「世界◎遊」(マクロ世界レコード MSR1111)
メグルセカイ
民謡歌手のめぐ留率いるグループ、メグルセカイの1stアルバム。ボーカル、サックス、アコーディオン、ドラムという編成だが、コメントを寄せているのが梅津和時、のなか悟空、不破大輔、(エアジンの)うめもと氏という超コワモテの面々であるのを見ても、このアルバムは「私が聴かなあかんやつ!」とすぐに、1秒でわかる仕組みである。民謡とポップスがうまく配列されている。民謡のポップ化+フリージャズ的な、これに似た趣向の演奏はおそらく過去、たくさんあったと思われるが、これは超極上のものである。たった4人とは思えない大迫力のエネルギーが伝わってくる。このバンドは、聴いてみると、この楽器構成しかない、という感じで、つまりは楽器構成ではなく、個々のミュージシャンの個性を見て結成されているなあ、と思った。ボーカルのメロをユニゾンでなぞったり、コードを弾いたりしているアコーディオンがかなりこの音楽を支えているように思う。ベースがいないがメンバーはたがいに伴奏し合っていて、なんの問題もない感じ。ドラムは、一音一音がずしん、ときてから余韻が残る……いわゆるグルーヴするリズムをずっと提供している。1曲目はアルバム全体のイントロとしての「SADO−OKESA」はどろどろした不穏なドラムの響きではじまり、立花秀輝のアルトが尺八のようなフレーズを吹き、それらに導かれるようにしてめぐ留の「ありゃありゃあゃりさ……」という歌声が聞こえた瞬間にすべてが民謡の世界に染まる。あー、これはかっこええわ、とその時点で確信していた。2曲目「恋おけさ」というのは「佐渡おけさ」にめぐ留が歌詞を載せたものだが、いきなりAASか! というぐらい全力でブロウしまくる立花のアルトが飛び出してきて、「ええんか? 民謡やで!」と思っていると、またしても「ありゃありゃありゃさ」がはじまり、田ノ岡三郎のアコーディオンが疾走する。めぐ留の歌はねっとりと、情熱的で、エロチックで、凛としている。フリーキーに吹きまくる立花のアルトは、まるで民謡的ではないのに、なぜかこの音楽にぴったり合っている。3曲目はあの「スーパースター」だが、クレジットがないが、たぶん歌詞はめぐ留が書いたのではないかと思う。民謡からポップスに場面が変わったが、なんの違和感もない、というか、統一感があるのがすごい。立花のアルトも切々と歌い、こういうのをやってもすばらしいなあと思う。4曲目「コキリコ」はなぜかジャズ方面で愛されている民謡だが(モーダルな感じと歌詞のせいではないかと思う)、立花は冒頭、完全にフリーに振れ切ったソロをぶちかまし、どうなるのだろうと思ったら、見事な「コキリコ」だった。ドラムの迫力ある煽り、アコーディオンの味わいもすばらしい。5曲目は「江差追分」で、虫がすだくようなキイキイという音をアルトがマウスピースで出して、それに続くめぐ留のボーカルは、民謡といっても仏教の声明や平家物語の語りをの詠唱を聴いているかのような宗教的な、もっといえばスピリチュアルジャズのような雰囲気がある。6曲目は「沖揚げ歌」という曲で、どう聴いても伝統的な民謡だが、じつはめぐ留作詞作曲のオリジナルであって、こういう民謡とソウルミュージックが合体したようなオリジナル(しかも、オリジナルに聴こえないのだ。昔からある曲としか思えない。すごい)を作れるというのはとんでもない才能だと思う。もともと「沖揚げ歌」というのはニシン漁のときに歌われる歌なので、「ソイーソイ」というフレーズをキーとして、5曲目の「江差追分」と一種のメドレー的になっているのかもしれない(このあたり、民謡のことはまったく知らないのでわからないっす)。7曲目は一転「朝日のあたる家」ではアコーディオンがブルージーなハモンドのような、ディープでソウルフルな味わいを醸し出し、この曲の無数にあるであろうバージョンのうちの最良のひとつを導いている。歌詞を噛みしめながら押し出してくるようなハイテンションかつ抑制のきいたすばらしいボーカルに続いて、泣き叫ぶような立花のアルトが激情をぶちまける(抑制がきいていない!)。アルトのフリークトーンで終わるというのもいいっすねー! 8曲目は「ISEON D」というタイトルの伊勢音頭で、上方落語ではおなじみの曲だが、まるでファラオ・サンダースやウディ・ショウ、ビリー・ハーパーのような70年代ジャズを思わせるドラミングがめちゃくちゃかっこいい。アフリカ+日本民謡みたいな……。後半はフリージャズ的な展開になって、あー、これ、なんのCDだっけ……という感じでめちゃ面白い。9曲目はあの「リトル・ウイング」で、立花の可愛らしい無伴奏ソロからはじまるが、こういうこともめちゃくちゃ上手いひとなのだ。そのあとめぐ留とのデュオになるが、めぐ留はこのアルバムのなかで唯一英語で歌っている。やがてインテンポになり、サックスを中心としたトリオの演奏になる。ボーカルが戻って、アコーディオンがものすごいバッキングをする。かっこいい! 10曲目は「HIGHER」というタイトルで原曲は「牛深ハイヤ節」というものらしい(タイトルさえ聞いたことがないが、ちょこっと調べてみると「全国40カ所のハイヤ系民謡」がどうのこうのとか書いてあってものすごく有名らしい)。ドラムのドンツクドンツク……というビートに乗って、メンバーが掛け声をかけ合いながら盛り上げていく。アコーディオンの豪快なソロ、アルトの頭の線が10本ぐらい切れたようなソロがフィーチュアされている。ラストは「愛の讃歌」で、ボーカルは音を加工してあるのか、ラジオから流れているような雰囲気の声になっている(ような気がする)。ずっとルバートで演奏され、ボーカルパートが終わった途端、重さに耐えかねて、ぐちゃっ……とすべてが崩れ落ちるような感じになるあたりもすばらしいです。録音もよく、ボーカルが目のまえで歌っているかのような臨場感がある。とにかく聴いていて興奮しまくる。こんな音楽があったのか。このくそ鬱陶しい世の中に、こんなすごいものを聴かせてくれて、ほんとうれしい。傑作としか言いようがないです。