「LIVE IN MONTREUX」(ATLANTIC RECORDING CORPORATION P5167−8A)
LES MCCANN
レス・マッキャンのカルテット(パーカッション入り)によるモントルー・ジャズ・フェスのライヴ2枚組。管楽器も入っていないし、ピアノもエレピだし、基本的に「初期ファンクジャズ」みたいな感じでけっこう強引だし、ヴォーカル(クレジットはないがマッキャン)も入ってるし……というわけで個人的にはあまりに関心はないのだが、D面にローランド・カークが入っているのだ。とはいえ、こうして久々に聞き直すと、それ以外の曲もなるほどなあ、なかなかええのかもしれんけどわからんなあ……という感じではある。めちゃくちゃ正統派なファンキーR&Bなのだろうが、サックスが入っていないR&Bはなぜか苦手である(ブルースは大好きです)。しかも、マッキャンはヴォーカルもかなりがっつり披露していて(これがめちゃ上手いのだ)、それも苦手な要因かもしれない。結局、私はブルースは好きなんだけど、R&Bとかソウルとかになると途端に関心がなくなる。すごく損をしているような気もするがしかたがない。理由はよくわからないが、こういう音楽を聴いていると、なんだか「踊れ踊れ! 音楽ってのはダンスのためにあるんだよ。ジャズもブルースもダンスミュージックなんだよ。さあ、早く立って、立って」と言われているようでつらいのだと思う。そう……私は踊りたくないのです。というわけで、このアルバムは昔から持っているのだが、D面以外ちゃんと聴いたのは超久しぶりではないか。とにかくわしはカークを聞きたいのだ、ということで2枚目の裏まで待っていると、ついにローランド・カークの登場である。カークとマッキャンにどういうつながりがあるのかわからないが、アンコールでの登場なので、モントルー・ジャズ・フェスというお祭りにたまたま出演していた同士で(同じアトランティックのレコーディングアーティストでもある)、ちょこっと一緒にやろか、というノリになったのを、カークが「ちょこっと」どころかたっぷり演りまくった……といういつもの感じなのかもしれない。長文の英文ライナーを読んでも、当日、カークのバンドがマッキャンのまえに演奏した、ということぐらいしかわからない。カークはノリノリのファンクリズムに乗って、豪快きわまりないサーキュラーを使ったブロウを繰り広げる。これはウケるわ。カークのマイクがちゃんと音を拾えていないところがあるのも臨場感が増してよい。D−1のラストでカークが無伴奏で低音を延々とサーキュラーで吹き続けるところがあって、どう収拾をつけるのか、と思っていたら見事にエンディング。マッキャンはアナウンスして、もう終わりたがっている様子だが、またカークが吹き始めてしまい、仕方なく曲に突入(のように聞こえるが真実はどうだかわからない)。曲というか、ワンコードの即興のような感じだ。カークはエッジの立った太い音で朗々とぶちかますが、そのままファイドアウト。実際はいつまで吹いていたのやら……。というわけで、かなりぐちゃぐちゃなところもあるアルバムだが、そういうあたりが面白いといえる。
「LES MCCANN LTD.IN NEW YORK」(PACIFFIC JAZZ RECORDS CDP 7 92929 2)
LES MCCANN
レス・マッキャンのグループにスタンリー・タレンタインとブルー・ミッチェルが客演したニューヨークでのライヴ。フランク・ヘインズとの2テナーということで、いかばかり凄まじいバトルが展開しているかと思って買ったのだと思うが(ずいぶんまえに)、意外にも(レス・マッキャン的にも)しっとりした演奏が多かった。1、2曲目のテナーはタレンタインだと思うが、フランク・ヘインズというひとのことをよく知らないので確証はない(がんのために37歳の若さでこの録音の4年後に亡くなっている)。