tetsuyuki miya

「PEOPLE HE LOVES MADLY」(NEWBURRY STREET NSM−J−1003)
TETSUYUKI MIYA

 私の師匠である。宮さんはその昔、私が習っていたころはコルトレーン一辺倒で、コルトレーンのソロの分析に関してはだれよりも徹底していたと思う。ライヴの2ステージを全曲コルトレーンナンバーで占めることもあった。マンションで習っているとき、レコードをかけながら、それと同時に吹いてみせ、「な、わかったか」などと言う。こっちはさっぱりわからない。するとテナーでコルトレーンのソロを高速で再現してみせ、ほら、ここがコードチェンジ、何から何に行って、何に行って、ほら、何に解決して……わかるよな、というので、もう一度「わかりません」というと、アホかと言われた。「アイ・ウォント・トゥ・トーク・アバウト・ユー」のカデンツァもブワーッと勢いで吹いて、わかるか?と言う。わからん、と正直に言うと、なんでわからんのや、ここがこうなってこうなってこうなって……と何度も何度もアホな生徒に一生懸命わからせようとして説明してくれたのを思い出す。あと、ロリンズも好きで、ブルーノートのロリンズの分析をいろいろと教えてくれた。とにかく圧倒的な技術で、音もすごいし、指もアーティキュレイションも完璧で、関西ではほかを圧していた。その後、宮さんはやっぱりデクスター・ゴードンや、とか言い出して、コルトレーンから離れていき、バップに接近していく。最初のうちはバップをやろうとするのだがやっぱりコルトレーンになりました的なソロがおもしろかったのだが、だんだんとそれが身に付いていき、そのうちすっかりハードバッパーになった。あのころ宮さんは、俺がもしリーダーアルバムを吹き込むことがあったら、こういう風にして……と夢(?)を語ってくれたが、このアルバムはあれから何十年を経て実現した遅すぎる初リーダーアルバムで、関西ではおなじみのメンバーとともに宮さんがオリジナルやスタンダードをブロウする。宮さんの人柄のように、温かく、地味で、しかも聴かすべき音楽的内容は実はかなりハイレベルである……といういぶし銀のような作品に仕上がった。たいしたもんだなあ……と感心した。オリジナルはちょっと聴いただけではわからないかもしれないが、非常に意欲的だし、悠揚迫らぬ落ち着きと、ここぞというときの押しも含めて、かっこええわー。やはり私の師匠でありました。