「GRUNE REVOLUTION」(OFF BEAT RECORDS ORLP−1012)
KEIKI MIDORIKAWA
じつは、翠川敬基の一作目「ファイヴ・ピース・オブ・ケーキ」を持っていたのに、あるときお金に困って売ってしまったのである。これはいまだに後悔している。思えば昔は、レコードを買ったり売ったりを繰り返していたので、自分が今なにを持っているのかがよくわからなかったものだ。その余波で、いまでも、あのレコード、たしか持っているはずだよな、思って、探してみるとどこにもなかったり、売ってしまったはずだ、とCDで買いなおしたら、ひょこっと見つかったりする。本当はリストをちゃんとつけて、売ったら消していくのがよいのだろうが、なかなかそうはいかない。私もそんなことをして喜んでいたのは学生のころまでである。さて、本作はたぶん一生手放すことはないだろう傑作である。CDになっているのかどうかはしらないが、A面を高柳昌行(しかもアコースティックギター)とのデュオ、B面を佐藤允彦とのデュオで占めた、長尺2曲というアルバムだが、どちらの演奏も手応えありまくりで、正直言って、管楽器の入っていないアルバムは苦手な私が、毎回聞き惚れてしまう。こういうのが、私が一番好きな「聞き手の心を遊ばせてくれる」タイプの即興なのだ。どちらの演奏も、最後までまったくダレず、テンションをキープしたままだ。そんなのあたりまえじゃん、という人もいるかもしれないが、いやー、なかなかできないことですよ。多くのレコードにおいて、途中でダレ場がある即興演奏が収録されている。真剣にやっていればいいというものではない。やっぱり音楽性であり、腕であり、いかに高みを目指しているか、なのである。
「COMPLETE GRUNE REVOLUTION」(OFFBEAT RECORDS ORLP−1012
DOUBT MUSIC DMHRP129/130)
KEIKIMIDORIKAWA
いやー、びっくりしました。こんなことがあるんだなあ。高柳昌行とのデュオ、および佐藤允彦とのデュオをレコードの両面におさめた「緑色革命」は愛聴盤だったが、それが収録されたコンサートでは、LPには入りきらなかった富樫正彦とのデュオが行われていて、その音源を付け加えたまさに完全盤が長い年月をへて登場したのだ。これはまさに驚愕に値することだが、その内容がまたすばらしくて、もうめちゃめちゃいいんです。これが未発表……ということの意味がわからん。もうすばらしくて、何度聴いたことか。しかもですよ、高柳、佐藤とのデュオも、LPの音源とはべつの音源(客席でカセットテープで録音されていたものらしい)から改めて収録しなおしたらしく、つまりは完全盤といいつつも、LPとはまったく別物といってよい作品になっている。そして、そのカセットを使った音のほうが、私の耳には良い音に感じられるのだから、これはダウトミュージックの英断であろう。もういちど書くが、こんなことってあるんだなあ。もちろんもとのままでも名盤だったのだが、この再発(?)によって本作品はフリージャズ史に燦然と輝く大傑作としてだれでもたやすく聴けることになった。万歳っ。
「ARBOR−DAY」(STUDIO WEE SW301)
RYOKUKA・KEIKAKU
「MENOU」(STUDIO WEE)
RYOKUKA・KEIKAKU
翠川敬基率いる「緑化計画」によるスタジオ録音。この時点では、テナーサックスに片山広明、ベースに早川岳晴、ドラムに石塚俊明というメンバー。内容は、めちゃくちゃ良くて、フリージャズ系の音楽が苦手なひとにも勧められるような普遍的な魅力と、硬派なファンをも魅了すること間違いなしの芯の通ったアヴァンギャルドな魅力の両方を持ち合わせている稀有な作品である。私個人としては大々々々傑作だと思っている。1曲目に代表されるように、まずコンポジションがすばらしい(全曲翠川敬基の作曲)。そしてアレンジもよくて、一種の組曲のような構成になっている曲が多く、深みと言うか壮大さというか、とにかく非常に聞きごたえがある。フリーなパートもかなりあり、基本的には自由なのだが、どの曲もきちんとしたテーマ(かっこいい!)があって、リズムも強調されている。4人のインタープレイもかなり踏み込んだ、露骨なものも含めて、じつに見事で、そのあたりはさすがに熟練のひとたちである。手垢のついたような表現はまったくなく、大胆なチャレンジ精神を感じる演奏ばかりであり、しかもそれが上手くかみあって、すばらしい成果を生んでいる。この成果が僥倖でないことは、この4人の演奏をいろいろな形でずっと聴いてきたひとにとってはあたりまえであろう。なんだかほんのちょっとまえの演奏のようだが、考えてみたらもう20年もまえの録音なのである。片山さんもバリバリに元気で、細かいニュアンスも自在な、生き生きした最高の演奏をぶちかましている。タイトルは「植樹祭」の意味で、翠川敬基自身のライナーによると「緑化計画」というグループは「音の種を植えて育てる」グループにしたいと考えたところからのネーミングだという。だから、本作のタイトルも「植樹祭」なのだ。緑化計画には本作よりあとに「ビスク」というアルバムもあるのだが、そちらは片山のテナーに代わって喜多直毅のヴァイオリンが参加している。傑作! 「メノウ」は上記アルバム発売時の販促に使われたCD−Rで、同メンバーによる1曲が収録されている。16分以上にわたる演奏で、つまり、本編に収録されたどの曲よりも長いのである。テーマ的なものはあるが途中のパートはほとんどがフリーリズムの即興。全員が自己主張しながら寄り添っていくようなタイプの演奏で、静謐な部分と嵐のように荒れ狂う部分が交互(?)に訪れる。本編収録の6曲のどれよりも自由な展開で、どんどん場面が変わり、そのときそのときで主人公も変わるのだが、そのあたりの呼吸はさすがである。最終的にはチェロとテナーによって提示されるルバートな感じの音列に集約されていく。上記アルバムを聴いて感動したひとは、この1曲もぜひ聴いてみてください。なお、この曲はライヴ(もしかすると本編のほうもライヴなのか? 拍手とかは一切入ってないけど、収録が「音や金時」なので……)。