jay mcshann

「NEW YORK−1208 MILES(1941−1943)」(MCA CORAL MCL−1030)
JAY MCSHANN AND HIS ORCHESTRA

 チャーリー・パーカーがソロをしている曲がある、というだけでジャズファンには有名な吹き込みだが、実際にはもうひとりのアルトであるジョ・ジャクソンというひとも、いかにもスウィングっぽい良い音をしており、ほかにもポール・クィニシェットの初吹き込みが入ってたり(しょぼいソロだが)、もちろん御大ジェイ・マクシャンはすばらしいし、ベースはジーン・ラメイでドラムはガス・ジョンソンという、ベイシーバンドにも匹敵するすごいメンバーだし、一部では鼻づまりのブルースシンガーと酷評されるウォルター・ブラウンのボーカルも悪くないし……と聞きどころの多いアルバム。私は全曲大好きです。とくに、デクスター・ゴードンもやってるあの「ジャンピン・ブルース」からはじまるB面はよく聴いた。全体に、リフ主体の曲が多いが、この「リフ主体」というのは一般に「荒っぽい」という受け止められ方をしているようだが、実際にはここで聴かれるように、カチッと、ピシッとしている。シンプル・イズ・ベストですね。

「CRAZY LEGS & FRIDAY STRUT」(SACKVILLE SACK−5001)
JAY MCSHANN,BUDDY TATE

 めちゃめちゃすばらしい。学生のころに買ってからずっと愛聴しているが、飽きません。ピアノとテナーのデュオなのだが、このふたりにとってはベースもドラムも不要だ。というか、ピアノのリズムがあまりに強力で、テナーのリズムもまた凄すぎるので、ミディアム〜アップテンポの曲ではふたりだけで十分だし、バラード的な曲ではもちろんふたりだけのほうがじっくり絡み合い、音色をたっぷり聴かせ合うことができる(ドラムやベースにマスクされない)ので、正直、デュオなのにすごい! ではなく、デュオのほうがすごい! 感じで、このアルバムの録音時、マクシャン67歳、テイト61歳とそこそこの年齢なのに、異常な安定感とテクニシャンぶりに驚愕する。なによりもすごいのはさっきも書いたがリズムのすばらしさで、凡百の若手では出せない強烈にスウィングしまくるバネのようなリズムが露骨にわかる。そして、テナーの音色もすばらしくて(これもさっきも書いたけどデュオならでは。コルトレーンの「インターステラー・スペース」をいつもプッシュするのも、テナーの音がすごくよく聞こえるという理由も大きい)、やや大きな音量で聴くと、瑞々しいテイトのテキサステナーの音が間近に感じられる。私の記憶が正しければ、同作が出たころはテナー〜ピアノのコンビネーションが流行っていた時期で、シェップ〜ダラー・ブランド、テイト〜ダラー・ブランド、シェップ〜ホレス・パーランとかが高い評価を得ていた覚えがあるが、なかでもとにかく本作は突出している。私が激愛の1枚であります。テイトにとってもマクシャンにとっても代表作といっていいのではないか。1曲目は冒頭からマクシャンのピアノソロがかなり続き(デュオアルバムなので、この部分はつまりソロなのだが)、この曲はピアノだけで終わるのか? と思いかけていたころにテナーが出てくる。満を持して、という感じではなく、ひょい、と出てくるのだが、その力の抜け方がいい。そして、存分に弾きまくり、吹きまくり、聴き手は「おおっ」とのけぞるようになっている。ショウケースである。マクシャンのストライドピアノはほんとに魔法のようにすごくて「圧巻」という言葉しか浮かばない。