myra melford

「YET CAN SPRING」(ARABESQUE RECORDINGS AJ0154)
MYRA MELFORD MARTY EHRLICH

 ピアノとアルトサックス(とクラとバスクラ)のデュオ。フリーフォームではなく、まるでベースとドラムがいるかのような体で演奏される。メルフォードのピアノのリズムが強力なのと、エーリッヒのアルトがぶっとい音で鳴りまくっているので、とてもたったふたりとは思えないような豊饒な音楽が展開される。とにかくこのひとはアルトでもバスクラでも、音そのものが凄いので、聴いていてうれしくなってくる。めくるめくテクニックに圧倒されるが、非常にアイデアが明解なので、スパーン! とわかりやすい。どれだけスケール知っとんねん、と思うぐらい、さまざまなスケールやアルペジオを駆使して、しかも機械的にならぬように感情を込めてブロウできるひとだ。ピアノのメルフォードも同じようにアイデア満載のピアノを弾く。たったふたりなのに、まるでオーケストラのように壮大な演奏に聞こえたりする。しかし、あまり饒舌すぎ、情報量が多すぎて、ちょっとトゥーマッチに感じられ、そうしょっちゅう聴けるという演奏でもないかもしれない。もし、一回に一曲だけ聴いたとしても、相当の満足感と満腹感を得られるだろう。まあ、なーんも考えずにエーリッヒの「音」だけ聴いていても、とてもとてもうれしくなり、にこにこしてしまう。そんな演奏である(とくにサックス奏者にとっては)。ふたりのオリジナルが中心だが、最後にオーティス・スパンの「ドンチュウ・ノウ」という曲が入っている。オーティス・スパンて、あのオーティス・スパンだよね。意外な選曲だが、まあようするスローブルースだ。まるでサンボーンのような泣き節でエーリッヒがブルースをシャウトする。とくにサックスを吹いているひとには絶対聴いてほしい、至高のデュオである。