big jay mcneely

「THE BEST OF BIG JAY MCNEELY」(SAXOPHONOGRAPH BP−1300)
BIG JAY MCNEELY

 ビッグ・ジェイといえば、ジョニー・オーティス・バンドの吹き込みで名をあげて、サボイから出した「ディーコンズ・ホップ」で大スターになったひとであるが(どちらもこのアルバムにも入っている)、本作はエクスクルーシヴ、インペリアル、フェデラル、ヴィー・ジェイ……などの録音を収録してある。B−1、2はインペリアルのものにオーディエンス拍手をくわえた、バイユーというレーベルのものらしい。まあ、だいたいビッグ・ジェイというひとは一曲聴けばもうすべてわかってしまうようなワンパターンのひとであって、シングル盤だとその曲だけを聴くので、その圧倒的な迫力や切迫感、ノリの良さなどで「おーっ、すげーっ」と聴いてしまうが、こうしてシングルをずらーっと並べ立てられると、やっぱり飽きがくる。これはブルースなどもそうだが、シングルをクロノジカルにきちっと順番に収録したようなLPは、いかにもヨーロッパ的というかマニア的なのだが、その功罪はある。その点、CDだと、適当につまみ聞きできるので良い。本作は収録曲(どの曲もすごいが、とくに「ザ・グーフ」という曲とか、ものすごい頭の線のぶちきれたようなブロウです。デヴィッドSウェアみたい)もさることながら、ジャケット写真などがめちゃめちゃ貴重で、当時の様子がよくわかる。大スターだったんだなあ。

「ROAD HOUSE BOOGIE」(SAXOPHONOGRAPH BP−505)
BIG JAY MCNEELY

 上記「ザ・ベスト・オブ……」とはかぶらない。こちらは基本的にはエクスクルーシヴの録音を中心にして、アラディンが4曲、あと、なぜかフェデラルが2曲入っている。どの曲がどうっちゅうことはないが、とにかくビッグ・ジェイの若き日の雄姿を堪能できる。でも、上でも書いたが、ずっーと聴いてるとさすがに飽きてくるので、たまに、何曲かずつ聴くのがいいと思う。ジャケットのすごさはこちらのほうが上で、汗をだらだら流し、鼻の穴をおっぴろげて、床に寝ころがり、のたうちまわってブロウするビッグ・ジェイの姿が並んでいて感動ものである。

「BIG JAY IN 3D」(SING650)
BIG JAY MCNEELY

 フェデラル録音オンリーのアルバム。上記「THE BEST OF BIG JAY MCNEELY」とも「ROAD HOUSE BOOGIE」ともかぶるが、フェデラルでまとまっているという点では便利か。

「LIVE AT BIRDLAND 1957」(BIG J RECORDS JLP−108)
BIG JAY MCNEELY

 当時のビッグ・ジェイ・バンドのワンナイトギグの雰囲気が味わえる。自分の曲に、適当にバラードやスタンダード、当時のヒット曲などを織りまぜていき、ボーカルをフィーチュアしたり、自分のブロウサックスをフィーチュアしたりして、飽きさせないように工夫している。ライブということもてつだって、かなり荒いが、荒っぽさはブロウテナーにプラスになりこそすれ、決して悪くははたらかないので、このころのビッグ・ジェイのリアルで迫力に満ちた等身大の姿がたっぷり聴ける。昔はソニー・クリスやハンプトン・ホーズとビバップをやってたんだと豪語するだけあって、ときどきそういったジャズ的なフレーズが顔をのぞかせるのも楽しい。

「DEACON RIDES AGAIN」(PATHE MARCONI 154 6691)

 インペリアル録音を集めたもの。音もよくて、迫力がある。久々に聴いて思ったのは、ビッグ・ジェイの曲はブロウものとそうでないものにわかれるが、ホンクする曲はブルースより循環が多いような気がする(ちゃんと数えたわけではないので、印象ですが)。そして、循環でホンクする箇所は、普通は(私もそうだけど)AABAのAの部分だと思うんだけど、ビッグ・ジェイはなぜかブリッジの部分でホンクする(あの「ディーコンズ・ホップ」もそうですよね)。えーと、それだけです。