リズムからブルース感覚からユーモアからなにからなにまで最上級だ。そして、テイトの高音域でのずりあげるような音の伸ばし方とか軽いグロウル、重いグロウル、数ある引き出しから次々とフレーズを繰り出して歌いまくるその演奏は、名人芸とか娯楽性が芸術の域にまで達することの感動を味合わせてくれる。2曲目は「スターダスト」に似たメロディが出てくる曲だが、アービン・バーリンの曲らしい。ひたすら酔わせてくれる名手(今、変換すると銘酒と出たが、その漢字でもかまわない)二人。3曲目はテイトの曲。いかにもテイトが書きそうな曲調で、伸び伸びした演奏。ひたすらスウィングするなあ。スウィングするマシーンみたいだ(とくにマクシャンのピアノ)。4曲目はバラード風にはじまる歌もので、岩波洋三氏のライナーによると「テイトが低音を存分に生かしていかにもテキサスの荒くれ男らしいワイルドなガッツのあるプレイをみせる」とあるが、うーん、どっちかというと高音を存分に生かした演奏のように思うが。テイトはラーセンのメタルなのだが、低音部を吹くとき、スローテンポだと嫌らしいぐらいのサブトーンでずるずると唾液の音が聞こえるような音の出し方をして、それがまた超かっこいいのだが、アップテンポでも低音部はサブトーンで処理することがけっこうあって、あんまりライナーみたいな「低音でワイルドに」という雰囲気は感じられない。B面は、エリントンメドレーで始まる。「アイ・ガット・イット・バッド」の嫌らしいテナーの吹き方とそれにまとわりつくピアノを聴いてると、ほんと、ほかになにもいらんという気分になる。テナーはテーマ吹いとるだけやねんけどなあ。「イン・ナ・センチメンタル・ムード」はピアノソロ。ゴージャス。インテンポになるあたりの粋な感じ。そしてつなぎ目なくはじまる「ソフィスティケイテッド・レディ」もええ感じに嫌らしいなあ。テーマをちょっとフェイクしながら歌いあげるだけ、という演奏だが、サビのところのテナーの吹き方なんかサム・テイラーみたい。最後のカデンツァも含めて、いやもう最高です。2曲目は、マクシャン作曲のタイトル曲なのだが、どういう意味なのかなあ。ダンスとかに関係しているのか? わからん。ちょっとファンキーな、変わった曲です。マクシャンがピアノをゴンゴン弾いてテイトのブロウを後押しする。3曲目は、テイトのソロではじまるが、この部分がめちゃめちゃかっこいいのだ。そしてテーマの吹き方。うまい。うますぎる。エロすぎる。スコット・ハミルトンではここまで嫌らしくできんのだ。そして、続くマクシャンのはじけるようなピアノ。バラードのはずが、いつのまにかスウィングしまくる。こういう小唄っぽい曲調でこんなにかっこよくブルースみたいに弾けるもんなのだなあ。テイトのテナーもたっぷり聴けて、満足。最後の曲はおなじみの「ロッカバイ・ベイシー」で、いかにもカンザスシティジャズ的なリフ曲。テイトはここぞとばかりにがっつりブロウする。このひとはなにを吹いても大味にならないから好きだ。細かいところにまで注意が払われている。音色、アーティキュレイション、ダイナミクス、音程……完璧ですよね。ジャケーやコブに比べると、アクの強さという意味では一歩ゆずる感じの紳士的な印象があるテイトだが、こうして聴くと、いやー、やっぱり個性の塊ですなあ。というわけで、あまりの傑作なので長々と感想を述べてしまった。聴いたことないひとはただちに聴きましょう。ぜひぜひ。対等のデュオだと思うが、先に名前の出ているマクシャンの項に入れた。

