「CHRIS MCGREGOR’S BROTHERHOOD OF BREATH」(REPERTOIRE RECORDS
REP5222)
CHRIS MCGREGOR
バシッ!………………としたかっこよすぎるアンサンブルではじまる。管楽器の使い方が独特だし(露骨に個々を前面に出している)、全体の明るさ、そしてその裏腹の暗さもかなり「変わってる」が、めちゃめちゃ気持ちいいし、かっこいい。これが南アフリカサウンドというものなのか、というのは短絡的すぎるかもしれないが、少なくとも、これがクリス・マクレガー・サウンドであることはまちがいないだろう。ベースになっているのは明らかにジャズなのだが、そこにいろいろな音楽の要素が混ざり合い、幸せな爆発を起こしている。南アフリカという土地はそういうところだったのかもしれない(以前、ダラー・ブランドのドキュメントを見て、そう感じた)。1曲目は、なんとソロのない演奏で、クリス・マクレガーにとってアンサンブルが重要であり、ソロなしでもアンサンブルの部分だけでもなにかを伝えようとしていることがわかる。2曲目は美しいバラードで始まるのだが、そこにドゥドゥ・プクワナの冒頭からへしゃげた音のアルトソロが出てきた瞬間に空間が変わり、世界に変化が起きる。しかし、CDのライナー(超くわしくて、超気合い入ってる)では、このソロのことを「コールマン・ホーキンスとアーチー・シェップが出会ったようなブレンドのテナーサックスだ」と書いてあり、なんでそんな間違いをしているのかよくわからない。トランペットもじつにかっこいい。3曲目はソプラノソロを大々的にフィーチュアした曲だが、このソロが、LPのライナーノートではジョン・サーマンとなっており、CDではアラン・スキッドモアとなっている。正直、どっちの可能性もあるような気がする(ソロのバックでバリサクが聞こえたらサーマンではないことがわかるのだが、うちのスピーカーではよくわからん)。いずれにしてもめちゃめちゃすごいソロで、このころのイギリスジャズは大好きです。4曲目は、いかにも陽気なアフリカ風といった曲調(ドラムのビートが特徴的)が、スウィングジャズっぽい曲調(軽快な4ビートと交互に現れ出るようなアレンジで、めちゃおもろい。フリーキーでえぐいのに明るいトランペットソロ、後半ちょっとだけ狂うトロンボーンに続くサックスソロは、CDライナーによると、アランスキッドモアのソプラノということだが、これもまちがいで、LPライナーノートにあるドゥドゥ・プクワナのアルトというのが正解でしょう。CDのライナーはほんとに気合いが入ってるのだが、こういった根本的なまちがいがあってはなんにもならんし信頼もできなくなる。5曲目はいちばんフリーな即興で、アフリカ的なパーカッション類をみんなで奏でながらひとつの世界を作っていくのだが、それとマクレガーのアレンジが見事に融合し、フリーなようでじつは仕掛けがあり、隠れたビートがある、というかなり凝った演奏である。これがもうかっこいいんです(なんべん「かっこいい」と言うのか。ほかに言葉はないのか。……ないんです)。ジャングルの猿の叫びみたいな音を発していたトロンボーンや、それと掛け合っていた怪鳥の悲鳴のようなトランペットが、13拍子のインテンポのモーダルなソロをいつのまにかはじめていて、全部が集約されていく、という展開はまさにドラマチック。何度もリズムがフリーになっては、そのなかから不死鳥のようにつぎのリズムが生まれてくるのだが、よく聞くと、リズムは崩壊しているわけではなく、底のほうで続いているのだ。こういうのを集中力をもってダレずにやるというのはすごいことだ思う。このアルバム最大の大曲です。ラストの曲は、突撃するような早いテンポの明るすぎるラブソディックなアンサンブルで、同じテーマを2回(2回目はテンポアップ)やるだけ。これまたかっこいいのだ。傑作中の傑作なのでみんな聴くべし!
「TRAVELLING SOMEWHERE」(CUNEIFORM RECORDS RUNE152)
CHRIS MCGREGOR’S BROTHERHOOD OF BREATH
ブラザーフッド・オブ・ブレスの未発表ライヴ。録音は上々。9管編成+3リズム。とにかく、このバンドには謎の魅力がある。誤解を恐れずに書くと、サドメルとも共通する、悪魔の魅惑というか、とりこになったら離れられない麻薬的な快感がある。まず、テーマがどれもめちゃくちゃかっこいい。1曲目とか、ルイス・モホロの躍動するビートに載せてトロンボーンがリフを吹きはじめ、そこにラッパ主体のテーマが載ると、身体が勝手に動く。とくに耳をひくのは4曲目の「コンギのテーマ」という曲で、映画音楽だそうだが、マーチリズムで、まるでジャズの語法を使わずに作曲されたかのような曲である。しかし、めちゃくちゃかっこいい。「病みつき」という言葉がぴったりで、毎日聴かないと手が震えてくる。この曲、やってみたいなー。曲やアレンジに、なんと表現したらいいのかわからないが、「変」なところがあり、それが味わいなのもサドメルっぽい。これがアフリカから来ているのかクリス・マクレガーというひとの個人の資質なのか、従来のジャズを分析することで得たものなのかはわからないが、とにかく変である。そして、アンサンブルが荒い。これはとくにトランペットにいえることで、ハリー・ベケットとモンゲジ・フェザ、それにマーク・チャリグの3人の吹き方がかなり力任せな感じで、音質やアーティキュレイションに対する繊細な注意があまり感じられない(あくまで私見である)が、そこが独特の粗削りのアンサンブルを生んでいて、このバンドの魅力のひとつとなっている。このあたりも(これも誤解を招きそうだが)サドメルっぽい。あと、ソロを徹底的にやらせるので、どうしてもダレる瞬間が発生する。このあたりもサドメルっぽい(もういいですか、すいません)。でも、逆にとんでもない昂揚の瞬間も発生するので、いわゆるお行儀のよいビッグバンドとは根本的に姿勢がちがうのだ。そして、コレクティヴインプロヴィゼイションのパートがやたらと多い。これは「時代」ということで片付けられるのかもしれないが、やはりこのグループの特質でしょう。最後に、(9曲目に顕著にあらわれているが)ひとつのリフでこれだけしつこく耽溺できる、狂えるというのは、ほんとに凄いことである。ロックバンド並だ。キラボシのごとく並ぶソロイストの演奏もすばらしいが、なかでもエヴァン・パーカーの、ほかとは異質なソロが、なぜかバンドに絶妙に溶け込んでいて見事。というわけで、とにかく4曲目は毎日聴かないと収まらないので、結局全部毎日聴いてるのだった。傑作。