「RENDEZVOUS」(KING RECORDS KICJ−792)
峰厚介ミーツ渋谷毅&林栄一
このたびめでたく復刻になったアルバム。ピアノ、アルト、テナーという三人でスタンダードやオリジナルを奏でる。このアルバムの良さについて語りだしたら一晩でも語れる。それぐらい深い。渋オケの三人、ということで、おたがい気心も手の内も熟知している仲だろう。林さんもいつもの大暴れはなく、全編コンセプトに沿った抑制のきいた演奏だが、それがもうめちゃくちゃいいのだ。一曲目、クルト・ワイルの「星空に消えて(ロスト・イン・ザ・スターズ)」、渋谷毅のイントロのあと、林栄一以外のなにものでもない、しみじみ深いアルトの音が飛び出してきて、そのあとまた峰厚介以外のなにものでもない、温かいテナーの音が響いてきて、何度聴いても感動する。このバラードを一曲目に持ってきたあたりがセンスなのだろうなあ。2曲目のピアノレス、2本のサックスだけでのチャーリー・ヘイデンのバラード……これも泣く。圧倒的な「音」の響き。それが重なったときの倍音を伴った深いハーモニー。このふたりでしか成し遂げることができないであろう世界。それは音楽性、というだけでなく、音色とかテクニックとかすべての面において、である。生音のサックスの凄みが感じられる。3曲目は林栄一が本作のために書いたバラード「ソング・フォー」で、異常なまでに美しい曲。もちろん林ファンにはおなじみ。このアルバムが初演なわけだが、それにしてはとんでもない完成度である。2曲目でも泣いたが3曲目でも泣くしかない。4曲目は林と峰のブルージーでリズミカルなからみではじまるが、そのからみかたが尋常ではなく、蛇の交尾のように激しくからみまくっている。そしてはじまるのは「オレオ」。これもピアノレスだが、ピアノがいないことに気づかないどころか、ベースもドラムもいるんじゃないの、ぐらいの凄まじいリズムである。漫然と聴いていると、ふたりでB♭の循環の曲をそれぞれ勝手にアドリブしているのでは、と思うかもしれないが、よくよく聞くと、ふたりがリズムもキープし、自分の歌も歌いながら、ものすごく綿密に反応しあっていることがわかって怖い。適度なユーモアもあって、完璧としか言いようがない。呆れる。5曲目はバラードメドレーで、先発は林栄一〜渋谷毅の「ラヴァーマン」。うわーっ、俺の大好きな曲なんだよねーっ、とはしゃいでしまう。もうひとフレーズ、ひとフレーズがいとおしいです。すごいひとだよなー、林さん。そして、峰厚介フィーチュアの「アフター・ザ・チェック・アウト」。なんと自作である。バラードメドレーで自作をやるとは。これもめちゃくちゃいい曲である。そしてピアノソロでの「ア・フラワー・イン・ア・ラヴサム・シング」。ビリー・ストレイホーンの曲だそうで、渋い選曲だ(と思ったらめちゃ有名曲らしい。そういうの知らんからなー)。6曲目はおなじみ(?)「マイ・シップ」で、これもクルト・ワイルの曲だそうです。知らんかった。峰厚介のソロは高音部を駆使したもので美しい。ピアノのバッキングもすばらしい。7曲目は林さんのオリジナルで、これも本作のための新曲らしい。昔からあるスタンダードかと思えるようないい曲です。軽快に歌いまくるサックスソロのあと渋谷毅のごつごつした低音が耳に残るピアノソロが最高です。8曲目は渋谷毅の曲で「マイ・オールド・ドリーム」。がっちりしていない、軽いアレンジがかっこいい。林さんの先発ソロはまさに林ワールド。続く峰厚介のテナーソロもあの風貌が思い浮かんでくるような独特のもの。ピアノソロもこれまた渋谷毅としか言いようがない。三人それぞれの世界が合体して、豊穣な美酒を醸しているような印象。9曲目は峰厚介の曲で「ミスター・モンスター」。哀愁漂う曲調で、なんとなく曲名の意味も感じられるが、それだけでなくかなりオリジナリティあふれる曲である。峰の先発ソロも独特なひねりかたをしており、めちゃくちゃかっこいい。このソロ、ほんまに好き。そのあとに高音の小さな音からクレッシェンドで出てくるアルトソロもすばらしい。そして、訥々と弾かれるピアノソロ。音の粒が積み上げられていき、それが崩れるところに最後のアンサンブル……かっこいいです。ラストはジョン・ルイスの曲で「ラヴ・ミー」。これはピアノソロで……最高の締めくくりでした。何度聴いてもそのたびにいろいろ発見がある……というのは作品をほめるときの常套文句だが、この作品ほどこの言葉が当てはまるものもないだろう。傑作!