「HYDRO 2」(NO BUSINESS RECORDS NBCD113)
LIUDAS MOCKUNAS
リューダス・モッコナス(と読むのか?)のサックスソロ(ライヴ)。いやー、これはええわ! 使用楽器のところに「ソプラノ、水に浸けたソプラノ、水につけた、キーのない倍音サックス、パーカッション」とあって、なんじゃこりゃ、と聴いてみたら、まったくそのとおりの演奏で、いきなり1曲目冒頭から水に突っ込んだソプラノサックスのぶくぶくいう音が延々続く。そのあとも特殊奏法の連発で(スラップタンギングものすごく上手い)、それを自由自在に組み合わせて音楽を構築していくから、滅茶苦茶面白いし、ひとりでやっているとは思えない。46分ある、途切れ目のない(ともいえないのだが)即興演奏1曲だけが収録されている。ものすごく表現の幅が広く、引き出しが多いので飽きない。これはすごい。エヴァン・パーカーやジョン・ブッチャーとはちがった鉱脈である。ものすごいスピード感もあり、技術力もすごく、それらの技術やアイデアを即興的に結び付けて机上の楼閣を積み上げていく手際もすばらしい。まさにひとりオーケストラだ。こういう音楽を聴くのが生きていく糧なのである。しかも、水に突っ込んで吹くサックス奏者(トランペットのひともいる)はけっこういるが、このモッコナスはそれをただのパフォーマンスとしてではなく、必然性のある効果として使いこなしている点がすごい。アルバムタイトルが「ハイドロ2」であることからもそういうこだわりが伝わってくる。変態的な奏法やフレーズとオーソドックスな奏法、フレーズを織り交ぜながら音楽をつむいでいく凄みは圧倒的である。36分あたりで急に咳き込む場面があり、それもしっかり録音されているのも面白い。録り直ししようとか思わなかったんだろうな。素敵です。ラストに向かって凶暴なまでのグロウル奏法が展開するのも超かっこいい(掃除機がぶっ壊れたみたいな音です)。傑作。
「IN RESIDENCY AT BITCHES BREW」(NOBUSINESS RECORDS NBCD 140)
LIUDAS MOCKUNAS
めちゃくちゃ傑作なので、本作を聴かなあかんよ! と各方面(?)に声を大にして言いたい。いやー、ジャズ史に残るような傑作ではないか、と個人的に思います。テナー、ソプラノ奏者のリューダス・モツクーナス(と発音するらしいです)が単身来日してビッチェズ・ブリューでいろいろなゲストを迎えてのセッションから5曲をチョイスしたライヴ。いずれも長尺で、手応えのある演奏。1曲目はモツクーナスのソプラノと坂田明のクラリネットのデュオ。なんとも自然発生的な、奇をてらったところの微塵もない、素直な演奏だろう。あいかわらずモツクーナスのタンギングはめちゃくちゃ上手い。後半、タンギングの妙技が炸裂する。フルートみたいな息の音とリアルトーンを交互に吹くところなどびっくりするような表現力である。ふたりとも楽器の鳴りや音色がすばらしく、録音の良さもあって、それがダイレクトに伝わってくる。最高。2曲目は纐纈雅代のアルト、モツクーナスのソプラノのデュオ。モツクーナスは「ウォーター・プリペアド・ソプラノサックス」という表記のとおり、(たぶん)水にソプラノのベルを突っ込んで演奏していると思う。纐纈の幽玄なアルトソロではじまり、そこにモツクーナスのノイズ的でパーカッシヴな音がからみつく。この演奏も、楽器の鳴りや音色がすばらしいのでめちゃくちゃ説得力がある。即興デュオとして、これ以上の密接な交感はない、と思うぐらいすばらしい演奏。いやー、これは凄い。3曲目は梅津和時とモツクーナスのソプラノのデュオ。梅津さんはバスクラにはじまり、ソプラノ、クラリネット、アルトを駆使している。テクニックの開陳に終わっているような演奏ではもちろんないのだが、テクニックというものが表現力にいかに直結しているか、ということを考えさせられる演奏。ふたりとも圧倒的なテクニックで、それが聴いていて素直に身体に入ってくる。理想的な即興だと思う。いやー、しかしモツクーナスのタンギングは凄いなあ(低音域でのフラッタータンギングによるノイズみたいなやつは超かっこいい)。梅津さんはもちろんだが。後半の「タンギング合戦」みたいなやつは異常に盛り上がるが、これはちょっと真似できんよ! 呆然自失、という言葉がぴったりの演奏で、私はひたすら感動しまくりでした。凄すぎて言葉が出ない。ラストは信じがたいほど異様に盛り上がる。即興系の管楽器デュオの極北ではないか、とまで思いました。4曲目は管楽器だけではなく、大友良英のギター、梅津和時のバスクラ、ソプラノ、アルト、モツクーナスのテナーという編成。美しいバラード風にはじまるが、すぐにそれが歪み出す。テンションがずーっと高く、それがさまざまなヴァラエティ豊かな場面を作り出し、手に汗握るような展開が続く。サックスのふたりは循環呼吸を駆使しての強烈な演奏。とにかく「まぜこぜ」という感じの凄まじい即興。梅津さんはこういう循環をひたすら続ける、みたいなアプローチはあまりしないような印象があるのだが、そうでもないのだな。ここでは命を削るみたいな切迫感が感じられる。後半はけっこうアコースティックというか「フリージャズ」という感じの演奏になり、めちゃくちゃかっこいい。梅津さんのバスクラ、大友さんのギターのカッティング……。そこからフリーバラード的になるが、このあたりの展開はすばらしいとしか言いようがない。三人の絡み合いは予定調和がどうたらこうたらといったことを吹き飛ばすような説得力がある。こういうのをやりたい……とリスナーに思わせる演奏だと思う。ラストの5曲目は林栄一登場で、坂田明、林栄一、モツクーナスのサックストリオである。いきなり坂田明の「大漁節」の民謡ヴォーカルで幕を開ける。リューダス・モツクーナスのリーダー作、しかもこのシリアスな演奏の数々のエンディングがこれでいいのか、という意見もあるだろうが……いいのです! 林栄一とモツクーナスが循環呼吸で曇天のようなノイズを延々と奏で、それをバックに坂田明が狂気のヴォイスを振りかざす。これでいいのだ! そして、3人による木管楽器の変態的奏法のかぎりをつくしたような凄まじい展開になるが、あまりに音楽的なので(個人的には)どひゃひゃ……と笑っていたらいつのまにか正座して聴いている、という感じである。この感動は木管楽器のひとならたぶんわかってくれると思うが、なんというか……アイスクリームの海にひたりながらアイスクリームを食べているような気持ちなのである。クラリネット〜サックスってこんなこともできてしまうのですよ! と空に向かって叫びたい。いやー、全曲アルバム化してほしいですね。傑作!