toshiyuki miyama

「EL AL」(UNION RECORDS GU−5015)
TAKASHI KAKO/TOSHIYUKI MIYAMA AND NEW HERD

 ニューハードのアルバムは何枚か聴いたが、私が生で聴いたときはすでに上田力の編曲によるフュージョンビッグバンド路線になっていた(ラジオのジャズ番組で何度もかかっていた)。だから、私が聴いたニューハードのえぐい(というか、私の好みの)演奏は全部レコード上でだけである。最初に「インスピレーション・アンド・パワー」の一曲目を聴いて、うわー、こんなすごかったのか、と驚き、そのつぎに聴いたのが、ミンガスの曲ばかりを演奏したアルバム(これはジャズ喫茶でリクエストして聴いた)。そして本作は、私が聴いたニューハードの作品のなかでは最高の一枚である。なにしろアレンジは加古隆、ソロイストに坂田明と富樫雅彦が全面的にフィーチュアされているのだ。硬派も硬派だが、加古隆のスコアはかなりむずかしいうえ、サックスセクションにまるでシーケンサーのように、複雑なリズムパターンを延々と吹き続けることを要求したりと肉体の限界にも挑戦させるような意欲的なものであるが、当時のニューハードのメンバーたちはその意欲に完璧に応えている。それがまあめちゃめちゃかっこいいのである。そして、そのうえに自由自在に吹きまくる坂田のアルトや鮮烈な富樫のパーカッションがソロをするのだから、もう言うことおまへん。CDになっているのかどうか知らないが、もし坂田明のファンや富樫雅彦のファンで本作を聴いたことのないひとは、探し出して聴く価値のあるアルバムですよ。で、ニューハードのアルバムのなかで、いまだに聴いたことがないのが、佐藤允彦と共演したアルバムで、これはどこかで聴かなあかんなあ、と思っている。なお、本作はプロデューサーが加古隆に作・編曲を、ニュー・ハードに演奏を依頼した、いわばプロデューサーがリーダー的な作品ではあるが、ニュー・ハードの項にいれた。

「BE BOP/UP TO DATE」(NIPPON COLUMBIA SW−7035)
T.MIYAMA & HIS NEW HERD ARRANGEMENTS BY NORIO MAEDA

 ニューハードのアルバムのなかでは意欲作に入るのかもしれないが、私の興味の範疇からはややずれる。どうしてこのアルバムを購入したかというと、たぶん自分のやっているフルバンドの参考にしたい、という気持ちがあったのだろう。この「参考にするために聴く」というのはいいような悪いようなで、もっと純粋に音楽として愉しむために聴かないと、作品にもミュージシャンにも悪い。で、内容だが、「アー・リュー・チャ」や「ドナ・リー」といったバップの曲ばかりがずらりと並んでいるところからもわかるように、バップ初期の複雑なテーマを大勢でばっちり揃えてみました的な演奏。ある意味、スーパー・サックス的な部分もある。正直言って、バップの狂騒的なテンションはなく、かわりに熟練のテクニックと安定があり、そういうものを求めるひとにはいいかもしれない。教科書的というのはほめ言葉にならないかもしれないが、やはり、ゲストソロイストを迎えず、これだけの演奏が出来るというのは、当時のニューハードのメンバーの技量がジャズマンとしてひじょうに高かったのだろうと思う。