「BLUES FOR MR.JIMMY」(STATESIDE 7243 5 37513 2 6)
JIMMY MCGRIFF…
なんで買ったのかなあ。かなり長文のライナーノートもついているのだが、どこにもサイドマンの名前も録音場所も年月日も書いていない。アメリカに、ジャギー・マレイというひとが主宰していた「スー」というアイク・アンド・ティナ・ターナーとかのを出していたブラック・R&B〜ソウル系のレーベルがあって、当時、マグリフもそこからシングルをばんばん出していたらしい。それらを集めたアルバムということになる。個人的には、オルガンジャズは、テナーサックスが入っているからこそ好きなのであって、テナーのいないオルガントリオはまるで興味ない。なんで買ったのかなあ。とにかく何度か聴いてみたが、けっして悪くはない。いや、いい感じです。マグリフはめちゃめちゃうまいし、適度にファンキーで適度にブルースっぽく適度にジャズで適度にロックである。でも、それを突き抜けるものはない。もちろん、シングルヒットを狙ってるわけだから、ぎとぎとの脂ぎったものではなく、この各曲で「踊れる」ことが大事だったのだろう。でも……やっぱりテナーがいないんだよなあ。せめて、どういう編成かだけでもジャケットのどこかに書いておいてくれれば買わなかったんだよなあ。なんで買ったのかなあ……。マグリフは近年、アル・グレイなどジャズジャイアンツをホーンにくわえた豪華なアルバムも何枚か作っていたと思うが、それらはおもしろく聴ける、ということはやっぱり私にはホーンのいないオルガンジャズはあかんみたいである。
「THE WORM」(SOLID STATE TOCJ−50199)
JIMMY MCGRIFF ORGAN AND BLUES BAND
ジミー・マグリフのオルガンはさすがにかっちょええなあ。アンサンブルもゴージャスやし、わはははは、これ聴きながら酒のんだら、これはもう言うことないなあ……という聴き方が正しいのだろうが、いや、ちょっと待て。これはジミー・マグリフのリーダー作であり、大スターであったジミーのオルガンとファンキーなアンサンブルを聴くべきアルバムであることは分かっているのだが、ホーンのメンバーがブルー・ミッチェル、ファッツ・ゼウス(シウス?)、ダニー・ターナー、ボブ・アシュトンとくると、ブリブリのソロ回しに期待したいではないか。しかし、やはりというか当然というか、管楽器のソロはほとんどブルー・ミッチェル独占状態で(1、2、3、4、7曲目でフィーチュアされている。たしかに歌心とファンキーさと大仰さと繊細さと楽器コントロールが見事に同居したソロばかりで最敬礼)、ほかにはダニー・ターナーが3曲目で長めのソロ(バリトーンかなにかかましてる?)、4曲目(超短いソロ)、5曲目で長いけどぐずぐずな感じのソロをする程度。どうなっとんねん、これは! まあ、この時期のオルガンジャズはたいがいこんなもんだといえばこんなもんだが(逆に、ジミー・スミスなどはジャズの管楽器のえらいひとたちがジャズ的なソロをするので、醒めてしまったりする)、うーん、やっぱり私としては、テナーとバリトンソロをせめて一曲ずつでもフィーチュアしてほしかった(テナーはラストの「A列車」でちょこっとだけでてくるけど)。とゆーか、オルガンジャズってだいたいテナーの出番ではないのか。たとえば1曲目はファッツの曲なのにテナーソロはない。どういうことだ! テナーをないがしろにしとるのか! と怒ってもしかたないので、とりあえずCD棚の奧に閉まっておこう(ほんとに怒っているわけではないですよ。いい作品だと思います)。
「JIMMY MCGRIFF AT THE APOLLO」(COLLECTABLES RECORDS COL−CD−5126)
JIMMY MCGRIFF