チェンジを縫うようにして快調にフレーズを重ねていく点、アルトと聴きまがうほど高音部中心の演奏、高音部に顕著なしゃくり上げるような吹き方、独特のノリ、音色などからタレンタインっぽいと思うのだが。マッキャンのソロはあいかわらずのファンキーな感じだが、正直言って、リーダーのマッキャンについても私はほとんど知識がないので、「あいかわらず」とか書いてもじつは適当なのだった(カークがゲストで入ってるモントルーの2枚組と、エディ・ハリスとやってるスイスのやつぐらいしか知らん。ただし、タレンタインのリーダー作でブルーノートの「ザッツ・ウェア・イット・アット」(青いジャケットのやつ)はもうめちゃくちゃ好きではあるが)。1曲目はけっこう変な曲だがタレンタイン(とおぼしきテナー)のソロはめちゃくちゃ上手い。2曲目はバラードで、最初、ピアノの弦をじゃらじゃら弾く効果音が聞こえるのは、マッキャンの遊び心だろう。ここでのテナーソロもすばらしいがこれもタレンタインやと思うけどなあ……わからん(左チャンネルに、ちょっとだけ立ち位置がずれてテナーがふたりいるのでわかりづらいのです。右チャンネルはトランペット)。3曲目、ジャズロックというよりはラテンっぽいブルース曲でのミッチェルの硬質なトランペットソロもいい感じだが、そのあとのタレンタインのソロはまさに圧倒的である(これはタレンタインにまちがいないと思います。フレーズの独特のノリはタレンタインそのもの)。マッキャンのソロも、こういう曲調だと冴えますねー。4曲目の3拍子のブルースの先発はタレンタイン? 音色が太くて、ホンカーっぽいのでもしかしたらヘインズかも。でも、上手い。ブルー・ミッチェルのソロを経て、もうひとりのテナーが登場するが、こっちは明らかにタレンタインなので、やっぱり先発ソロはヘインズだったかも。このソロはめちゃくちゃかっこいいっす。某ライブハウスに遊びに来たとき私のテナーを使って演奏したのだが、あのときに思った「拍手が来るまで同じことをやる」「ウケたら同じことを何度もやる」精神の一部がここでも発露している。それにつづくマッキャンのピアノソロもいいですね。5曲目のいかにもファンキーなハードバップという感じの曲の先発は(これもたぶんだけど)タレンタインですね。高音が細くて、そこにビブラートをかける感じが個性的なのである。ミッチェルのソロのあと出てくるテナーは明らかにフランク・ヘインズで、タレンタインよりも太く、たくましい音色で、フレーズもタレンタインみたいに揺れない、しっかりしたリズムで吹く。個性という点では、個性のかたまり的なタレンタインのほうに長があるかもしれないが、テナー奏者としての腕は一歩も引かない感じである。6曲目はレコードには入っていなかった演奏だそうで、CD化にあたって付け加わったブルース。これはなかなかかっこいいです。このテナーソロはタレンタインでしょう。短く終わるのが残念。ミッチェルのソロも溌剌としている。マッキャンのピアノソロは左手をひたすら利かせたあざとい感じのもので、めちゃくちゃかっちょいいです。ブレイクがあって、ヘインズのテナーソロになるが、短いが快演。そのあともマッキャンはしつこく左手でリズムパターンを叩きまくり、そのままエンディング。だははは……という感じ。しかし、なぜタレンタインとヘインズのバトルが一曲もないのか、は永遠の疑問である。7曲目と8曲目はカーティス・アミイやボビー・ハッチャーソンなどが入ったスタジオ録音で、たぶんCD化に際して付け加わったセッション。7曲目はアミイの曲でマイナーブルース。ハッチャーソンのヴァイブのあとアミイのええ感じのソロがある。マッキャンのソロ、ベースソロを経てテーマ。ラストの曲はハッチャーソンをフィーチュアしたちょっとファンキーな感じのブルース。ハッチャーソンのビブラホンはさすがで、入ってるだけで空気が変わる。まだ20歳だが、大物としか言いようがない。というわけで、楽しませていただきましたが、1曲目の5分を過ぎたあたりで片方のチャンネルが聞こえなくなるのはうちのCDのせいかと思っていたのだが、どうなんでしょうか。