「AIRMAIL SPECIAL」(SACKVILLE CD2−3040)
JAY MCSHANN

 ジェイ・マクシャンのピアノは大好きで時折めちゃくちゃ聴きたくなるのだが、このひとのリーダーアルバムは、ビッグバンドだったり、何本か管楽器が加わっていたりして、なかなかピアノだけを味わうというわけにいかないが、本作は珍しく……もないのかな、私の知る限りではけっこう、あるようでないピアノトリオアルバムである。85年録音だそうだが、2006年に90歳で亡くなったひとなので、この時点ではまだ69歳とバリバリの頃である。「エア・メイル・スペシャル」ではじまり、「ロッキン・イン・リズム」で終わる選曲もすばらしい(「ブルー・アンド・センチメンタル」が入ってるのも素敵)。軽快で洒脱でときにセンチメンタルでブルージーで……とにかく曲によってさまざまな技を聞かせてくれるので飽きない。ベースとドラムもこの老カンサスシティ野郎をうまくひきたてている。相変わらず、頬の肉をぶるぶるいわせながらピアノを弾いているのだろうな……と思うと聞いていて微笑ましくなってくる。力の抜け具合も最高なのだが、これは年を取ったからではなく、昔からなのである。ところどころで力強いストライドも聴かれる。衰え皆無の好盤。

「BEST OF FRIENDS」(JSP RECORDS JSPCD224)
JAY MCSHANN & AL CASEY

 テナーサックスが入っていない音楽にはさほど関心がないのだが、ジェイ・マクシャンは別である。マクシャンのアルバムはどんなものでも聴きたい。まあ、こういったスタイルのピアノのことはよくわからないが、基本的にはストライドなのだろうと思う。ファッツ・ウォーラーやカウント・ベイシーも好きだし、ジェイムズ・P・ジョンソンやうやりー・ザ・ライオン・スミスとかも学生のころからよく聴いていた。わけもわからずに聴いているので、知識とかは皆無なのだが、なかでもジェイ・マクシャンは別格的に大好きで、最初はパーカーが入ってるという興味から(パーカーがセクションを吹いてるなんて聴きたくなりませんか?)マクシャン・ビッグバンドのアルバムを聴いて、おお、おもろいやん、と思ったのが最初で、そのあとバディ・テイトが好きだったので、テイトとのデュオ「クレイジー・レッグス・アンド・フライデイ」(だっけ。なんかそんな名前のアルバム)を発見してハマり、最終的には「カンサスシティ・ジャズの侍たち」という映画を学生のときに見て、ベイシーのように洗練されていない、プリミティヴなカンサスシティジャズを体現しているさまや、三波伸介のような顔のおっさんが、ほっぺたの肉を震わせながら弾きまくる姿に惚れた。あの映画のなかではビッグ・ジョー・ターナーと並ぶ突出した個性の持ち主だったと思う。というわけで、マクシャンのアルバムはなんでも聴きたいのだが、ミスマッチなサックスとかが入っていると逆に興ざめになるところを、本作の相方であるアル・ケイシーはたしかにベストマッチングである。ベースとドラムもよく知らないけどいい感じです。選曲も最高で「ただひたすら楽しいだけ」という内容。「ワン・オクロック・ジャンプ」「ロゼッタ」「ハウ・ディープ・イズ・ジ・オーシャン」……など。ブルースもたっぷりあります。ほんま、ブルースやらしたらジェイ・マクシャンは神ですから。そして、小唄をやらせたらアル・ケイシーが神なのだ。

「WHAT A WONDERFUL WORLD」(GROOVE NOTE RECORDS GRV1005−2)
JAY MCSHANN

 カンサスシティでの録音。共演者がいまいちよく知らないひとばかりなのだが、マクシャンのリーダー作に悪いわけがないのである。83歳のときのリーダー作ということになるが、いろんなことをサイドマンの若手に任せつつ、しめるところはしめて、ピアノとボーカルはきっちり自分を出していく感じは清々しい。主たるソロイストであるテナーのアーマド・アラーディーンというひともギターのソニー・ケナーというひとも私が知らんだけでめちゃくちゃ有名らしい。どちらもすばらしいプレイを披露しているが、カンサスシティで長らく活動していたひとのようで、ジェイ・マクシャンが起用するだけのことはある。たとえばギターのひとはスウィングというよりちょっとモダンな音をびしびしキメまくり、それがまたかっこいいのだが、そのあとにマクシャンがそれに倍するような怒涛のピアノソロをぶちかましたりして、あー、ジャズはスタイルではないし、年齢でもないなあ、と思うことしきり。ブルースでもそうでない曲でもとにかくマクシャンのスタイルですべてを染めてしまう。7曲目のベースとの掛け合いとかめちゃくちゃかっこいいです。マクシャンのボーカルも快調そのもので、ほっぺたの肉を揺らしながらごきげんで歌っている様子が目に浮かぶ。それにしてもマクシャンは晩年まで衰えを知らぬひとだったと思う。指がもつれたり、リズムがよれたりすることもあまりなく、飄々と心地よくスウィングする。しかも、ここぞというところはパワフルにガツン! と決め、枯れ切ってしまうということもない。そして、ラストはちょっと驚きの「ファット・ア・ワンダフル・ワールド」で、マクシャンのレパートリーに入っているとはなあ。マクシャンが歌うとまるでべつの曲のようだ。ジャケットもかっこいい。傑作!