オルガンジャズが好きなのではなくて、テナーサックスが入っているオルガンジャズが好きなのだ。どっちかというと、テナーが入ってないオルガンジャズは嫌いなのだ。というわけで、うちにあるオルガン系のアルバムはほぼ全部テナーが入っているものだが、たまーに失敗することがあって、うっかりテナーが入ってないのに買ってしまう(パーソネル表記がなかったりして確かめようがなかったりして)。ジミー・マグリフ(このオルガン奏者を知ってからびっと「マグリフ」だと思ってそう発音してきたが、よく考えるとマクグリフだよなー。なぜこのひとだマグリフなのか)もそういうアルバム(つまりギター、オルガン、ドラムのトリオ)のものを何枚か買ってしまって、そういう場合はひとにあげたり、売ったりしているのだが、本作は、ちゃんとテナーが入っている。しかも、ルドルフ・ジョンソンである。ルドルフ・ジョンソンを知らないひとはいないだろうが……なに、しらない? そういうひとはただちに「セカンド・カミング」を聴きなされっ。めちゃくちゃかっこええから。ただ、「セカンド・カミング」のようなコルトレーン的なブロウをジミー・マグリフのアルバムでされたら、それはそれでいまいち……ということになるが、このアポロ(シアター?)でのライヴにおけるジョンソンはちゃんとリーダーおよび観客の意図をくんで、そういう演奏に徹しているからご心配なく。しかし、フレージングの底に横たわる黒々とした魂とあの濁ったような太い音色は健在なので、ルドルフ・ジョンソンファンにも(ある程度は)アピールすると思うが、こういうのをやらせてもやはりめちゃくちゃ上手いひとなのだ。しかし、ここでの主役はやはりテナーではなくオルガンで、ジミー・マグリフは「地味」どころかめちゃくちゃ大げさで派手でどす黒くノリノリの演奏を延々と披露しまくり、こりゃあ凄いわ! と思わず万歳しそうになるほどのエンターテインメントぶりである。1曲目の「アナザー・ユー」はまだおとなしいのだが(マグリフの、おそらく、フットベースのみのソロがある)、2曲目のブルースあたりから全員ノリノリになり、たいへんな大騒ぎになる(オルガンのバッキングのサックスリフがハモるのだが、これはなんでしょうね。2管同時吹きなのかヴァリトーンなのかオルガンの右手もしくはギターとハモってるのを聴き取れていないだけなのか……)。ピアノトリオでスタンダード聴いてるようなひとや、かしこまってコルトレーン聴いてるようなひとは吐きそうになるかもしれないが、いやいや、そういうひとの吐き気は全部私がまとめて面倒見ますよ。いやー、これはめっちゃよかった。このころのマグリフのアルバムにはよく入っているギターのラリー・フレイザーも最高です。ハンク・クロフォードとやってるマイルストーンの諸作でのマグリフよりも、ずっとギトギトで私はものすごくはまりました。
「BLUE TO THE BONE」(MILESTONE RECORDS M−9163)
JIMMY MCGRIFF
タイトルでもわかるように本作は大スターであるアル・グレイのトロンボーンをフィーチュアしたアルバムなのだが、ほかのメンバーも全員バリバリの演奏を繰り広げていて、スタジオ作なのに汗がだらだら垂れるような熱気むんむんの凄まじいグルーヴを見せつける曲ばかりである。冒頭、いきなり野太いオルガンの音に乗ってトロンボーンとアルトがかますブルースのテーマがもうすでにかっこよくて「ギャーーッ」となる。メルヴィン・スパークスのギターソロの四角いノリが腹に来る。つづくグレイの、ほとんどトロンボーンなのか猛獣の叫びなのかわからないような豪快かつ巧みなプランジャー、イーズリーのブルースシンガーのようなアルトの熱血ブロウ、そして大波のように押し寄せるマグリフのオルガン……ああ、これだ、これこそ俺の求めているオルガンジャズだ、と叫びたくなる。世の中にオルガンジャズは星の数ほどあるが、やっぱりこういうのが聴きたいよなーっ、と思う。オルガン奏者が好みであっても、サックスの入ってないオルガントリオは私はまあ聴くことはないし、サックスがあまりにジャズ寄りのひとだったりするのもちょっと……と思うし、ギターも繊細なタイプよりブルースギターのようにガツンと弾いてくれるひとがいいし(チョーキングとまではいかなくても)……とか言い出すと、なかなかドストライクなものはないのだが、本作はもうどこにも文句をつける隙すらない。2曲目はバラードでテーマをイーズリーのアルトが切々と歌う。いやー、見事な音色と表現力に聴き惚れます。そのあとのグレイのプランジャーでのソロもベイシーでのバラードを連想させるすばらしいものです。短いトロンボーンソロのあとに登場するマグリフのソロは、もう出だしからしてかっちょええ。なんというか「イヤラシイ」というか「エロい」ソロであって、聴いてるとよだれが出る。ラストはなぜか「ミスティ」。3曲目はおなじみの「ドント・ゲット・アラウンド・マッチ・エニモア」で、この2管で吹くとテーマもかっこええなあ。ソロはマグリフが先発で、ゴージャスな感じのオルガンをたっぷり聴かせたあと、グレイのオープンのソロになり、これがやはりめちゃくちゃ軽快な「ほんまもん」のスウィングジャズになっており、いやー、さすがというかなんというか「巨匠」ですなー。