「FROM HARLEM TO CAMDEN」(ACE RECORDS CH111)
BIG JAY MCNEELY

 これは凄いよっ。なにが凄いって、1曲目の「ハーレム・ノクターン」。この、キャバレーというかストリップというか、そういう物憂い都会の夜とかエロっぽいものを連想させるようなムード曲で、復活なったビッグ・ジェイがとことん吠えまくるのだ。この曲の、こんな鼻血ブーものの大ブロウは聴いたことがない。サム・テイラーやシル・オースティンのバージョンをぶっ飛ばす、ビッグ・ジェイ流の解釈だ。これが出たときは、ほんとに「すごいーっ」とスピーカーのまえで吠えた。こんな風に吹けたらなあ、といろいろ試してみたが、やはり無理である(来日時に生で聴いて、その理由がわかった。音がでか過ぎるわ、このおっさん)。B−1には、同じくカムバック後の主要レパートリーである「ナイトトレイン」が入っている(その2曲の入った同時期のライブ(オムニバス)も聴いたけど、本作のほうがすごいです)。正直言って、その2曲を聴くと、すごいすごい、ビッグ・ジェイはカムバック後のほうがすごい、と思うのだが、ほかの10曲を聴くと、うーん、やっぱり変わらんなあ、と思う。おんなじような曲調ばかりで飽きるのである。しかし、その「変わらなさ」が、いいじゃないか、と思うのです。一曲目はとにかく愛聴しまくりました。このあと出たアルバムはだいたいCDで買ったので、LPで買ったビッグ・ジェイの最後のアルバムかもしれないなあ。タイトルもジャケットも最高! ビッグ・ジェイしゃん、わしゃ、あんたが好きですばい! となぜか九州弁で叫びたくなる一枚。

「LIFE STORY」(BRISK RECORDS BRCD003)
BIG JAY MCNEELY

 85歳で去年来日し、多くの聴衆に感動を与えたビッグ・ジェイ翁だが、昨年出た新譜(?)を入手したのでさっそく聴いてみた。細かいデータが記載されているのだが、なぜか録音年月日がどこにも書いていないので、いつの録音のものかわからんが、写真を見るかぎりではたぶん最近だと思う(ライナーに84歳と書いてあるので、一昨年の録音であろうか)。正直、まったく期待していなかったが、よれよれのビッグ・ジェイが一生懸命吹こうとしているのを聴いて元気をもらおう、みたいな感じで聴いてみると、いやはや、恐れ入りました。申し訳ございませんでした。よれよれどころか、立派立派! 中低音はしっかり鳴っていて、フレーズもおなじみのものだが古びた感じはなく、気合いは十分だし、ファンキーなフレーズで盛り上げて、ここぞというときにフラジオでぎょええっと吠えるという図式は健在だ。そのフラジオもへなへなだとかっこよくないが、まだ大丈夫。そして、曲がバラエティにとんでいるし、いい曲ばっかりなので飽きない。えらいもんで、御年84歳にして、ちゃんと商業的にも立派で、若い連中のアルバムと並べても内容的に遜色のないものができあがっておるのである。このアルバムの成功はビッグ・ジェイを支えるバンドの力も大きい。レイ・コリンズというひと(ギター兼ボーカルらしい。本名はレイモンド・コリンズスキー)が率いる「ホット・クラブ」というドイツのバンドがバックをつとめ、そこに(おそらく)管楽器奏者などを補充して、曲によってばらつきがあるが、だいたい(ビッグ・ジェイを除き)8〜10人編成ぐらいのバックバンドになっているのだが、曲によってはテナーが4人、バリトンひとり……みたいな編成のものもあり、そんなにテナーいるか? と思うのだが、音を聴いてみるとちゃんとすっきりしている。これだけテナーがいるので、実際、ソロを吹いているのがビッグ・ジェイかほかの奏者かはわからない。基本的にはみんなこういった音楽を心得ていて、いいソロをするので、あとは音色その他で聞き分けるしかないが、正直、そういった作業は無意味である。このアルバムは、もう全体を「ドン!」と味わえばよい、ということに決めた。このバンドのみんなが、こういう音楽を手慣れているというだけでなく、ビッグ・ジェイを心から愛し、尊敬していることが伝わってくるのである。昔の名前で……とかそういう一種の憐れみの視線ゼロで普通に楽しめるいい作品である。