひっくり返したような演奏を聴かせてくれる。人間の体温が感じられる温かみのある即興と、最先端のリズムやテクノロジーが一体となった演奏は、万人受けするタイプのものだと思う。細かい話をすると、ロブ・マズレクがサンパウロに何年か住んでたときに向こうで結成したのがサンパウロ・アンダーグラウンドで、今回はそのふたつが一体となったうえで、そこにファラオ・サンダースが入るという豪華すぎるメンバーによるライヴだが、ふたつのアンダーグラウンドのほうは、これまでもアルバムがいろいろ出ているのでだいたいこんな感じというのは皆わかっている。そこにファラオが入るとどんなとんでもない化学変化を起こすのか……というのが注目の点なのだろうが、残念ながらファラオはかなり元気がなくて、テナーの音もか細い。ときどき、フリークトーンやハーモニクスを吹くときだけ、ちょっと元気になる。たしかにこのグループにある種のスペシャルな雰囲気を与えていて、スピリチュアルジャズのカリスマがそこにいる!みたいな存在感はあるのだが、「起爆剤」ぐらいに終わっていて、このバンドをファラオが圧倒的なフリークトーンで引きずりまわすようなめちゃくちゃなものを期待していた向き(私もそうだが)にはやや物足りないかも。まあ、そこまでやらなくても、リフを吹くときの力強さみたいなものも、もうない。その分、バンドはものすごくがんばっていて、どの曲もまるでちがう様相を見せていて、アイデアの玉手箱状態で、一曲ごとに別の世界に連れて行ってくれる。大傑作といっていいと思う。ただ、ファラオがなあ……。このとき73歳。それにしてはすごいんじゃないのか、という意見も当然あるだろうし、ファラオが元気でがんばってくれてるだけでいいじゃないか、という考えもあるだろう。しかし、私にとってのファラオは、スタンダードを優しく吹くおじさんでも、クラブジャズの神様でもない。ひたすらフリークトーンを吹きまくり、絶叫と阿鼻叫喚の世界を作り出す化け物であり、怪獣なのだ。ファラオ老いたり……というのはとても悲しい。ミックスのせい? いやいやいやいや、そんなことはないと思うよ(LPB面1曲目は明らかにファラオ(とマズレク)の音量は抑えられ、逆にリズムをまえに出したミックスになっていると思うが)。LPの方は、タイトルがちがうのであわてて買ったのだが、4曲中CDと2曲かぶっていて、これも悲しい。でも、残りの2曲がめちゃくちゃ良かったのでええか(ファラオに関しては、同じような感じ)。ファラオのファン以外には大々的におすすめします。傑作だと思うが、何度聴いてもファラオ・サンダースはどうよ、ということだけが気にかかる。マズレクたちは彼からスピリチュアルな要素を得ようとしたが、ファラオはすでに往年の凄みはなく、彼のパートは聴いていてはらはらする。しかし、彼の存在がこのグループに大きな影響を与えてこの演奏が成立しているのだ。そういう矛盾をはらんだ音楽であり、それもまた聴きどころだ。