そして、イーズリーのテナー。アルトもすごくアルトらしい音がするひとだが、テナーもとてもテナーらしい音で吹くひとで、今はほとんどのサックス奏者がそうなっているが、このころはそれほど多くはなかったと思う。ラストノメルヴィン・スパークスのギターも四角いノリでブルースペンタトニックだけで歌いまくっていて、本当に好ましい。途中からハミングとソロを重ねるという芸というか荒業に出て、それもおもろい。そのあとグレイが先導するテーマに戻るのだが、テーマを吹くだけで「ジャズ」になる、というのはすごいことですね。B面にいくと、1曲目は「シークレット・ラヴ」をファンク風のアレンジにした演奏で、スパークスのカッティングがいなたい感じでかっこよく、イーズリーのアルトがグロウルしながらテーマを歌い、グレイのプランジャーがそれを支える……みたいな、ある意味かなり「笑える」ような演奏になっているのだが、マグリフの超ノリノリの先発ソロ、それに続くドファンキーで一直線で圧倒的なイーズリーのアルト、こういう曲調でもプランジャーでオールドタイムな感じで歌うグレイ……しかし、そのグレイのソロがじわじわと「いやー、これはすごいんちゃう?」という風に変わっていくような剛腕な演奏であります。エンディングの逆循の部分で吹きまくるアルトとトロンボーンのお祭り騒ぎは、結局フェイドアウトすることになるのだが、いやはや堪能。2曲目はメルヴィン・スパークスが臭いジャズギターの範疇を越えて、マジのブルースギターを弾いているスローブルース。マグリフのソロも圧倒的で「どひゃーっ」という感じ。そして、圧巻のスパークスの変態的なギターソロは最高! としか言いようがない。キワキワのアヴァンギャルドなところとストレートなブルースギターをすばらしいバランス感覚でコントロールしている。ラストの3曲目はマイナーブルース。グレイのどっしりとした演奏、スパークスの美味しいフレーズ出まくりのソロ、イーズリーの伸びやかな音色でのスウィング時代の名手を彷彿とさせるようなアルトソロ、マグリフのブルースシンガーがシャウトしているような音使いのソロ……ひたすら聴き惚れるのみ。あー、楽しい。いつ聴いても楽しい。個人的にはイーズリーにもっとテナーを吹いて欲しかったけど、イーズリーのサックスを上手いというより器用なだけでよろしくないというような意見をネットで読んだが、個人的にはもうすばらしいと思います。そんなに本質はぶれていないと思うがなあ。とにかくオルガンジャズには最適なひとで、ハンク・クロフォードなどとともに「遅れてきたオルガンジャズ系サックス」のひとだと思うが、本当に「そういうこと」をちゃんと心得た、信頼できるサックス奏者だろう。マグリフとはたくさんのアルバムを作っている。私はとにかく好きです。本作は、多作なマグリフにとっては通常営業なのかもしれないが、私にとっては大傑作であります。
「THE DREAM TEAM」(MILESTONE RECORDS MCD−9268−2)
JIMMY MCGRIFF
タイトルが「ドリーム・チーム」だが、その名に偽りなし、という凄いメンバーで、この面子で駄作ができたらそのほうが驚くでしょう。主役はジミー・マグリフで、デヴィッド・ファットヘッド・ニューマンとレッド・ホロウェイの2テナー、メル・ブラウンのギターに、なんとバーナード・パーディーのドラムという、たしかにこれは夢のチームである。しかも、96年という時点だと、マグリフはもちろん、最年長のレッド・ホロウェイも70近いとはいえほれぼれするようなしっかりしたトーンとリズムでブロウしているし、ファットヘッド・ニューマンも63で、バリバリのときである。メル・ブラウンもバーナード・パーディーも気合いが入りまくっている感じで、ちょうど4人とも充実した時期の録音ということになり、単に「ビッグネームが5人そろった」だけで内容は(本作にも収録されているが)「昔はよかったね」的なアルバムではなく、音楽的にも充実しまくっていて、本当に聴いていて気持ちがいいのです。こないだホロウェイとスティットの聴き分けで何日も費やししてまったので(だれから頼まれたわけでもないのに)、今回もホロウェイか、と思ったが、本作での2テナーの聴き分けは簡単でした。左ファットヘッド、右ホロウェイ。エッジの立った音のファットヘッドに対して、太くて温かみのある音がホロウェイということでいいでしょう。