「MAMA SAYS I’M CRAZY」(SONY MUSIC JAPAN INTERNATIONAL.INC EICP326)
FRED MCDOWELL & JOHNNY WOODS
ギター〜ボーカルのミシシッピ・フレッド・マクダウェルとハープのジョニー・ウッズのデュオ。こういう音楽をどう表現したらいいのだろう。ブルースにはちがいないが、ギターによる心地よい、力強いビートが延々と続く。それを聴いていると心も身体もとろけてしまい、脳がふにゃふにゃになる。ダンスミュージックなのだろうが、踊らなくても、じっと聴いているだけでも勝手に踊っている気分になるし、ひたすら楽しいし、次第に酔っ払ってくるような酩酊感が味わえる。トランスミュージックなのか。でも、それにしてはめちゃくちゃ具体的で強いビートがガンガン来る。そして、相棒であるハープのジョニー・ウッズがまたすごい。ギターに合いの手を入れたり、フレーズを聴かせたり……という感じではなく、ハープもまたひとつのリズム楽器と化して、ギターとともに強烈なダンスビートをひたす刻む。リズミックなハープというのはブルースやロックではよくあるが、ここまで徹底してリズム楽器に徹しているものはあんまり知らん。このふたりのいつ果てるともしれぬ凄まじい「踊れ踊れ踊れ、てめーら踊らんかい!」的な演奏が、時空を超えて我々をキ○ガイにする。だってアルバムタイトルを見てくださいよ。このアルバムが録音された奇跡的というかいいかげんというかそのいきさつはライナーノートに詳しく書かれているが、めちゃおもしろいのでそれもぜひ読んでください。先日インフルエンザから副鼻腔炎になって苦しんでたとき、ほとんどの音楽は喉を通らん、じゃなくて耳を通らなかったが、本作とロバート・ジュニア・ロックウッドだけは聴けたのだ。不思議だなあ。
「MISSISSIPPI FRED MCDOWELL」(ROUNDER RECORDS ROUNDER CD 2138)
MISSISSIPPI FRED MCDOWELL
めちゃくちゃいい。ブルースのことはよく知らないので、このひとは最初に「ママ・セッズ・ミー・アイム・クレイジー」というのを予備知識なく聴いたのだが(ずいぶんまえである)、それで「なんじゃこりゃーっ」となった。マクダウェルもすさまじかったが、相棒のハープのジョニー・ウッズというひとの「パーカッションか!」と言いたくなるようなハープにも驚愕。とにかく聴いていると呆然自失となるようなトリップミュージックだった。ほかになにかないか探していた。やっと入手できた私にとって二枚目がこのラウンダーの(たぶん)1枚目である(高くても買う気があるなら入手できたはずなんですけどね……)。1962年ぐらいの録音だというから、「ママ・セッズ・ミー……」より少し前のスタジオ録音だが、異常……そう、異常と形容するしかない熱気である。ブルース形式とかいうものはぶっ飛ばして、とにかくひとりでギターを弾くブギーである。R・L・バーンサイドの師匠格ということは私も知っているが、この異様な、取り憑かれたような音楽性はもっと新しいひとだと思っていた。1904年生まれとはなあ……このアナーキーで魅力的なブギーマンは私のような門外漢にとってもその凄みがすぐにわかるぐらい圧倒的な存在感とともに攻めてくる。あー、他のやつも聴きたい。マクダウェルといったらコレ、というような看板曲「シェイク・ミー・オン・ダウン」も演奏している(「ママ・セッズ・ミー……」のライナーによると、地元ではそういう仇名で呼ばれていたらしい)。とにかく、ぶっきらぼうなボーカルと、録音のせいかあまりに生々しいギターがグサグサと迫ってくる。幼稚なことを言ってるとおもわれるかもしれないが、とにかく「人間が奏でる音楽」という意味ではこれほど切実なものはほとんどないと思う。私はそういうものを求めてフリージャズとかそういった界隈をうろうろしていたが、このひとのこの演奏もまさにそういうものではないか。このあたりの話をしはじめると面倒くさいのでこれぐらいにしておくが、とにかく「そのひと」の人間性がズガガガーンと伝わってくる音楽にまさるものはない。突然、カントリーブルース的なものも出てきて面食らうが(10曲目のように)、普通はこの年代ならばこっちなのだ。どの曲も普通に始まるのだがすぐにブギーになって、そこからはワンアンドオンリーの世界観になる。なんというか、このひとのカラーですべてを塗りたくっていく……という感じで、そこには協調とかより、これが俺の世界だ、という自己主張がすべてを塗りつくしていく感じである。録音も、なんつーかごちゃごちゃした感じもあり、リアリティがすごい。内ジャケットのサングラスをかけて煙草をくわえたジジイ、といったおもむきの写真も、コマーシャルなことはまったく考えていない、ただただ自分の好きなようにギターを弾き、歌い、聴衆を踊らせていたこのひとの音楽がにじみでているようだ(ライトニン・ホプキンスの写真もそういうところがありますよね)。傑作。