mn

「無理難題」(DOUBTMUSIC DMF−153)
MN

 ノイズにはまったく詳しくないが、それでもけっこうな数を聴いているような気もする。先日大友良英さんが「題名のない音楽会」で、ノイズについて考えると、結局、音楽ってなにか、ということについて考えざるを得なくなる、という主旨のことを言っておられたが、全くそうですね。ノイズは、耳ざわりな雑音だからかっこいいのか、雑音のなかに「美」を見出すという聴き方がいいのか、それとも雑音は雑音としてとらえてこそノイズなのか、案外ノイズってかっこよく聞けるねえ、なのか、アナーキーで神経かきむしられるところがいいんだ、なのか、この世にノイズなんて存在しないすべての音は平等だ、なのか……たぶんこれは結論は出ない。というのも、ノイズの世界も多種多様だろうからだ。で、ここに収められた非常階段のT・美川さんとダウトの総帥沼田さんによるノイズデュオは、全体でひとつのノイジーなオーケストレーションを構築する、というより(もちろんそういう部分もあるけど)、ふたりによるフリーインプロヴィゼイションっぽい展開……もっとシンプルにいうと「掛け合い」的な演奏が多くて、ノイズ初心者の私にも楽しく聴けた。というか、めちゃくちゃかっこいいし、大笑いできる。なぜ、これを聴いて笑ってしまうのかは自分でもよくわからないが、最初に聴いたときは冒頭から大笑いしてしまい、そのまま最後まで笑いっぱなしだった。たとえばエルヴィン・ジョーンズのドラムを聴いていて爆笑してしまう感じ、といったら当たらずといえども、いや、たぶんかなり遠いな。で、このアルバムを聴いて気づいたのは、ノイズにもこんな風にブロウというか、フリージャズのサックスのように音を伸ばす感じのキメがすごく心地よい、ということだ。ぐじゃぐじゃなクラスター的な部分のなかから、ここぞというときに高音の伸びた音がびゅーん! と飛んでいくのは、サックスのフラジオのように「おおっ、かっこいい」と感じさせるものがあった。これはたぶん、このふたりがそういうベタな感じも心得ているからなのでしょうね。そしてもちろん、ちゃんとフレージングというものがあって、よく聴くと、非常にジャズっぽく聴ける部分もあったりする。音色もリズムも多種多様でバリエーション豊富で、ダイナミクスもすごくて、ドライヴ感もあって、それをちゃんと操れるひとによる大人の演奏だなあとも思った。ノイズという世界は、なるほど、それぞれの奏者の個性をバーンと出せるという意味では、フリーインプロヴィゼイションと似てるなあと思ったりした(奏者にとって予想外の音が出て、それにも反応していく即興感なんかも)。このリズムというかグルーヴというかドライヴ感をわかれば、あとは大丈夫。いやー、すっかり気に入った。これは相当面白い。あまり身構えずに聴いてもちゃんと音楽として楽しめるし、ある意味エンターテインメントだなあと思った。ええ刺激をもらったです。

「LIVE MN」(DOUBT MUSIC DMF−166)
MN

 ダウトミュージックの沼田社長と非常階段のT.美川によるノイズユニットmnのライヴをすべて録音して、そのなかからこれはというテイクを集めたアルバムらしい。タイトルの「LIVE mn」は「ライヴ・モツ煮込み」と読むらしい。ノイズミュージックのことはあまり知らないが、このグループ(デュオ?)は好きで、前作の「無理難題」もめちゃ面白かった。でも、今回「mn+mnk」というアルバムも同時発売で出たので、さすがに両方買えず、迷いに迷ったすえ、こちらを買ったのだが、聴いてみて大正解でした。8曲収められているのだが、どの曲も密度が濃く、ノイズならではの原始的な快感もドーンとあるのだが、即興デュオとしての対立・協調の交歓という楽しみもドーンとあって、最初は鉄工所で溶接やプレス機の音とか、道路工事のズダダダダという音とか、建設現場のドリルの音とか、バイクの音とかとおんなじような感じに思えているのだが、驚くほど短期間にそれになじんでしまい、聴いているうちにだんだんエヴァン・パーカーとハン・ベニンクとか、ブロッツマンとハミッド・ドレイクとか、いや、モンクとコルトレーンなんかを聴いているのとそれほど変わらない感じで浸っている自分に気づく。結局、ノイジーな部分は慣れてしまうとそれが「その世界の共通言語」になってしまうのだが、あとはそこで音楽的なやりとりが緊密で高度でかっこよく個性的であるかどうかなのだ。ドラムもいないのだが、グルーヴもスウィングもあるし、ビート感もある。たぶん、ノイズのチョイスのセンスが鍵を握っているのだとは思うが、そこは素人なのでよくわかんないっす。でも、シンプルにかっこよくて楽しいのです。そして、何度も聴きかえすことが可能な、エンターテインメントとしての側面も十分にあることは私でもわかるのであります。どう考えても自分になじみのある音楽で、なんの抵抗感もないのだが、それは私がノイズの本質をわかっていないからなのだろうか。

「2015114@MORGANA」(DOUBT MUSIC)
MN

 mnのCDを買ったらオマケでついてきた非売品のCDRだが、これもアルバムに収録されているのと比べてそん色のない演奏で、とても良かった。20分もあるので、ものすごいお得感ある。