akira miyazawa

「木曽」(THINK!RECORDS THCD−031)
AKIRA MIYAZAWA

「いわな」は何度か聴いたことがあるが、本作は今回のCD化ではじめて聴いた。ドラムが森山というのがどうなのかなあと思いながらスタートボタンを押して……びっくりした。すごい。宮沢昭というと「マイ・ピッコロ」でジャズシーンにカムバックし、そのつぎに録音した「グリーン・ドルフィン」がめちゃめちゃよくて、愛聴した。あのときは、この人、ロリンズ派とか評論家に言われてるけど、たしかに50年代のロリンズによく似てるよなあ、よほど好きなんやなあ、と思ったものだが、それより遙か初期の録音である本作は、ロリンズにもたしかに似ているが、それだけではなく、もっといろんなひとに似ている。たとえばデヴィッド・S・ウェアにも似ているといえば似ているし、ショーターにも似ているし、ビリー・ハーパーにも似ているし、エリック・アレキサンダーにも似ているし……もちろん彼らの影響を宮沢昭が受けているわけはない。つまり、それほど宮沢昭が個性的でさまざまな要素を内包したテナーマンだったということだ。上から下までまったくかわらない、ぶっとい音色は、彼がテナーを完璧にマスターしていることを示しており、音を聞くだけでも快感だ。本作は、全曲彼のオリジナルだが、どーせブルースとか循環を、もっともらしい名前をつけてるだけだろーぜ、とたかをくくっていた私がまちがっていて、全部モード曲なのだ。しかも、2曲目なんか、どう聴いてもアイラー的なテーマを持っていて、当時としては超前衛というか最先端の音楽ではなかったか。これが今まで再発もされなかったというのは信じられない。佐藤允彦はときにハンコック的に弾きまくり、ときにセシル・テイラーのようにクラスターの津波を送り、メンバーを刺激するが、なんといっても森山威男のドラムが凄い。日本ジャズが1970年にこれほどの高みにあったのだなあ、とあらためて痛感した。

「MY PICCOLO」(NEXT WAVE EJD−3080)
宮沢昭

 出た当時、ネクストウェイヴというレーベルの作品はどれもこれも面白かった。メンバーやタイトルなどの予告を見るだけでわくわくするような期待感があるものばかりだった。しかし、本作は買わなかったのです。なぜかというと、たしたどこかのジャズ喫茶で新譜でかかったのを聴いたときに、あ、これは俺が買わんでええやつやな、と思ったからである。もちろん学生で金もなかったので、欲しいレコードも優先順位があり、こういう「真っ当なジャズ」はどうしても順位の下のほうへ下の方へ……ということになる。まあ、この手のやつはジャズ喫茶のどこかの店が仕入れてるだろうからそこで聞けばいいや、という気持ちだったのだ。今はそんなこと状況としてありえないのだが……ま、それはそれとして、だから本作はめちゃくちゃ久し振りに聴いたのです。いや、もうなんにも覚えてなかったなあ。ほぼ初聴状態である。でも、すばらしいです。宮沢昭のリーダーアルバムでしょうもないものを聴いたことがないが、本作もほんまにええなあ。ライヴなのだが、ライヴとは思えないほどいろいろな意味で細かいところまでコントロールされたプロの演奏だ。お見事というほかなく、ただただ聞き惚れる。宮沢昭の魅力のひとつに、艶やかで太い、真似のできないトーンがあるが、この音色で、しかもめちゃめちゃ上手いのに流暢というよりもごつごつした武骨なノリがあるこのアーティキュレイションがもうなんともいえん。ロリンズ、といってしまえばそれまでなのかもしれないが、そんな単純な話ではない。とにかく単に「歌う」というだけでなく、もっと前衛的なものに挑戦しているようなフレージングだと思う。宮沢昭が前衛、と書くと、はあ? おまえはアホか、と言われそうだが、前衛というか、ストックフレーズを順番に出していくだけのプレイヤーとはちがい、つねにひとフレーズひとフレーズにチャレンジがある。なにか新しいものを吹こうという気持ちが感じられるのです。でも、その場をぶっ壊すような過激なことはなく、あくまで歌う範囲内でのことだが、でも、高みを目指そうという思いがずっと込められていて、それがこの新鮮さを生んでいるのだろうと思う。これは誤解を承知で書くのだが、フレージング的に川下直広さんとの共通点も感じる。これはロリンズつながりなのかなあ。共演者も最高で、とくに井野信義のベースは要所要所で主役または準主役としてまえに出てきていて、演奏をぐっと引き締めているし、バッキングもうねるような音でぐいぐいとバンドをドライヴさせていてめちゃかっこいい(4曲目は稲葉国光との2ベースで5曲目は稲葉さんのみ。この5曲目のベースもすばらしいです)。佐藤允彦のピアノは、何気なくめちゃくちゃすごいことをやりまくっていて、聴きなおすたびに驚愕する。日野元彦のドラムも、適度にアグレッシヴで、細かいリズムにも超テクニシャンぶりが隠れており、このグループにはぴったりである。そしてなによりすごいのが、全曲オリジナルだということと、全曲オリジナルなのにどう考えてもスタンダードでしょう、というぐらいのええ曲ばかりだということだ。というわけで、傑作だと思います。7曲目頭のカデンツァ(?)も入魂だ。ピッコロを吹いてないのに、どうして「マイ・ピッコロ」?という疑問のあるかたはライナーノートを読んでください。