mizuki misumi

「悪いことしたでしょうか」(PELMAGE RECORDS)
三角みづ紀ユニット

  こういうモノは知識はまるでないのだが、あまりによかったので、自分なりに紹介してみましょう。詩人の三角みづ紀さんのユニットによる「演奏」。これが詩人の朗読パフォーマンスではなく(そういう側面もあるが)演奏である、と言いきれるのは、聴いてもらったらわかるが、三角さんは詩人であり作詞家であり即興ヴォイスパフォーマーでありミュージシャンでありバンドのボーカリストであり……そういった役割のすべてをそれぞれにおいてやりきっているからである。いわゆる即興詩のパフォーマンスというのは昔からフリージャズと親和性があるが、個人的にはあまり私の好みではないものが多い(ときどき、ギャッと叫ぶほどすごいものもあるが)。ところが本作はめちゃ好みで、それは「ユニット」という形態である点も大きいと思うなあ。購入した動機は松本健一のサックス目当てだったのだが、聴いてすぐにリーダーの「世界」にはまった(このCDはそうなるように計算して作られている)。魂をつかまれ、揺すぶられるような凄味とポップさが自然に同居しているのだ。いやー、一曲目は、「曲」とか「作品」というのもはばかられるほど一瞬(数秒)であり、2曲目のイントロダクションにしか思えないが、じつはこれがあとあとボディに効いてくるのである。2曲目はいきなり、ヘモグロビンが降ってくる、ですよ。これは強烈です。シャッフルの荒いビートに乗せて、詩人の歌と松本健一のフリーキーなサックスがからみあい、あー、こんなんええなあと思う。中学生か高校生ぐらいでこれを聴いてたら、完全にのめりこんでいただろうな。私にとってのヒカシューとか野坂昭如とかに等しいと思う。そして、略歴を見たらなんと81年生まれ? げーっ。俺、その年、大学入学したんやで。信じられない。こないだご本人と会う機会があったが、私は「俺よりちょっと下ぐらい」と思っていたら、うーん、十九歳もはなれていたのか。三曲目は自作の詩の完全な朗読かと思いきや、後ろのほうでパーカッションというか、ガラクタを叩いたり、蹴ったりするような騒音(?)が聞こえはじめ、それが次第に詩の朗読を侵食していく。四曲目はフォークのような落ち着いた曲調。か細い声がなぜかものすごく説得力がある。五曲目はわらべ歌や童謡のような感じだが、テナーサックスの、意図的なぐだぐだ感とあいまって、ものすごく心地よい。とてもライヴな感じの演奏。「雨降って降られ」と何回かくり返したあと「神さま」となるところのアレンジもめっちゃよい。六曲目は尺八との、七曲目はギターとのデュエットによる、どちらも即興性の高いパフォーマンス。結局この二曲がいちばん「合点がいく」感じだった。八曲目は、ほとんど同じリフをくり返す曲で、途中、発狂したような展開になって壮絶である。これはやられたわ。九曲目は、マジにバンドという体の曲。かっこいいです。松本健一のサックスはこの表現にはなくてはならないものだ。十曲目は効果音的に楽器も入るのだが、まさに「朗読」というべきもので、テキストはきちんとあって、それを言葉の発し方や読み方だけで、微妙な感情や光景、世界をこちらに投げかけてくる。この曲がいちばん心に刺さった。十一曲目は、十曲目よりもっとぐいぐい演奏家が踏み込んできてフリーっぽくなるが、十曲目の延長にあるような演奏で感動的である。いわゆる詩+フリージャズという昔からの形態にはいちばん近い印象かもしれない。テキストのほうは変化せず、それの読み方、発声、タイミングなどだけで、ミュージシャンと対峙する。十二曲目は、あー、ええ曲や、の一言。ちょっと沖縄っぽいかも。朴訥で瑞々しいテナーもすばらしい。本作の白眉。歌声のひとつひとつがイトオシイです。最後の曲を聴くと、一曲目がグサリと効いてくる、という構成になっている。ベースは林栄一バンドやオンセントリオでおなじみの岩見さん。なるほど、このメンバーならリーダーがなにをやっても安心していいわなあ。皆さん、すばらしいアルバムなのでぜひ聴いてください。