「AIR BORNE」(OFF NOTE NON−12)
三上寛 川下直広
えげつないほどガツンと来る。たったふたりによる演奏で、川下さんはオブリガードがほとんどなので、基本的にはギターの弾き語りなのだが、それが150トンのダイナマイトが爆発したぐらいの衝撃で心を揺さぶってくれる。もし、このアルバムを、三上寛をこれまで一度も聴いたことがない、というひとが聴いたらどうなるんだろうなあ(そんなやつがほんとにいるかどうかはわからないが)。一曲目の「十九の春」は、なるほど過激だなあ、という感じかもしれないが、曲が進むにつれて、たぶん、目が点になっていくのではないか。3曲目なんか、あまりに過激すぎて、気絶するのではないか。しかし、これだけエグい、露骨な歌詞を歌っていながら、どこか抑制された、崇高な感じがあるのは不思議としか言いようがない。4曲目はマイケル・ジョーダンに捧げた曲なのか? 聴いていると、頭がどうかしてくる。すごい。すごすぎる。5曲目「パイナップルの缶詰はどこか不思議な形をしてる〜」と言われてもなあ……。とにかくパイナップルを連呼する曲なのだ。それと川下さんのテナーの咆哮があいまって、ミシシッピデルタにいるような、わけのわからん浮遊感を堪能する。ああっ、俺はいま三上寛を全身で味わっている! 「ローマの雨」は、なにを言うとるんだこのひとは、と思いつつも、なんだかまったく理解できない感動に包まれる。「ワタシハソコニハイナイダロウ」はせつないバラードだが、歌詞をよく聴くと、どうしてこんな歌詞でせつなくなるのだろうと思うようなすごい作品。「鄙びた漁師町」はクジラ漁のことを歌った曲。明るくて暗い。「鷺浦海岸物語」は本作中もっとも美しい曲。だって、歌詞が「美しい……」の連発だからね。ほんとにしみじみ美しく感動的な歌声そしてサックス。「衆道院」は、まえの曲の美しい感動をぶち壊すすさまじい三上節。「そのくり返し、つまらん!」という絶叫が耳について今夜も眠れない。いやー、すごいです。濃厚な泥水をぶっかけられたようなショック。ラストの「かけら」はこれまでの10曲をすべて集約したような、あるいはそれらの切断面を見せつけられたような、鋭い演奏。とにかく全曲すばらしい。川下さんのテナーは完璧な相方ぶりを示す。百年もまえからいっしょに演奏しているようなコラボ。たったふたりなのに信じられない濃密な表現力。これは名盤だ。
「職業」(SOLID RECORDS CDSOL1375)
三上寛・古澤良治郎
ジョニーズ・ディスクの復刻盤。これは凄いです。1曲目の「青森県北津軽郡東京村」の冒頭の古澤さんのドラムソロを聴いて、その気合いと集中力と鋭さとパワーに圧倒される。のちの「キジムナ」とかリー・オスカーとのやつとかに比べて、驚くほど殺気にあふれたドラムだ。三上さんのギターは、シンプルなザックザックというリズムなのだが、それが古澤ドラムと出会うと、なんとも奥行きのあるリズムに聞こえてくるのだ。そこに乗るボーカルが立体的になることは言うまでもない。三上さんの歌に必要だったのは、ベースでもピアノでももう一台のギターでもない。こういうドラムだったのだ、ということがスカーッとわかるコンビネーションだ。歌詞の内容はいつも通り暗く、重く、しかしどこかスタイリッシュでかっこいい。三上寛の怨念・情念をこういう形でパワーに変え、「形」にして、聴き手の心臓をぶち抜いて呆然とさせるには、古澤良治郎のドラムは絶対的に不可欠に聞こえる。三上さんはソロ、デュオ、その他いろいろな編成でいろいろなひとと演奏しているが、このデュオがいちばんぴったり来る(川下直広さんとのデュオのときもそんなことを思ったっけ)。ああ、これはすばらしい。こういう音は昭和のどこかに置き忘れてきたものだと思っているひとは多いかもしれないが、そんなことはない。三上さんは現役ぱりぱりだし、ほかにも多くの種子が育ち、今も日本のどこかしこでこういう情念を夜な夜なつむいでいる。こういう音楽はなくならないのだ。ブルースのように。それにしても古澤さんのドラムが暗く輝きまくるこの日のライヴであったことよ。感動しまっせ。録音のせいか、歌詞がちょっと聴き取りにくいが、それがかえってリアルさを増している。このCDのおかげで、われわれは1979年の陸前高田にたやすくタイムスリップすることができる。この臨場感、時代の息吹き……なにものにも代え難い盤です。
「BANG!」(URCレコード/SOUNDS MARKETING SYSTEM SM20−4144)
三上寛
このレコードは学生のころに買ったのだが、なんで買ったのかはよく覚えている。坂田明が入っているからである。しかし、じつは坂田明は一曲しか入っていないのであった。では、失望したかというとそんなことはなく、「なんじゃこりゃーっ」という感じで衝撃を受けた。佐伯俊男のアメコミ風のようで和風のようなインパクトの強いジャケットは一度見たら忘れられないが、このジャケットの絵がなんとなしに中身とぴったり調和しているのだ。ドラムは全曲古澤良治郎で、プロデューサーは山下洋輔。渡辺勝や大塚まさじ友部正人などフォーク系の大物が入っているが、山下、坂田、古澤らの参加によって、歌詞を聴かせるのが主であるフォークとは微妙に雰囲気が異なったものになっている。つまり、器楽曲的な側面がある(A−3の叫ぶような歌い方と山下のエレクトリックハープシコードのからみやB−2の坂田明とのからみなど)。三上寛のこういうスタイルは今に至るまで変わっていないと思う。B−1に「なんてひどい歌詞なんだ」というタイトルの曲が入っているが、この曲にかぎらず、どの曲もひどい歌詞で、この世でもっともヘヴィで暗い歌詞のフォークシンガーだと思う。A−1を学生のころに聴いて、いやー、反戦フォークとかプロテストソングとしてのフォークもいろいろあると思うが、三上寛の歌は根本的に怨念の塊のようで、なにかを主張するとかなにかに反対するというより、うちに抱え込んだおぞましいほどに巨大な恨みつらみを吐き出しているようだ……というのが当時の私の印象だった。聴けば聴くほど、聴いているこちらがどんどん傷ついていくような、「なんで聴くねん」と思いながらも聴かずにはおれないような音楽で、私にとってはほかのフォークとはまるでちがったものだった。B−4の「最後の最後の最後のサンバ」(古澤良治郎がリードするパーカッションが凄まじい)など、ギャグなのだが、どこかひたすら悲しいところがあって、素直には笑えない。収録曲中ではA−4の表題曲「BANG!」が好きです(ほかの曲やナレーションなどが入るコラージュ的な編集もいいうこういう「細工」は往々にして曲を台無しにするが、この曲での編集はさすがに心得ている感じですばらしいと思う)。B−3「赤い馬」の考え抜かれたアレンジもかっこいい(山下さんによるもの)。