でも、どちらもグロウルしはじめると似たような音になるのでちょっと聴き分けにくいかも。オルガンジャズのこういう感じの作品って、2テナーだったりしても、ほとんどがオルガンソロがフィーチュアされるだけで、テナーはふたりいてもほぼホーンセクション扱い、みたいな作品も多いのだが、本作ではまったくそんなことはなく、ファットヘッドもホロウェイもバリバリに吹きまくっているし、メル・ブラウンも大々的にフィーチュアされていて、たっぷり聴ける。そして、もちろんバーナード・パーディーのいなたいドラムはめちゃくちゃかっこよくて、ほんのちょっとしたフレーズのノリ方がひととはちがうんだよねー的な個性爆発のグルーヴはここでも発揮されまくりで、バンドサウンドに貢献しまくっている。では、めちゃくちゃ簡単に各曲に触れていくと、1曲目はファットヘッドの曲で「マグリフィン」というマグリフに捧げた曲。パーディーのリズムパターンがかっこいい、軽快なファンクっぽいノリの曲。ソロはいきなり2サックスのバトルではじまる。超かっこいい! ライナーにはアルトとテナーと書いてあるが、ふたりともテナーです。どちらもビバップだけでなくこういうファンクチューンにもばっちり対応できるひとなのであります。太い音で、シンプルに歌いまくるメル・ブラウンのギターもよだれ垂れまくりです。2曲目はなんとウィリー・ネルソンの曲。有名な曲らしいが、知らん。マグリフのオルガンのイントロはまるでゴスペルみたい。ギターが切々とテーマを奏で、サックスがリフをつける。オルガンソロも涙がちょちょぎれる。ファットヘッドのサブトーンを駆使したテナーソロもいい。メル・ブラウンはこういうのをやらせてもほんまに心得てる。3曲目のマグリフの曲で「レッド・ホット・ン・ニュー」という、レッド・ホロウェイとニューマンの名前を入れたリフの循環曲。ニューマンはアルト。先発はホロウェイでまったく年齢を感じさせない音、リズム、フレージング。すばらしい。メル・ブラウンも、英文ライナーで「タイニー・グライムズ〜グラント・グリーンの影響云々」と書いてあるが、なるほどと思うようなすばらしいソロ。そして、ニューマンのアルトもいつもながらの個性というか、ハンク・クロフォードやメイシオ・パーカーに通じるような、バップと一線を画するソロ。4曲目はマグリフの曲で、曲といえるかどうかギリギリの超単純なリフを繰り返すだけのブルース。ファンキーなR&B的な曲でメル・ブラウンがええ感じのいなたいソロをする。レッド・ホロウェイ(典型的なブルースのソロで死ぬほどかっこいい)、ファットヘッド(これもまた同じくドファンキーなブロウですばらしい!)とサックスソロがリレーされるが、どちらも凄い。落ち着いた雰囲気のオルガンソロのバックでのパーディーのドラムがかっちょいい。5曲目の「ドント・ブレーム・ミー」はギターがテーマを奏でる、軽くスウィングする感じの演奏。レッド・ホロウェイがサビを吹くが、めちゃかっこいい。かなり長いオルガンソロ→ギターソロ(なぜかファットヘッドがサビの8小節を吹く)→ホロウェイのテナーソロ→ギターによるテーマ(ホロウェイがサビの8小節を吹く)→ホロウェイとファットヘッド(アルト)の4バース→フェイドアウト……というかなり凝った構成。聞きどころが多くて、いい演奏だが、11分26秒と長尺なので、ちょっとダレるか? しかし、続く6曲目のスローブルース「テイント・ノーバディズ・ビジネス」はメル・ブラウンのギターが切々とテーマを弾き、そのあとファットヘッド・ニューマンのテナーがやや濁りめのトーンでまさにむせび泣くような最高のソロをかます。もう、震えるぐらいかっこいい! マグリフのオルガンもすばらしい。そして、サブトーン中心で歌い上げるホロウェイのテナーはニューマンとはまったくちがった個性の感じられるもので、これも超かっこいい。そして、メル・ブラウンのソロも「間」を感じさせて最高。この曲が本作の白眉といっていいかも。ラストの「昔はよかったね」は、ソロ回しなのだが、どのソロも爆発していて最高であります。とくにファットヘッドの大ブロウは超かっこよくて、全部コピーして練習したいぐらいだ。こんな感じの「どうなるか前もって全部わかっている」ような予定調和なソロを、「また、これか」ではなく、いきいきとした迫力のあるものとして聴かせる、というのも凄いことなのだ。とにかく全編すごいクオリティの演奏ばかりで、まさに「ドリームチーム」なのである。傑作!