「EARLY BIRD(1940−1943)」(RCA BLACK AND WHITE SERIES:VOL.172)
JAY MCSHANN CHARIE PARKER

 カンザスシティにいたころのパーカーがジェイ・マクシャンのビッグバンドに参加したときの録音。ビッグバンドといっても5管ぐらい。基本的にふたつのセッションから成り立っていて、A面がパーカーが参加しているセッション。メンバー的にはドラムがガス・ジョンソン、ベースがジーン・ラメイでいかにも濃厚なカンザスシティっぽい雰囲気を味わえるが、トランペット、トロンボーン、テナー……とパーカー以外のメンバーのソロもそれぞれすばらしい。いわゆるカンザスシティジャズ的なシンプルなリフによる即興的なアンサンブルとストレートアヘッドなリズムがガンガン行く感じは、聞いていて、もうたまらん! と思う。2曲目のパーカーをフィーチュアした「ボディ・アンド・ソウル」をはじめとしてチョロッと吹かれるパーカーのソロもいいのだが、ほかのメンバーのソロも美味しい。A面のセッションでは、基本的にはアルトはひとりなのでパーカーはソロだけではなくてリードもとっていて、これがまた泣かせるのでありますね。「レディ・ビー・グッド」ではトロンボーンのひとがヴァイオリンを弾いたりとか、とにかく客を楽しませることが第一条件なので、上手いとかどうでもいいのである。そういうなかでパーカーの短いソロが光りまくっているのがすごいですよね。パーカーをフィーチュアした「チェロキー」でも決して野放図にソロをさせているのではなくアレンジのなかできっちり吹かせている。B面はパーカー抜きのビッグバンドで、アルトソロはたぶんジョン・ジャクソンが取っているのだろうと思うが、このひとも名手である。正直、こっちのほうがパーカーがいない分、カンサスシティジャズのシンプルな楽しさを味わえるかもしれませんね。豪快なテナーが耳に残るが、これが誰だかよくわからない。ポール・キニシェットかなあ。私のしっているキニシェットはもっと線が細い感じなのだが、ここでは豪快なテナーが聞かれる。ウォルター・フラウンのボーカルはあいかわらず正直いまいちではある。「ヴァイン・ストリート・ブルース」に聞かれるマクシャンのゴリゴリのブルースピアノはめちゃくちゃかっちょいい(この曲のラストのリフの感じなんか、完全にカウント・ベイシーだよなー。つまり同じ鉱脈なのである)。「ジャンプ・ブルース」というタイトルになっているが「ジャンピン・ザ・ブルース」ですかね。この曲なんかアルトとテナーのゴリゴリのバトル、トランペットのバトルなどがフィーチュアされ、盛り上がりまくる。このあたりの曲で音を濁らせてゴリゴリのテナーを吹いているのは誰なのでしょうね(ここまでグロウルするとほとんどホンカーに近いか)。やっぱりポール・キニシェットか? でも超アップテンポの「スウィート・ジョージア・ブラウン」でテナーを吹きまくっているのはあきらかにキニシェットなのだよなあ。これはとにかくめちゃくちゃすごいソロ。どっちにしてもすばらしいテナーソロであります。カンザスシティジャズを味わうには最適なアルバムだと思います。